矢祭町の議員報酬日当制移行と英国の地方議員報酬制度
福島県の矢祭町では議員報酬を廃止し日当を支給するようになったとの新聞記事に接しましたが、英国では地方議員の議員報酬については、「議員は名誉職」という観点から基本的に給与は支給されていません。
ただし、ロンドン広域を抱えるGLAの議会議員には例外的に給与が支給されているほか、そのほかの地域の地方議員に対して、給与は支給されないものの以下①~③に掲げる手当ては支給されています。なお、従来あった出席手当は現在では廃止されています。
① 基礎手当 - 全ての議員に等しく支払われる。
② 特別責任手当 - 議長やリーダー等の特別の責任を有する議員に支給される。
③ 世話手当 - 議員活動を行うことにより、通常ならば当該議員が行うことのできる子供や扶養家族の世話を外部に委託した場合にその経費を補填するために支給される。
2007年度で実際にどのくらいの手当を受けているかを実例により紹介すると次の通りです。地上自治体の人口が大きくなると額が増える傾向があります。
・ オックスフォード・シティ・カウンシルの事例(人口134,248 人)
基礎手当/年 4,100£ (約100万円)
特別責任手当/年 (議会リーダー) 10,250£ (約250万円)
世話手当(子供)/時間 7.5£ (約1800円)
・ サリー・カウンティ・カウンシルの事例(人口1,060,500 人)
基礎手当/年 11,475£ (約280万円)
特別責任手当/年 (議会リーダー) 25,000£ (約610万円)
世話手当(子供)/時間 6.5£ (約1500円)
・ グレーターロンドンオーソリティの事例(市長および議員の給与)
市長 137,579£ (約3300万円)
議長 60,675£ (約1480万円)
議員 50,582£ (約1200万円)
ところで、英国でも地方議員の報酬に関しては、「職業地方政治家」を認めるべきではないかとの意見もあることはあります。実際に地方議員の仕事量、権限の制約のために選挙に出たい人がなかなか見つからず、議員の2/3は男性で、人種の上でのマイノリティーは4%しか議員にならず、40歳以下の議員はわずか8%しかいないという状況を克服するための手法としてfull-time地方議員の提案は根強くあります。
これに対し、12月10日に地方議員のあり方に関する議会の報告書が提出されましたが、この中では、full-time議員制度の導入は盛り込まれてはいません。委員長のDame Jane Roberts女史は、「議員活動は一般社会活動と両立すべきものだ」と言って職業議員制度を撥ねつけています。
因みに、この報告の目的は、「地方議会議員への立候補に対する住民の関心を高めること」にあり、61の具体的な提言を行っています。この中には、議員の任期制限なども盛り込まれ、地方議員連合などからは批判も予想されます。
日本では議員の無報酬を導入する自治体が出始め、議員名誉職の伝統のある英国では逆に議員の責任と役割にふさわしい報酬が必要ではないかという議論が出ているというベクトルの向きの違いはとても面白く思えます。議員を無報酬にした場合の影響は、英国を見ると分かりやすいと思います。
なお、国会議員はどうかと気になるところですが、英国では下院議員は給与は出ますがその額は約6万ポンドと英国の給与水準としては決して高くはなく、むしろ官僚のほうが給与がずっと高いくらいです。更に貴族院議員は給与は出ません。しかし日当や費用弁償の仕組みはあり、その請求額が給与の何倍にも上る人が結構います。そしてその額は毎年議員ごとに公表されています。
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