« 女王に政策を演説させる英国議会? | Main | フェアアインと協働するドイツ市町村 »

November 18, 2007

旧東ドイツ地域の人口減少社会への対応

私が暮らしている英国では、旧東欧諸国をはじめとする諸外国からの移民により、将来の人口増の影響をどのように吸収していくべきかが大きな政策論争の的になっていますが、一方で旧東欧諸国は急速に進む人口減に悩んでいます。

縮小する都市(shrinking cities)に関する政策対応が日本でも大きな関心を呼び始めていますが、人口が減り始めた日本も決して他人事でいられません。限界集落問題などはその端的な発現形態ですが、残念ながらわが国ではこの問題が政策当局により真正面から取り上げられることはこれまでありませんでした。

それどころか、財政構造改革の流れの中で、条件不利地域が見捨てられるのは当然であるというような経済学者の発言が著名な経済紙を飾ったのはごく最近のことです(週間東洋経済の2006年6月10日号の土居丈朗慶応大学経済学部助教授の「農村部」は「頭が高い」という発言など)。

こうした単純な効率論とは一線を画する動きが欧州大陸にはあります。

夜がとても長くなった11月中旬、4泊5日で、ベルリンを囲む旧東ドイツ地域のブランデンブルク州に行ってきました。ブランデンブルグ州議会議員、ブランデンブルグ州内務省幹部、ポツダム大学行政研究所長・教授、ブランデンブルグ市町村連盟事務総長、ブランデンブルグ州HAVELLAND広域計画連盟、アムト(amt;自治体が構成する一種の全部事務組合)事務局長、アムト構成自治体の名誉市長といった方々にお会いして、それぞれの立場からの地域の人口減と地域問題、集落問題などに関して多角的な視点を伺ってきました。

私の所属する事務所のキルヒナー主任研究員がドイツ出身で、ドイツ語、英語、日本語が堪能であることから実現した訪問でした。今回の訪問で一挙にブランデンブルグ州におけるネットワークも広がりました。

コミュニティ問題に熱心な萩原誠司衆議院議員のホームページでは、「町内会活動など、地域社会を支える社会貢献活動は、地域の安全や社会教育の原点です。戦後、GHQが、町内会を非合法化しましたが、その影響が完全には払拭しきれず、町内会長を何年務めても叙勲の対象にはなりません。また、地方自治法の上で、地縁団体の役割や、自治体の業務との関係が定められていません。基本法を制定し、地域の貢献活動に正当な位置づけをしたいものです」とのご報告がありますが、総務省の塚田桂祐総務省大臣官房参事官などから伺った国の最新情報をブランデンブルグ州政府関係者などにお伝えすると、旧東ドイツの問題意識と共通することに皆さんも驚いていました。折を見て共同シンポでもやりたいとの話もちらほら出ていました。我々の訪問を地元記者が取材に来ていました。

ブランデンブルグ州議会議員のSusanne Melior女史は、ブランデンブルグ州における人口減少と高齢化の進行の中で、州政府与党である社会民主党の地域社会を強くする政策概要をお話いただけました。議員は州議会議員と郡議会議員の両方を兼ねているとのことでもありました。Rimg0539

旧東ドイツの中でも、ザクセン州やザクセン・アンハルト州に比べるとブランデンブルク州は人口減少がまだ緩やかであるとの予測が立てられています。しかし、州内の地域差は大きなものがあります。ブランデンブルグ州は独立市であるベルリンを囲む形になっていますが、その周辺地域は人口が増えるところもある一方で、遠隔地域は軒並み人口減が見込まれています。

例えばベルリン近郊のポツダム(Potsdam)市は2004年の人口146,000人が2030年には160,000人に増えることが見込まれるのに対し、コトブス(Cottbus)市は同期間で106,000人が84,000人に減少することが見込まれています。

議員の話では、今後は統合に伴うEUからの補助や旧西ドイツからの支援が見込まれない中で、減少する財源の中で「選択と集中」が課題となっているようです。ブランデンブルグ州を満遍なく発展させる分散発展政策によっても人口減に対処できなかったという反省もあり、2008年からは州の発展計画を改正し、今後は特色があって強い地域をより強くする考え方に立ち、それによりブランデンブルグ全体を牽引させるという政策(強いところをより強く=Staerken Staerken)を取りたいとの説明がありました。しかしこれに対してはその区域から外れる農村地域からは強い反発があるようです。

一方で、ブランデンブルグ州には、州政府の元に郡と市町村がありますが、郡は都市部と農村部を両方域内に抱え、都市と農村の両方の発展のバランスを図るように行政運営をしているとの説明もありました。昔の小さな郡の統合・再編成も行われてきているとのことでした。Melior議員の話しぶりからは、都市の活力を農村振興に生かす考え方は依然として維持されるようではありました。

