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March 31, 2008

英国の戦争博物館

英国の帝国戦争博物館(Imperial War Museum)の展示内容が充実しているという話を聞いていたので、春めいた3月末の日曜日に、尋ねてみました。

戦争博物館というくらいだから、兵器展示が主たるもので戦勝記念の意味合いが強いのかと想像していましたが、兵器の展示はあるものの印象としては非常にローキーなもので、どちらかというと淡々とした展示でした。Rimg1086

近代において英国の関係した数々の戦争を取り上げ、特に第一次・第二次大戦に関しては国民生活との関連で取り上げられているのが印象的でした。諜報活動の歴史の展示もなかなかのもので、ドイツの暗号エニグマ(Enigma)とそれ解読した技術(ULTRA)の展示箇所では少し時間をかけて眺めました。インターネットの解説も充実しており、博物館から戻ってからも時間をかけて学習が可能です。

展示の中で特に目を引くのはホロコーストに関する展示でした。博物館が最も力を入れた展示のようにみうけられます。欧州に根強いユダヤ人に対する反感の歴史を紐解き、その民衆の反感を巧みに利用したナチスの手法を克明に解き明かしています。過日訪問したチェコのテレジン収容所もアウシュビッツへの中継収容所という位置づけで解説されていました。Iwm_2000_061_008

アウシュビッツ収容所で移送されてきたユダヤ人がどのようにしてガス室に送られたかを、模型展示で解説したものがありますが、思わず息を飲みます。

ナチスのユダヤ人に対する迫害に対して、連合国側の対応(戦争終結を待っての対応)が緩慢ではなかったかとの問題提起もあります。日本政府がユダヤ人にビザを発給して脱出を手助けした解説もありましたが、この支援を「日本政府」が行ったと言ってよいのかは問題かもしれません。杉原千畝氏は外務省の訓令に反してビザを発給し後に処分を受けたのですから。

ホロコーストに関しては、展示もさることながら、インターネット上の解説も豊富です。博物館のネットにリンクされているBBCのプログラムなどは画像でホロコーストの歴史をコンパクトにまとめています。

ホロコーストは民族問題が絡む問題でもあり、指導者育成にも意を払っています。博物館を中心に広いネットワークを形成していることがうかがわれます。

家族連れの見学者が沢山おり、子供のうちから人権感覚を植え付けていく英国の社会教育システムの一端を垣間見た思いがしました。

人道に対する犯罪の歴史の展示もあります。北京オリンピックの関連で注目されているチベットに関しては、共産党による「数百万人の虐殺」という記述に目がとまりました。

原爆被害に関する現物展示が皆無であることに少し違和感を覚えましたが、博物館のネット上で調べてみると資料自体はありました。しかしさらに調べると、アヘン戦争に関する英国の行為に関する資料はネット上にも見当たりません。

どこの国でも自国の加害行為に関する記述は大変難しいものがあるようです。

戦争関連のポスター展示がありましたが、イラク戦争に関するブッシュ大統領とブレアー前首相の関係に関して、ポスター上で痛烈に皮肉っているものが目を引きました。イラク戦争突入の経緯に関して、英国内でも疑問視する人がい多い証拠のように思われました。Rimg1085

私は英国の他にも米国、ベトナム、韓国、チェコといった国々の戦争博物館を訪問しましたが、それぞれに特色があります。

翻って、我が国には、戦争というものを包括的に取り上げた博物館というものがありません。おそらく展示内容を巡って議論百出になり、面倒なことをしたくないということなのでしょう。しかし、人類の将来に間違いを起こさないためにも、我が国が当事者となった戦争の歴史を正面から取り上げる博物館機能は国家として必要であるように思われます。その意味で、英国の戦争博物館の機能には学ぶべきところがあると思います。

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