女王に政策を演説させる英国議会?
11月6日、英国議会の新会期が始まり女王演説(Speech from the Throne または Queen's Speechと呼ばれる)が行われました。歴史絵巻のような贅沢な(lavish)儀式であり、BBCなどは中継をします。
私も事務所の職員のマーガレット・キヌコ嬢に記念になるのでテレビを見るようにと誘われ、カメラを片手にテレビに見入りました。エリザベス女王は82歳ですが、矍鑠と原稿を読み上げておられました。女王演説といっても原稿は内閣が起草し、女王は抑揚のない均一なトーンで、政策には「中立」であることを示唆するかのような読み上げ方です。とは言っても、内閣は女王陛下の政府の一部なので演説の中で、女王は何度も「私の政府」(My Government)という言葉を使っておられたことが印象的でした。
演説は"My Lords and Members of the House of Commons, I pray that the blessing of Almighty God may rest upon your counsels"という言葉で締めくくられ、大変荘厳な雰囲気のうちに終了しました。
女王演説の内容ですが、国会の新たな会期が始まるに際し、その開会式において、女王がこの会期における政府の重点課題や立法案等を発表するものなのです。日本の国会での天皇陛下のお話になる内容とは異なり、政治的政策的内容そのものなのではじめての私などは「元首の政治利用ではないか」と感じ少し驚きます。そして、「これじゃ、野党は政策批判をしにくいだろうな」、などと思ってしまいますが、流石に英国ではそんなことはなさそうです。冒頭に書いたように話し方の「抑揚」により、言外に「この内容は私が関与しているものではないのですよ」と語らしめているところに、英国らしい伝統と現実政治の絶妙の組み合わせを感じます。
今回の演説は労働党ブラウン政権下での初の女王演説でした。ブラウン首相は首相就任直後の本年7月に、既に今会期の政府の立法プログラムを予め明らかにしており、その意味では今回の女王演説で新味のある政策は見当たらなかったと評価されています。
具体的な内容としては、国民が持てる能力を最大限に活かすことができる機会を与えていくことを中心的なテーマとし、教育、国民医療、安全、住宅、ワーク・ライフ・バランス、経済発展に高い優先順位を与え、議会、政府の説明責任の強化、テロとの闘い、気候変動への対処等にも言及しています。また、今国会に30本の法案を提出することを表明し、その主なものは教育・技能法案、住宅・復興法案、気候変動法案、テロ対策法案などです。
総選挙実施を見送った後、支持率が低迷している労働党政権としては、地道に政策の実施に取り組む姿勢を示し、中期的に支持率回復を図る目論見もあると見られています。
この中には地方自治体に関係の深い法案もあり、①住宅・地域エージェンシーを創設し2020年までの300万戸の住居新設を支援する住宅・復興法案(Housing and Regeneration Bill)、②地方自治体に対して権限を付与することにより、公共交通特にバスサービスを改善し、道路混雑を解消するとともに気候変動への取り組み姿勢を示す地方交通法案(Local Transport Bill)などがあります。
なお、英国の議会は歴史的な経緯から11月(時に10月)に一旦閉会となり(今年は10月30日に前会期が閉会)1会期を終え、1週間ほどのインターバルをおいて新会期が始まり、下院の解散がない限りその後ほぼ1年間続くのだそうです。その間にはクリスマス休暇、イースター休暇、夏季休暇といった長期休会等を18週程挟むのだそうですが、飽くまでもそれらは「休会」であり会期の区切りはこの期間なのだそうです。日本の通常国会も年末に会期が始まりますがここら辺の歴史的経緯を比較検討してみるのも面白いかもしれません。
英国は国会議事堂として使っているウェストミンスター宮殿の建物だけではなく、国会の運営自体が歴史文化の蓄積である無形文化財のように思えてきます。
The comments to this entry are closed.
Comments