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December 31, 2007

薬の効用と副作用

外資系製薬会社に勤務の知人と暮れに懇談をした折に、C型肝炎など現在の薬禍を巡る責任論で議論が盛り上がりました。薬の効用とその副作用のバランスをどのように考えるのか、という点です。

およそ副作用のない薬はない、というのがその知人の解説であり、少しでも副作用があるとそれを過大に問題視する風潮が続くと製薬会社は責任を負うことができずに新薬開発が滞ると言うのです。

確かにそのような懸念はあります。少し前に、産婦人科医の新生児の処置を巡り医師や病院が訴えられ、その責任が認められる判例が続出したことから、産婦人科医はリスクのある職業ということになり、産婦人科医へのなり手が減少し、今や全国的に産婦人科医不足が極めて深刻な問題になっています。訴えた側の心情は理解できるもののその社会的影響は深刻で、多くの母親にとっては却って困ったこととなっています。

私も別の角度からではありますがこの知人の懸念と類似の懸念を懐きました。C型肝炎を巡る訴訟も、政府の結果責任が認められると、同様の問題に関して政府の責任が際限なく広がる懸念が出てきます。水俣病未認定患者の問題、中国残留孤児の問題、戦争被害の問題、今でもくすぶる戦時中の捕虜の処遇問題、政府の関与がある分野で事故が起きた場合の様々な責任の取り方などです。

政府が当初、政府が責任を負う保障の範囲に関して慎重であったのは、今回の責任の取り方が他の分野に波及する影響を懸念してのものだと考えられます。こうした政府の立場に対する世論の批判の強まりを受けて、政府は結果責任を認める法改正の検討を約束しましたが、その判断が今後に与える影響にも自ずから関心が向きます。

これに関連し、国民が政府との関係で当事者としてものを考えるのか、第三者としてものを考えるのかという観点で、日英比較で興味深い違いがあるように思えます。英国であると、このような判断を政府が下した場合に、新聞には必ずと言ってもいいほど「民間企業の薬害に対して政府が国民の税金を投入して救済。納税者の負担は国民一人当たり**ポンド。」という記事が必ず出ます。こういう評論を元に世論が政府の決断を査定評価します。これに対して、日本の新聞は、原告が政府の責任を認めさせ、勝利を勝ち取ったことを快挙として高らかに報道します。読者は観客になってそれを褒め称える気分になります。この場合の読者は、しかし、その負担が結局は自分たちの負担であることは意識の外にあります。政府という頭の固いわからず屋の責任を認めさせたことに快哉を叫んでいます。英国の感覚は、それとは逆であり、俺たちの税金がこれでどれだけ増えるのかなあという負担者の立場で考えるのです。この立場の違いは結構とても重大です。

英国人の現実主義、日本人の潔癖主義の国民性の差と言うべきか、民主主義原理に基づき形成されている政府と国民の関係に関する両国の認識の違いというべきか、その差の違いを説明するのは難しいところがありますが、少なくともその財政的結論の違いは甚大です。「行政サービス」を常にその負担との関連で考えていく習慣があるのかか否か、という点は決定的な違いがあります。

特定の個人に障害が発生した場合に、公的医療制度や一般社会福祉で対応するのが一般的ですが、障害の発生に責任を有するものに責を負わせることが出来る場合には別途金銭的保障を受けることが出来ます。問題はその責任の範囲を何処まで拡大できるか、すべきかということになります。

国民は、しかしこれらの責任の取り方に応じた増税を認めるかというと、そうではありません。勢い財源面の対応は後送りとなりその財政的結果が現在の巨額な政府負債残高であるといっても過言ではありません。歳出増大の要素は世の中にごろごろと転がっている中で、国民負担を増やさずに皆によい顔をするのは大変難しいことなのです。

ところで、件の外資系製薬会社の友人の話は、Champixという商品名で販売されているタバコをやめられる新薬の話に発展しました。新薬は、従来の禁煙薬と同様タバコを吸いたい気持ちと禁断症状を軽減するだけでなく、次第に喫煙に嫌悪感を覚えるようにする作用があり喫煙の習慣性を抑える効果がある点で画期的なのだそうです。

Champixという商品は、私は初耳でした。しかしこの薬にもやはり副作用が認められるのだそうです。臨床試験の結果は、最も多い副作用として、吐き気、頭痛、睡眠障害、異常な夢などがあるのだそうです。何やらインフルエンザのワクチンのタミフルの副作用に似ているように聞こえます。

喫煙は、心血管疾患のリスクを2倍、心臓発作による死亡のリスクを3倍にするとされ、疾病と早死の主要な原因となっています。製薬会社の側では、「世界中で毎年500万人が喫煙によって死亡。WHOは、喫煙関連疾患による経済的損失は2010年までに年間およそ5千億ドルに達すると推定」との資料を公表しています。こうした効用と喫煙予防新薬の副作用とどちらを重視するのか、そういうことになるのです。

タバコ会社にとっては死活問題に発展しかねない新薬ですが、この新薬の普及についてもその効用と副作用の比較考量の議論がぴったり当てはまります。今回の薬禍を巡る責任論が、薬の効用と副作用を巡る総合的・巨視的な視点に立った深い議論として展開されていくことを期待したいと思います。

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