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November 13, 2009

日本の地方空港の存続問題を考える

日本航空の経営危機をきっかけに日本航空による地方航空路線に依存した松本空港の存続問題がクローズアップされている。私はこの問題に対する中長期的考え方を以下の通り提示する。

(1)全国の地方空港をネットワークする新会社を設立

2009年10月17日の信濃毎日新聞の報道で、奥志賀、北志賀のリゾート会社から投資会社が撤退するという記事に接した。投資ファンドは「逃げ足が速い」と言われているが、リゾート運営から僅か4年間での全面撤退がそのことを物語っている。短期的に資金回収を目指す投資会社特有の性質が如実に表れたと言いうるのかもしれない。

私はふと、同様のことが日本航空の地方航空路線維持に対する姿勢にも表れているように思われた。日本航空は、10月14日、長野県に対して比較的利用率の高い札幌線を含め、大阪便、福岡便の3路線を全て廃止したいと伝えたと報道されている。

日本航空は国際線をベースに発展してきた航空会社だ。それがJASとの統合により地方便も運営することになった。経営が順調な時ならばともかく、全体の収益に問題が生じるようになると、不採算の地方路線を切り捨てにかかる。日本航空は、経営という観点からはやむを得ない選択だとして撤退方針を示したのであろうが、松本空港を利用する企業や観光業界からは悲鳴に似た声があがる。特に地元経済界からの声は深刻である。これまで松本空港整備に膨大な投資を行ってきた行政当局も真っ青である。

現在も高速鉄道網から隔絶された松本地域が、空路からも断絶されることになると、今後の企業立地、研究機関誘致、人材誘致、国際観光地域としての今後の発展にも大きな阻害要因となることは必定である。

一方で、松本空港は地理的、運用上のハンディキャップがあると言われている。空港周辺が山に囲まれているため計器着陸装置が十分に機能を発揮できないため松本には設置されておらず、視界が悪い場合にの欠航率が高くなっている(07年度の就航率95.5%は定期便就航87空港中65位)。日本で一番標高が高い場所に所在するため空気が薄く、2000メートル滑走路があっても大型機の離陸ができないハンディがある。航空機の騒音レベルに関し地元との協定が存在し、ジェット機材の就航に大きな制約があり、現在はプロペラ機の就航になっている。空港の運用時間が一日8時間というのも大きな制約となっている。松本空港の機能を最大限発揮させるべき地元の姿勢にも問題があるようである。

さて、松本空港をはじめとし、地方空港のあり方を考えていく大きな方向性を議論していかなくてはならない。これからの地域振興は定住人口が減少する中で交流人口を確保していくことが必要となる。交流人口確保の基盤は交通インフラの充実である。空路による地域間交流が地域振興にとって重要な要素になりうる。実例もある。平成19年、それまで1日2往復だった新潟─福岡路線廃止の意向をANAから受けた新潟・福岡の両県は、「新潟・福岡交流促進協議会」を設立し、福岡県では新潟県の「下駄総踊り」や「古町芸妓」を宣伝する一方、新潟県では福岡県の「博多どんたく」や「祇園山笠」をPR。この地道な活動が功を奏し路線廃止を切り抜けた経緯がある。

2010年に完成する羽田空港新滑走路の存在も大きい。滑走路が完成すれば国内線の発着枠も増える。この増便は地方空港には大きなチャンスとなりうる。

ところで、私には航空会社そもそもについてのアイデアがある。全国の地方空港を結ぶ路線を運営する航空会社を地元利益を重視するマインドのある運営主体により運用すべきではないか、ということである。国際競争の中で生き抜く会社と地域経済と重視する会社とは生き方が異なるはずである。ちょうど、国際業務を行う金融機関と国内業務のみを行う金融機関の自己資本比率に差があるように、航空路線の性格毎にそれを維持する航空会社の有り様に差があってもよいのではないか。

全国の地方空港を全国的視野に基づきネットワークで結ぶ発想で、例えば全国の地方自治体などが出資し、「全国地域間航空会社」とでも呼ぶ航空会社を設立し、全国の地方空港、更には隣国を結ぶ路線を設定していくことが考えられる。ちょうど静岡空港開港に合わせ、フジドリームエアーライン(注1)という会社ができているが、地域振興を前面に出した地方空路ネットワーク確保を目的とした仕組みを作っていくことで、国際経済の大波にも耐えられる元気のある地方空港の在り方を考えていくべき時期ではないか。国はそのための資金を確保すべきであるし、地域の住民自らが地域を元気にする観点から出資してもよい。自らの航空会社として住民が親しむことで利活用も活発となりうる。

