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June 26, 2008

英国監視カメラ(CCTV)社会の実際

英国では、CCTVという言葉が一般に通用する用語として定着しています。世界に4千万台設置されているとされているCCTVの実に10分の1とも言われる台数が英国に設置されているとも言われています。

CCTVはClosed-circuit television(有線テレビ)の略称であり、防犯用・監視用に幅広く使われています。英国セコム社長の竹澤稔氏は、1日ロンドンを歩くと、300回くらいはCCTVに撮影されていることになるとおっしゃっておられます。180pxthree_surveillance_cameras

英国では、CCTV カメラの設置は警察当局と地方自治体の双方の責任となっており、多くの地域で、両者は密接な連携を行っています。1990 年代には、CCTV カメラの設置を希望する全ての地方自治体に対し、内務省が補助金を拠出していました。当時、北アイルランドのカトリック系武装組織であるIRA(アイルランド共和軍)によるテロ事件が発生したり、子供の誘拐事件が大きな注目を集めたことなどで、CCTV カメラの設置は人々の支持を集めるようになった経緯があります。

これだけの監視システムがあるのだから、英国の犯罪抑止は相当進んでいるのかと考えがちですが、実は最近行われたセキュリティ対策(安全対策)に関する会合で、警察幹部が、CCTV カメラの犯罪抑止効果を否定する発言を行い、物議を醸しています。

2008 年4 月にロンドン市内で行われたウェブサイト「セキュリティ・ドキュメント・ワールド」12の主催する会合で、ロンドン警視庁の「視覚映像・身元識別・検出局(Visual Images,Identifications and Detections Office; Viido)」の局長であるミック・ネビルし捜査部長が、「CCTV カメラでは、裁判で容疑者を有罪に持ち込むのに十分なほど質の良い映像を撮ることができず、その結果として、犯罪抑止効果をもたらすことにも成功していない。英国におけるCCTV カメラの利用は、膨大な資金の無駄遣いとなっている」との発言を行っています。

ネビル捜査部長は、「ロンドンで発生している路上強盗事件のうち、CCTVカメラの映像が証拠として使われ有罪となる割合はわずか3%に過ぎない」とし、「CCTV カメラの設置に巨額の費用が投じられている一方、カメラで撮影された映像を警察がどのように使うのか、そしてそれらが裁判でどのように使われるのかについては全く考えられていない」、「人々(犯罪者)はどうして、CCTV カメラの存在を恐怖に感じないのだろうか?それは、彼らがCCTV カメラには効果がないと考えているからだ」と述べたが、その発言がマスコミでも大きく取り上げらました。

ネビル捜査部長は、また、CCTVにより実際に監視を行う警察職員の立場に立った現実的な立場から、「CCTV カメラの映像の監視を行う警察職員は、より多くの訓練が必要とされており」、「CCTV カメラの映像監視は、退屈な仕事であるとして回避されがちである」という現場の事情も紹介していました。

さて、一般的にはCCTVの設置台数が異常に多い割には、その機能自体に対しては疑問の声も出ている英国ではありますが、CCTVを実際のサービス向上に生かしている日本の企業が英国にはあります。セコムPLCという英国セコムです。

過日、サリー州ケンリーにあるセコムPLCの本社に竹澤稔社長を訪ね、英国のセキュリティ分野のビジネスの内容について興味深いお話を伺う機会がありました。竹澤社長によると、英国の一般の企業とは異なり、警報器の販売ではなく、警報器の設置と防犯サービスを的確に結びつけ、市場の信頼を勝ち得ている活動の実態をうかがうことが出来ました。CCTVによる犯罪の検挙率が3%との上述の記事についても、「よほど重要な事件でもない限り警察が実際にCCTVをチェックするまでには至らないことによる」、というマンパワーの問題を挙げ、極めて的確な指摘のように思えました。そのような英国の防犯実態のなかで、日本流のきめの細かい正確で親身なサービスを売り物に、5万人の顧客を抱え、英国内に食い込んでいるセコムの防犯業務の概要を伺うことが出来ました。

