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January 05, 2008

「市民社会と近隣自治」@「近隣自治」の本質を紐解く理論書

年末年始の休みにまとまった時間が確保できたので、かねてよりじっくりと読みたいと思っていた「市民社会と近隣自治」という小滝敏之千葉経済大学学長のお書きになった大著を読了することができました。

この本の中では、経済システム、市場システムによる競争原理や政府・行政システムによる一律・効率化原理ではなく、地域社会レベルで協力、協働原理を基礎とした社会システムによって今日的な課題を乗り切るほかないとの時代認識に立脚する包括的・体系的な地域社会論・地域自治組織論が展開されています。読後感は、一言で表すと、地域社会論の全体像を見通せたような気分とでも言いうるものです。

これからの社会は、経済的豊かさよりも文化的・精神的豊かさがより重要であり、個人にとっての肉体的・精神的健康性、社会にとっての安全性・安心性・健全性といった価値がこれまで以上に重要となってくるとの認識の下に、環境や資源の有限性を視野に入れた場合に、「互譲と謙抑」の精神のもとに「健全・健康」に満ちた社会を持続的に形成できるのは「地域社会(コミュニティ)」とりわけ「近隣社会」しかないと断言しています。

今日の中央政府の機能不全は言うまでもなく、一方のセクターである市場(マーケット)も、危機的状況においてはかえって投機資金が暴力的な振る舞いをするなど、到底社会システムを十全に担いうる機能を果たしえないことは昨今の状況を見るにつけ明らかです。その中で、安定した社会システムとしての近隣社会の再生、近隣自治の重要性が以前にも増して重要になってきているとの視点が示されています。

社会学の分野では、近年、社会関係資本(ソーシアル・キャピタル)という価値が探求され、地域社会に協力・協働の伝統の積み重ねがある地域ほど経済的パーフォーマンスや教育レベル、地域安全のレベルが高いことが実証されていることも指摘しています。

特にわが国においては市町村合併が推進され「団体自治」が充実強化される一方、そのことが却って「住民自治」を後退させその基礎が掘り崩される懸念が生じているとし、そのような事態を回避するためにも市町村内の近隣社会レベルにおける「近隣自治」をより充実させる方策が不可欠となっているとしています。そしてその中でも、わが国に伝統的な自治会、町内会といった地縁組織に期待し、その能力を引き出す手法の重要性について語っています。

国際比較も行い、近隣社会再生の議論は日本だけに特有な現象ではなく、EU統合が進む中での英国の近隣自治機構である「パリッシュ」重視の政策展開、欧州大陸の近隣政府重視の政策、米国における多様な近隣自治組織の活性化、アジアにおける近隣自治組織活性化の動きなどを見た場合に、同時代的な必然の現象であることも指摘しています。

政府にはそのような認識の下、今日的な視点でコミュニティ政策を展開することが求められているとしつつ、その場合に留意しなければならないことは、「近隣自治」の仕組みを法律で画一的に定めるようなことは不要であるばかりでなくかえって有害になるとし、仮に国法で枠組み形成を行う場合にも、「その自主的形成・展開を支援」し、各地で多様・多彩な「近隣自治」が咲き乱れることが望ましいとしています。

とき恰も団塊の世代が大量退職し、会社組織から地域社会に戻ってゆく時期にあります。この世代の能力、資金力、意欲を地域社会活性化の材料として活用できるか否かが、今後の地域社会再生の試金石ともなってゆきます。人々がグローバルに思考し広域に行動する傾向が強まっているとは言っても、実態的な生活者としては日常生活は地域社会で営むほかはないのです。おまけにわが国が超高齢化社会になればなるほど、この地域化志向は強まります。

この本に書かれていることは、いまこそ今日的な観点に立ったコミュニティ再生策が、わが国の社会の安定にとって極めて重要な鍵となる政策であることを論証し、かつまた幸いなことに、歴史的な経緯からして、また、今日の人々の意識を忖度した時に、その再生がわが国において十分可能であることを論証しています。

現在政府・与党では、地域格差是正策の関連で、コミュニティ再生に関する基本法の制定を検討していると伝えられますが、この本はその背景となっている理論的・時代的背景を十分に説明しているとも言えます。

著者の小滝敏之氏は、「アメリカの民主制」の著者として知られるトックビルの研究家として知られた方であり、アメリカに長く勤務され、彼の地の近隣自治の実際にも詳しい方です。その原体験から発した幅広い研究の成果として、地域再生の鍵は近隣自治にあり、との認識をお示しになられておられます。

私も現在英国に在住し、パリッシュの実際などを調査する機会に恵まれ、また日本においては各地の地域活性化の取り組み事案、安全安心な街づくりの事案などを実地に調査する機会に恵まれました。EUの拡大や地方自治体の規模拡大の流れの一方で、欧州においても近隣自治重視、コミュニティ政策は非常に重要視されており、小滝氏の認識にはまったく違和感がありません。

私の立場でも、今後の地域再生策の最重要政策のひとつとしてコミュニティ政策の必然性を主張し、それを補完する意味で、欧州におけるコミュニティ施策の動きなどについても折に触れ発信していきたいと考えています。

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