既に出来上がっている地方空港のストックを無駄にせず、内需拡大の起爆剤とし、地域を元気にしていくための前向き思考が求められている。

 
(2)羽田空港と松本空港をつなぐ空路の可能性を阻む横田空域という見えない壁

日本航空が県営松本空港の定期路線からの撤退方針を示している問題に関し、10月24日付けの信濃毎日新聞は村井知事が松本空港と羽田空港の間の定期路線開設の可能性に言及したことが伝えられている。村井知事は「羽田に直行で行けたら、飛行時間も30分程度で済むのではないか。県内でも最も便利な場所になる」と指摘された由。

松本空港の存続は、羽田空港との接続が究極の解決策であることは識者の間では暗黙の前提であった。実は、1965年の松本空港開港当初から、羽田空港との路線を開設しようとする動きがあったが、空域の制約などから迂回ルートとなり採算が望めないという理由で開設に至らなかった経緯がある。

日本航空の経営難による路線廃止の議論が浮上したことで、改めて松本空港をはじめとする我が国の空港が置かれている環境と日米の安全保障上の関係がクローズアップされることになった。

村井知事の考えを実現するためには、米軍横田基地が管制業務を行う「横田空域」を回り込む必要があり、時間短縮効果を得るためには横田空域の我が国への返還が不可欠となってくる。

防衛白書によると、通称「横田空域」と呼ばれる管制区は、1都8県におよぶ広大な空域の航空管制を横田基地で行っている(注2)。この空域は1992年に約10%が返還され、高度約7000m~約3600mの6段階の階段状の管制空域となり、更に2008年には横田空域の南半分のうちの約40%、横田空域全体では約20%が日本側に返還され、一部返還後の横田空域の南半分は高度約5500m~約2400mの5段階の階段状となっている。これは羽田空港の4本目の滑走路が供用開始される2009年末に間に合うように行われた措置である。

この空域は米空軍の管制下にあり、民間航空機であってもこの空域を飛行する場合は米軍による航空管制を受けることになる。この場合、「事前協議」により飛行経路を設定する必要があり手続きが煩雑なため、羽田空港を離発着する民間航空機は同空域を避けるルートが選択されているのが現状である。羽田空港や成田空港から西日本・北陸方面へ向かう民間航空機の飛行ルートの障害となっているため、航空路が過密化する要因の一つとなっていると言われている。

実はその最大の「被害者」は松本空港であり、路線の設定すらできないことになり、結果的に飛行場存亡の危機に見舞われることとなっているのである。

東京都は、石原知事がこの問題を取り上げ、横田空域の返還運動を展開してきている(注3)。東京都は、横田空域について、「広大なエリアに広がっている」、「飛行ルートの設定の障害」、「航空路の過密化を招いてる」との認識を示し、空域返還により、「需要に応じた空域の再編が可能」、「新たに多様な飛行ルートを設定することができる」、「首都圏の空の過密が緩和」といったメリットを掲げている。

我々が羽田空港や成田空港を利用する際に、何故か房総半島を大回りして離着陸する不可思議を味わってきたがその原因が横田空域にあったのである。

現在は沖縄の普天間基地の移転について大きな政治問題となっているが、日本の安全保障の在り方の議論の中で、地域の振興のために横田空域の在り方をどのように考えていくのか、戦後60年以上を経過し首都を囲む日本の空域の重要部分が引き続き米軍の管理下にある現状、そのことが日本の地域振興の阻害要因となり日本経済発展の支障要因となっている現状をどのように考えていくべきかも大きく問われている。

そして松本空港存続のカギもこの問題の議論の帰趨に関わっているのである。

(注1)フジドリームエアラインのホームページ
http://www.info.fujidreamairlines.com/company/vision.html 

(注2)平成21年度防衛白書の図表III-2-2-13 参照。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2009/2009/html/l3222300.html

(注3)横田空域返還を訴える東京都のホームページ
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/kiti/kuiki/kuiki.htm


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