英国における防犯装置業界の歴史は古く、マーケットには多くの企業がひしめいている中で、英国セコムは、英国の地元企業買収などにより16年前くらいから英国に進出しましたが、2001年から社長が日本人の竹澤氏に代わり、営業利益を黒字化させ、現在の売上は80億円に超えているのだそうです。セコムPLCの顧客のうち、75%は企業、25%は一般。英国における優秀な警備会社を表彰する「セキュリティ・エクセレント・アワード」を受賞し、ロンドン警視庁の警備を担当するなど、警察からの信頼も厚いという話です。

日本と英国における政府の防犯対策の大きな違いの一つとして、日本では防犯装置が作動した場合、民間の警備会社が自前の緊急車両で現場急行・事件発生の確認をした上で警察への通報を行なうのに対し、英国では防犯装置の作動は事実確認がなされないまま機械的にすべて警察に通報され、警察が直接現場へ駆けつけることになってことがあげられるのだそうです。 その理由は、約百年前に防犯装置が発明されから、防犯装置は今日まで「機械装置」として市場に販売され、警察が出動を始めた当時はここまで誤報が多発するとは想定できなかったという歴史的経緯があるようです。今ではその経緯により、警察は随分と苦労しているようです。これに対し、日本では常に「サービス」として提供され、防犯装置は、そのサービス提供の道具でしかないという位置づけをしているのです。

英国における防犯の所管官庁はACPO(Association of Chief Police Officers)ですが、全ての防犯装置の反応へ対応するのではなく、以下の2つの縛りを設けているのだそうです。
① 異なる2つの種類の警報器(ガラス破壊センサーと空間センサーなど)が二重に作動した場合についてのみ、出動を行なう。
② Three strike out。つまり誤報が3回あった場合4回目からは出動しない。

このように、英国の警備会社は防犯装置の販売のみを行なうのみであり、後は警察にお任せ、というのが基本であるに対し、セコムは、CCTVでの監視に加え、防犯装置が作動した場合、オーナーへの連絡や、警察の初動対応の下準備のため鍵を持参し現場へ駆けつけるなど、ソフトの防犯サービスを提供していることで競争力をつけてきたようです。 防犯装置の販売だけでなく防犯サービスそのものを提供するというセコム方式は、韓国や台湾等のアジアにおいても取り入れられてきましたが、英国においても、警報器が鳴った際の初動対応は警察が行なうとされてはいるものの、実際には、上述のように警察の対応にも制限があったり、警察の十分な対応は期待できないため、セコム方式の防犯サービスの提供は英国マーケットにおいても歓迎されているということです。
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セコムでは、CCTVを使って、次の付加価値をつけた2つのサービスを提供しているのだそうです。 このシステムにより実際の犯罪抑止、犯人検挙の実もあがっており、検挙率3%という英国の実態が、ハードとソフトのシステムの組み方の問題であるとの竹澤氏の見方が妥当していることを物語っています。
① SECOME Vision:CCTV設置場所に不審者等が侵入した場合、モニターで監視の上、オペレーターがその現場の不審者にリアルタイムで警告を行なう。
② Vision Guard:レンタルビデオ店などにおけるCCTV監視。不審者を発見した際など、店員がボタンを押せばオペレーターが警告を行なう。店員による内部着服等を防ぐ副次的効果もある。

英国セコムは、英国での実績を買われ、ロンドン警視庁から、ヒースロー空港の最新ターミナルやユーロスターの発着駅であるセントパンクラス駅の警察施設のシステムも受注しており、人知れず日本の警備面のソフト技術が英国に浸透しているのです。自動車や精密機械などの製造業だけではなく、安全を売り物にするサービス業分野でも日本のノウハウが世界に十二分に通用することを、日本人自身がもっと知っておくべきだとの意識を強くしまいた。日本人の丁寧さ、周到さ、といった特性は、サービス分野の国際競争力を十分に持つということなのです。

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