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November 04, 2007

校長に権限が集中する英国の学校

Japan21という団体があります。1991年にジャパンフェスティバルが英国で開催されて以降、その教育事業を引き継ぎ発展させてきた団体です。Japan21は英国の学校で日本理解を深める教材開発を始め様々な教育関連のプロジェクトを運営し、日英間の草の根の相互交流事業を推進しています。

いくつかの実例を紹介します。「JAPAN in Your Classroom」は英国在住の日本人ボランティアが英国の小中学校を訪問し英国の子供たちに日本を紹介する活動です。日本の地理や四季を説明したり、ひらがなや漢字を教え、書道に挑戦したりしてもらったりしています。浴衣の着付けとか盆踊りも体験してもらったりと盛りだくさんです。「School links」という活動は、日英の小学校・中学校同士をインターネットで仲介し、ボランティアが英語と日本語を翻訳するサービスを行い、多少の時差はありますが意思を通い合う活動です。「Japan UK LIVE!」 という更に発展した連携サービスもあります。

Heidi Potterさんという日本語の堪能な女性がこの団体の事務局長ですが、ウェストミンスターの一角にある事務所に彼女を訪問しました。この10月から、Japan SocietyとJapan21が統合され、Japan21の機能はJapan Societyに引き継がれています。PotterさんはJapan Societyの事務局長に就任され、引き続き日英交流の事業に携わっておられます。

教育事業は私が勤務する事務所の機能とも少なからず関係があることから、お話を伺いに参上した次第です。Potterさんは、ちょうどJapan UK LIVE!を通じて長野市の小牧小学校と英国の小学校をつなぐliveの通訳の仕事を終えたばかりで、大忙しの様子でした。長野市とロンドンの小学校の相互交流の橋渡しをされていることを伺い、「実は明日長野市長の鷲沢さんがロンドンにお越しになり長野県関係者が集まるのですが、お越しになりませんか」と申し上げると、少し遅れるが参加可能だとのご返事をいただけました。Potter情報では、11月下旬に小牧小学校の児童の代表がロンドンを訪問するのだそうです。私どもの知らないところでいろんな企画が進行しています。我が事務所にも長野市からの出向者がいるので早速側面支援の対応を指示しました。

鷲沢長野市長のロンドン訪問を契機として、Potterさん訪問の翌日の11月1日にロンドン長野県人会を立ち上げたのですが、Potter女史には約束どおりお越しいただけました。鷲沢市長との間で大いに教育交流談議も盛り上がりました。鷲沢市長も、長野オリンピックの遺産として県内の小中学校の国際交流を支援する事業を先刻ご承知であり、その支援を行っている英国の組織の実務責任者との邂逅を楽しんでおられました。Potterさんが挙げた何人かの長野市の校長先生の固有名詞を市長もご存知でした。

実は、その日の午前から昼過ぎにかけて、私はGreenwichのCardwell Primary Schoolを訪問していました。英語を母国語としない子供が7割を占める地域の小学校です。周囲には公営住宅が多く、ロンドン市内にあるものの経済的には貧しい層が多い地域にある小学校です。児童生徒数は540人。教職員は25名前後。この学校をユニークでアグレッシブなCarol Smithという女性校長先生が引っ張っています。2001年にこの学校の校長に着任したSmith女史は、与えられた権限を十分に活用し、「継ぎ目の無い初等教育」を実践しています。Rimg0503

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英国では、サッチャー改革以降自治体の地方教育当局の機能は縮小されています。予算の運用権はもとより教職員も各学校が予算の範囲内で自由に任用できます。各学校には4年任期の理事が構成する学校理事会があり、ここが当該学校の管理・運営の意思決定機関であり、校長先生はその執行機関という関係に立ちます。生徒数を基準に各学校に配分される予算の使途は特定されず、幅広い裁量の余地が学校理事会にあるのです。

Cardwell Primary Schoolでは学期に一度の頻度で学校理事会が開かれるのだそうです。2001年に学校理事会に採用された校長先生は、その時点で教職員を刷新し、やる気のある人を採用したのだそうです。爾来、結婚でやむなく辞めた1人を除いて教職員の異動は無いのだそうです。

驚いたことに、この小学校には保育園(Children Centre)が併設され、子育てに悩む母親向けの相談所(Family Support)まであります。小学校に入る前に、この学校に親子で親しめ、義務教育就学へのハードルを無くすという考え方に立つものです。「継ぎ目の無い初等教育」ということはこのような意味です。この学校は、学校監査を行っている教育水準局(OfSTED)の評価も急速に上昇し、Smith校長はTeaching Awards 2005という表彰も受けています。おまけにエリザベス女王にバッキンガム宮殿で昼食を供にするという栄誉も受けています。Rimg0502

教室を一つ一つ案内していただきましたが、本当に多様な人種が集まっています。東欧からの移民、アフリカ系、アジア系、中東系。英語が通じない子供には個別授業が行われています。Rimg0495
マイノリティの子供に自分たちの文化や言語に自信を持たせるために、世界の各地のことを勉強する授業もあります。英語に加え、ほかの言語を話せることは凄いことだとの自信を持たせるのです。イタリア、フランス、ロシア、エジプト、中国などと並び、何故か日本を勉強する教室もありました。日本人の子供は1人もいないのに日本のことを勉強しているのです。教室の片隅には座布団が置いてあり、習字の勉強もしているようでした。

この日本の教室に「本物の日本人」が来たというので、先生と子供たちからはずいぶんと歓迎されました。子供たちは知っている日本語を次々に発声します。校長先生に、日本講座を作った理由を伺うと、「担任教師が日本が好きだった」ということでした。それでは、ということで、早速、PotterさんのところのJAPAN in Your Classroomなどのプログラムを紹介しました。英語の日本情報が不足しているとのことであり、大変喜ばれました。この話は、早速その晩にPotterさんにも伝えました。もちろんPotterさんも大歓迎です。ついでに私も、JAPAN in Your Classroomのボランティアに登録を申し出ました。英国の子供たちに日本のことを伝える役割は刺激的です。

しかし、この地域の子供を巡る家庭環境は複雑なようです。給食費も半数以上の家庭は免除されている家庭環境です。家庭訪問の実施の有無について伺うと、トラブルの可能性があるので家庭訪問は実施していないそうです。この地域は麻薬犯罪や銃犯罪も多く、学校の敷地には厳重なフェンスが張り巡らされています。その中で、幼児教育、初等教育の段階から学校が中心となりコミュニティ・地方自治体と連携して教育面での役割を果たそうという姿勢が伝わってきます。

「校長先生の最も重要な役割は何ですか」と伺うと、「資金集め」という答えが返ってきました。日々の学校運営に目配りをしながら、様々な資金提供団体と関係を繋ぎ、学校をよりよくしようという姿勢は、日本の校長先生の機能とはだいぶ異なるように思えます。教員の給料もこの数年でだいぶ改善されたそうです。Smith校長と供にご対応頂いたMelanie Anderman副校長も女性でしたが、女性の教員が非常に多い英国(この小学校も8割が女性教員)でも待遇改善の結果男性も教員の世界に目を向けつつあるという話も伺えました。

ところで、徹底的に学校現場の権限を強めている英国の教育制度は、日本の地方分権議論の中でどのような位置づけが与えられるべきか興味深い観点でもあります。国は財政支援と実績結果の評価に力を入れているように思われます。地方自治体は地域社会の教育水準向上の観点から学校とのパートナーシップ強化を行う立場にあるようですが、この点は更に検証してみたい観点です。


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