次に、ブランデンブルグ州内務省のグリューネバルト(Grunewald)博士からは、体系的で詳細な背景説明や具体例のご紹介を頂きました。実は博士は法律家で、現在の本業は自治体の業務の法律適合性の監視なのですが、内務省勤務の前にポツダムから100キロ離れた人口198人の村出身地などから構成されるアムトと呼ばれる行政組織の事務総長も勤めた経験もあり、自らの経験を踏まえ幅広い観点からお話をいただけました。Rimg0544

ブランデンブルグ州の内部では、ベルリンを中心にして各市町村をケーキの切り分けるように都市と農村を包含するように郡を作り地域振興面の工夫をしてきたこと、しかし急速に進む高齢化と人口減少の中で大きな問題が顕在化してきていることを具体例を挙げて説明して頂きました。

ブランデンブルグ州では現在250万人の人口が2030年には180万人に減少し、平均年齢も43,1歳が51,5歳に上昇するのだそうです。特に教育水準の高い層が州を去り、高学歴の女性の流出が深刻なのだそうです。男性の結婚難が社会問題になっているとのことでした。しかしこれには州政府の政策の失敗もあったようです。前の州首相が、失業率が高い時代に反対論を押し切り、州からの移住に対して補助金を支給したのだそうです。その結果高学歴の女性が経済状況のよい旧西ドイツのバイエルンなどに流出し、ブランデンブルグ州の人口構成に深刻な影響を与えたとのことでした。失業給付の負担を軽減しようとした州政府の思惑は、州の将来に深刻な影響を与えたのです。3年ほど前からこの助成金制度は休止されているようですが、やや近視眼的な政策のつけは大きいようです。

グリューネバルト博士は現在も198人のReichwaldeという村から毎日往復200キロを自動車で通っているのだそうです。ブランデンブルグ州は無料の高速道路が張り巡らされ、日本の農山村よりはずっと交通の便はよいのですが、それでも200キロとは大変です。しかし、博士に言わせると、電車を乗り継いでベルリンから来る人も結局一時間くらいかかってポツダムに通ってきており、便利な自動車で通う自分とそう変わらないとおっしゃっておられました。とにかく、博士は自然の中で過ごすのがこよなく好きなのだそうで、ここら辺は頑固な価値観の違いを感じます。それでも最近の行き帰りの中で、狼やヘラジカが道路に出てくることがままあるとおっしゃっておられました。もちろん野生です。EUの農業政策の変化で農地を20%耕作放棄すると補助金が出るようになり、その結果、人里に野生動物が姿を現し出したということです。この辺りは、長野県の阿智村の岡庭村長がおっしゃるようにイノシシや鹿の被害に悩む日本の山村と似た状況です。

旧東ドイツのこの地域は、多くの人が出身地に留まり都会に通勤するのだそうです。住居移転は考えない人が多いようです。これは伝統です。家族構成も大家族がまだ残り、三世代居住も珍しくはないのだそうです。子供が親の世話をするのは当然であるという、少し前の日本の地方の価値観に似ています。

しかし、最近のガソリン価格の高騰で、長距離自動車通勤が困難になりつつあるという懸念も表明されました。

人口減少に対する処方箋について、先ず博士は合併を取り上げていました。以前州内に1479あった市町村が合併により2003年までに434に減っています。州憲法で郡と市町村の役割分担がはっきり分かれている中で自治体間協力が難しい仕組みがこれまでありましたが、その法律環境を整えることで自治体間の協力体制の構築も進めているとのことです。

ITを利用した行政サービス見直しにも取り組んでいるとのことでした。実際に住民が行政機関を訪問するのはせいぜい年に2回であり、そうであればわざわざ具体的な行政機関の建物の設置は必要ではないのではないか、との観点から仕事の仕方の見直しを進めているとの話もありました。仕事をフロントサービスとバックサービスに分け、バックサービスはどんどん民間に委譲するという方式も検討しているようです。

また、これまで行政が行ってきた仕事を住民自らがやったりボランティア組織に委ねたりといった動きも急だということです。「デマンドバス」で必要なときに駆けつけるバス、「市民バス」という仕組みを導入し市民が市民を運ぶ手法など、様々な工夫も行われているとのことです。

学校の建物を多角的に利用することなどは、当然のように行われているようです。学校は午前中で終わるので、午後は保育園に利用、夜は住民向けの劇場として使うことなどは合理的と考えられているようです。余った保育園は大家族の個人に売却することもありうるのだそうです。要するに公的サービス機能のコンパクト化・集約化・複合化です。

公共投資に補助金を出す際には、将来の人口構造の動きを必ずチェックするようにしているのだそうです。将来に向け無駄な投資にならないようにするためです。私が、日本では、逆に人口を増やすためにも公共投資が必要だと言う議論が出てくるのですよ、と指摘するとにやりと笑っていました。

