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March 10, 2008

一国二制度のオーランド諸島

以前、フィンランド大使の経験がおありの長谷川憲正参議院議員から、フィンランド政府の中にありながら、自治政府の立場を認められているオーランドのことを伺った記事を書きました。

その長谷川代議士のお話を要約すると次のとおりです。

・地方分権でこそ地域が活性化する典型例がオーランド諸島の自治の経験だ。
・オーランド諸島は、バルト海、ボスニア湾の入り口に位置するフィンランドの自治領の島々。スウェーデンとフィンランドの間海にあるオーランの領有をめぐり両国の間に紛争が起きた(1921年)。
・時の国際連盟事務次長の新渡戸稲造がこの紛争を、「新渡戸裁定」をもって収めた。オーランド諸島はフィンランドに属するが、公用語はスウェーデン語とし、フィンランドの軍隊の駐留は認めず自治領とする、というのがその裁定。
・スウェーデンに郷愁を感じていた当時のオーランド島民にとって、その裁定は余り評判が良くなかったが、90年近くたった現在では、スウェーデンに属さず、フィンランドの自治領になったことが結果として自分たちで物事を考え決定することにつながり、地域は大いに活性化し、欧州の中でも選りすぐりの経済的豊かさを享受する地域となっている。
・独自の法律を施行し、独自の州行政により中央政府のかわりにサービス行うことのできる権利が与えられ、特徴のある教育・文化、公共医療、地方自治、郵便、放送、商工業に関するサービスが提供されている。

長谷川代議士はオーランド諸島の例を引くことで、自治によってこそ経済は活性化することを実例を以て紹介してくれました。

この新渡戸裁定は、オーランドの自治そのものの実現を目的に行ったわけではなく、複雑な歴史と国家間の争い・面子の問題が絡みあい、その島々が接する欧州諸国の国境管理・安全保障上の問題解決を図るための妥協の産物として実現したものであったことは想像に難くありませんが、結果として、自治によって経済が活性化した実例としても取り上げられたのです。

さて、私もこの2年ほど前の問題意識を背景に、2008年3月上旬、スウェーデン訪問の機会に、人口27000人のオーランド諸島の自治政府を訪問してきました。自治政府議会のヨハンソン事務総長、自治政府のマンセン技術センター所長、フータラ財務法律アドバイザー、アケマルク平和機関所長、ヤンソン事務局長にオーランドの現状とその抱える課題を伺うことができました。Rimg0951
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オーランド自治政府の制度面の解説のさわりは次のとおりでした。
・オーランドの自治はフィンランド憲法で保障されており、それを受けオーランド自治法が制定されていること。
・オーランドのオーランド自治政府の下には16のコミューンがあること。
・オーランド自治政府には独自の課税権はないがフィンランド政府の(起債を除く)収入の0.45%をオーランド自治政府に移転する制度があること。
・コミューンの税制度は自治政府が決定していること。
・外交はフィンランド政府の専権事項であるが、オーランド自治政府は意見を提示でき、特別の場合には外交交渉に参加できること。
・フィンランド政府はオーランドの立場を踏まえて外交交渉に臨まなければならないこと、条約の中でオーランドに関係する事項はオーランド議会の承認が必要であること。

また、オーランドの経済面に関しては、海運がオーランドの主要産業でありこれは引き続き重要であるが、ITや観光など中小の事業所が増えており経済は好調であること、その結果島に移り住む人も増えていること、などの説明もありました。

この島に大学はありませんが、オーランド出身者がスウェーデンやフィンランドの大学で勉強した後は、オーランドに戻って仕事に就く人が非常に多いのだそうです。また島には専門的な職業教育機関もあり、ITなど時代の趨勢に合わせた若者教育を行っているのだそうです。

オーランド発展の原動力は、しかし、海運業に付帯する一種の特権の存在が見逃せません。EUは域内に於いては付加価値税を原則的に免除されてはいないのですが、実はオーランドに関しては、この特例が認められ、スウェーデンとフィンランドを行き来する船でオーランドに寄港するものに限って酒などの一定の物品の免税が認められているのです。この集客効果は絶大で、日帰り観光も可能なオーランドは、制度の恩恵をフルに活用しているのです。一般に北欧は酒税が高く、免税のメリットは絶大で、大型の定期客船がこの小さな島に頻繁に行き来しているのです。Farjor

しかし、いつまでもこうした免税措置に関する特別の地位がいつまでも続くことは限りません。オーランド自治政府は、新たな付加価値を生む産業の育成を試行錯誤ながらも実施しているということでした。インキュベータ施設を造り、企業家を育成するというプロジェクトの紹介も受けました。

EUの誕生はオーランドにとっても大きな外部環境の変化であり、オーランド経済への影響も分析しながらEUに対して独自の立場をどのように主張していくのか、日々頭を絞っているとのことでした。このような小規模の団体でも、国際環境に関して情報収集をしている姿には、新鮮な感激を覚えます。

ところで、オーランド自治政府の認識では、スコットランドと英国の関係以上に、オーランドの独立性は高いものという見解でした。スコットランドの独自性は英国議会から賦与されたものであるのに対して、オーランドのそれはフィンランド議会が一方的に剥奪できるものではない、というのがその理由です。

地元出身のアケマルク平和機関所長はスウェーデンのウプサラ大学で勉強した後、子供が3人生まれたので、子育ての環境が整っているこの島に戻って、平和をキーワードにした国際連携プロジェクトを立ち上げているのだそうです。地元に知識人を呼び戻すための環境も整っているのです。彼女からはバルト海を挟んだ近隣諸国との交流、青少年交流など盛りだくさんの事業の紹介を受けました。青年交流に関しては、我々の機関がJET事業という世界最大の国際交流事業を実施していることを紹介すると、興味深げに聞いておられました。オーランド諸島はフィンランドの軍隊の駐留が認められず、謂わば非武装地帯になっているのですが、それにふさわしい平和研究も行われているのです。

新渡戸稲造の出身地である岩手県から数年前に当時の増田知事(現総務大臣)がオーランドを訪問された話も伺いました。日露戦争が契機になってのフィンランドの独立、そしてオーランドの自治政府化、それを裁定したのが新渡戸稲造、ということ背景もあり、オーランドの親日度合いは非常に高いことを感じました。Rimg0955

自治政府議会のヨハンソン事務総長は、これまで自治政府を訪問した日本人の記録を大切に保管してあり、それを見せてくれました。新渡戸稲造が描かれている絵も見せてくれました。そろそろ退職であり、できれば日本を訪問してみたいという希望もおありのようでした。私からは、その際には是非お知らせ頂けるように要請しました。

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