ロンドンの北京五輪聖火リレー
ロンドンで4月6日、北京五輪に向けた聖火リレーが、ロンドン西部のウェンブリー・スタジアムからロンドン中心街を通り、ノース・グリニッジのO2スタジアムまで行われました。
ロンドンは2012年の次期夏季五輪開催地ということで、当局にとっては特に気を使った聖火リレーとなったはずです。BBC等の報道によれば、開始直後からリレーを阻もうと沿道から次々と飛び出す人たちをかわし続けながら走るリレーとなったようです。
私も、そうそうお目にかかれない機会なので、ピカデリー・サーカスとトラファルガー広場の聖火リレーの模様を見物に行きました。私が見ている場所では、聖火リレーを妨害しようとするグループにはお目にかかりませんでしたが、中国国旗を振る圧倒的多数の中国人北京オリンピック・サポーターの波の中に、少数のチベット問題をアピールしようとするグループが確かに目についたという感じでした。
トラファルガー広場では、喧噪のなかで、噴水の段の上によじ登ったチベット運動家がスローガン(Stop Killings in Tibet)を掲げて抗議の姿勢を示したところ、中国人の一人がその運動家に襲いかかり、噴水の水場に落とし頭を小突いているのが目に入りました。それに対し周囲にいた人が抗議の声を上げたため、その中国人はそれ以上の追撃を止めたというシーンが印象的でした。
その後、そのチベット運動家を囲み、チベット派と中国派が互いにそれぞれの旗を振り、スローガンを掲げ、揉み合いになるというシーンが続きました。警察は周りを囲むだけで介入しようとの姿勢はありません。
その後、テレビニュースで聖火リレー妨害のシーンを目にしましたが、その際の警察の妨害行動排除の様は、断固としたものであることが分かりました。警察の警備は、相手の行為の合法、違法の如何により明確に使い分けているように見受けられました。
中国人のサポーターは、身なりの清潔なインテリ風の若い人が多いように思えました。おそらくロンドンなどに留学している中国人なのでしょう。それにしても彼らの熱気は、日本の若い人には無い高揚感というか、ある意味のナショナリズムの息吹を感じざるを得ません。彼らの雰囲気は、「せっかく国を挙げてのお祝い事をしているのよりによってこのような時にチベット問題を取り上げ妨害しようとするなんてけしからん」というもののように感じられます。ロンドンですらこのような雰囲気なのですから、中国本土では、物凄いエネルギーなのだろうと想像します。
一方のチベット派は、この問題を国際社会にアピールする絶好の機会ととらえているのでしょう。4月4日のタイムズ紙が、この問題に絡み、アンディー・バーナム文化担当大臣の発言を取り上げています。「オリンピックはホスト国にスポットライトが当たる。そのことはよいことだが、同時に不愉快なこともある。それはその国の中で起きているあらゆることを照らし出すことにもなるからだ。」
今回の聖火リレーは、その言葉がまさに妥当する事態となったわけです。「聖火、英国にチベット議論を持ち込む(Torch carries Tibet debate to UK)」というBBCのニュース記事は適切な記事だと思います。
家に戻ってから、本日のサンデー・タイムズを読んでいると、自然にコラムニストのサイモン・ジェンキンス氏の記事に目が向きました。オリンピック聖火リレーの絡めてのオリンピックと政治の関係に関し鋭く切り込んだ記事です。
ジェンキンス氏は、聖火リレーはIOCの公式行事ではなく中国政府が主催であること、もともと聖火リレーは1936年にヒトラーが思いついた仕組みであったこと、スポーツを政治に絡めているのはチベット派ではなく中国そのものであること、その理由は聖火をエベレストの頂上からチベットのラサにタッチダウンさせる企画はエベレストもチベットも中国の一部である、ということを政治的に強調することにあるからだ、という主張を展開していました。
これらの記事が示唆するように、チベット問題に関する議論が、英国で巻き起こりそうな予感がします。
なお、ロンドンの聖火リレーに関しては、知り合いの朝日新聞のロンドン支局土佐茂生記者他が同様の記事を配信していたのが目にとまりました。しかし、その見出しにある「ロンドン騒然」というほどではないように思われました。私の目から見ると、ロンドン警視庁の警備も、状況を使い分けながらの「余裕の警備」のように思われました。
ところで、日本の新聞も、表面的な観察だけではなく、サンデー・タイムズのコラムのように深く切り込んだ解説を読者に提供していただきたい気持ちになります。とにかくこちらのクヲリティー・ペーパーは、ページ数が多いことはさておき、読んでいて目の鱗が落ちる記事が多いように思われます。民主主義を支える言論の質もどうも高そうです。
さて、日本は、ロンドンオリンピックの後、東京オリンピックに立候補しています。1012年の東京で、ロンドンオリンピックの聖火リレーを是非見てみたいものです。その時は、日本はどのようになっているのでしょうね。
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Comments
1964年の東京五輪の中国がボイコット(理由は台湾問題)は知っていましたが、開会式当日に合わせての「核実験」まで行ったとは知りませんでした。http://yinguo.iza.ne.jp/blog/entry/529445/
当時の中国はまだ「混乱期」にあったとはいえ、一時の感情の爆発により、ほかの国に嫌がらせのようなことをするとそのことが歴史的事実として歴史に刻まれ自分自身に降りかかることもあるのだということを自省してほしいですね。おそらく公式には絶対に誤りは認めないのでしょうが。
いずれにしても少なくとも他山の石として自らの行動を律するようにはしたいですね。
Posted by: むーさん | April 25, 2008 03:21 PM
中国は東京オリンピックの時、ボイコットしただけでなく、期間中に核実験を行い日本を恫喝しました。
Posted by: mama | April 18, 2008 10:57 PM