それでも日本の「限界集落」のような議論は、この地域では出ていないのだそうです。正確に言うと住民が自ら判断して集落から住民が居なくなることはあっても、行政の側で集落を廃止する議論はない、とグリューネバルト博士は口調を強めて発言していました。

その理屈が振るっています。ドイツは過去に人口減を経験済みだというのです。ドイツでは1618年から1648年の30年戦争で多くの人がなくなり人口が減少した歴史があり、更にその前の14世紀にはペストの影響で人口の2/3が死亡した時期があったが、それでも集落がなくなったことはなく、歴史的な地名が引き継がれている、との所論です。

ところで博士から、内務省内におけるアムトの位置づけに関する興味深い話も伺えました。内務省では農村地域のアムトと呼ばれる行政組織を効率性重視の観点から廃止する議論がこれまで主流だったようです。先ほど市町村数が2003年までに434まで減少したと書きましたが、ブランデンブルク州では市町村に2種類があります。144の市町村はeineheits gemeindeと呼ばれる単一で行政機関を形成する自治体ですが、残りの290の市町村は実は共同でamtと呼ばれる行政組織を作り、事務の共同執行をしているのです。博士は、自身の属するReinewaldeを含む13町村から構成される人口5,300人のアムトの事務総長を務めていたということになります。ブランデンブルグ州にはこのアムトが54あり、このアムトとeineheits gemeindeを併せた行政単位は198あるということになります。

なお、アムトを構成する市町村の長は名誉市長と呼ばれ選挙で選ばれますが、アムトの責任者である事務総長は名誉市長が相談の上公募をかけ選任することになります。グリューネバルト博士はそうやって過去に選任されたのです。

さて、内務省のアムトの位置づけ議論ですが、一時期アムト廃止議論があったとのことでしたが、現在では、行政の直接執行サービスを減少させる動きの中で、アムト構成市町村のボランティア機能を活用すべきであるとの議論が強くなり、アムトの再評価がなされているとのことでした。

キーワードは、「市民自らが行う」市民社会、独立自治なのだそうです。そしてそのために縦割りであった制度も抜本的に変更を行ってきているのだそうです。これまで学校の教員の任命や給与負担は州政府の責任であり市町村は学校の設置権限しかなかったのですが、教員人事権も市町村に委ね市町村に当事者意識を持たせようとしているのだそうです。

博士の認識では、人口減少は解決策が見出せるものではなく、その与件を前提に、どのように対処するかを皆が政策論議に参加して対処を考えるしかない、とのことでした。人口減少を抱える日本で分権議論が出てきているのと何やら似通った局面です。

その中で、都市の縮小の手法としてStadt Umbautと呼ばれる都市再建の事例も紹介していただきました。ブランデンブルグ州とポーランドの国境地域に所在するSchwedt Oderという都市は、東ドイツ時代重工業都市として発展し、45,000人の人口を数えましたが、今では30,000人を切っているのだそうです。もともと8-10万人を想定して団地を作ったものの、現在ではその過剰団地を4,500戸壊し、緑地を増やす都市再建を進めているのだそうです。連邦政府の補助があって実現できているプロジェクトです。人口規模に見合ったコンパクトで居住環境のよい都市づくりを目指し人々の定住を促進することが目的ですが、なかなか思いどおりにはいかないようです。

住居を壊すことで従来のコミュニティも壊れてしまうことになるのだそうです。居住環境のよくなったところは家賃が上昇し、勢い所得の高い人が移り住み、貧しい人は従来のところに居住するという二極分化が発生するのだそうです。道路などの社会資本も過剰で、道路をコンパクトにし街路を明るくするにも資金が必要になります。下水管理も頭を悩ます問題のようです。下水には一定の水量が流れないと下水が詰まってしまうのだそうです。おまけに下水利用者が減ると一人当たりの使用料が増えて負担しきれなくなってくるのです。

このような問題を含め、都市再建の投資と維持費の負担は連邦政府の支援がないと機能しないという実態があるのだそうです。人が住んでいない住居が個人所有の場合にはどうやって同意を取り付けるかの課題もあり、資本主義経済に移行した中での都市の再生はまだまだハードルが高いようです。

以上が、ブランデンブルグ州関係者からの話の概要でした。引き続き、市町村関係者、大学関係者、地域計画作りの担当者の話も伺いました。


|

« 女王に政策を演説させる英国議会? | Main | フェアアインと協働するドイツ市町村 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 旧東ドイツ地域の人口減少社会への対応:

» 高島屋 []
また読ませてください。高島屋(ブログ練習中)。 [Read More]

Tracked on November 18, 2007 11:09 AM

« 女王に政策を演説させる英国議会? | Main | フェアアインと協働するドイツ市町村 »