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November 28, 2007

CIPFA@英国公会計専門機関訪問

英国の行政を見ていてつくづく感じることは仕事の種類ごとに専門性を重んじ、専門家が重用されているということです。

公務の責任あるポストにはそれにふさわしい専門知識のある人を公募などで選ぶということが当然視されています。キャリアシステムの中で事務職員にさまざまなポストを経験させて年功序列で次第に責任ある地位に就かせていくという日本のシステムとは根本的に異なります。どちらがよりよいかは、その国の文化の違いや終身雇用という勤労形態を採用しているか否かという根本問題にまで遡る議論をする必要があり、一概に語れないところがあります。

ところで、専門性を重んじる英国ではそのシステムを支えるために、専門性を高める教育的仕組みがあります。大学はもとより、同業者が作る様々な協会が専門性を高めるための研鑽の機会を提供しています。そのうちのひとつである公共財務・監査の分野の同業者の集まりであるCIPFA (The Chartered Institute of Public Finance and Accountancy;公共財務会計士協会)という団体のSteve Freer事務総長にお会いしお話を伺ってきました。というのもわが国において現在公会計分野の改革と監査制度のあり方の議論が始まっており、英国の現状は日本の議論においても必ずや参考にされることが見込まれるからです。過日ロンドンでお会いした関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科石原俊彦教授などはCIPFAの機能にいち早く着目し、同種機能の日本への導入などについて強い期待感を抱いておられます。

Freer事務総長とは、カーディフのSolaceの会合でお会いして、一度お話を伺いに事務所に参上することのご快諾をいただいていました。私どもの事務所から歩いて数分のところにCIPFAの事務所があり、非常に便利でもあります。

さて、CIPFAは公共団体に関わる公共財務会計士(Chartered Public Finance Accountant;CPFA)の集まりです。注意しなければならないのは日本で言う公認会計士は英国では勅許会計士(Chartered Accountant; CA)と呼ばれ、CPFAとは異なる専門家集団を形成しています。待遇はCAのほうがはるかに上だという話を石原教授から伺いましたが、いずれにしてもCPFA(公共財務会計士)は日本には存在しない専門家です。

石原教授によれば、会計制度には財務会計、管理会計、監査会計があり、日本で言う外部監査の対象になるのはこのうちの財務会計のみであり、ディスクロージャーも財務会計がその対象になるのだそうです。これに対して、個々のプロジェクトを管理するのが管理会計、組織のガバナンスを管理するのが監査会計であり、監査会計は財
務、管理の両会計にまたがる概念なのだそうです。そして、公共団体の内部事情に精通したCPFAは、この3会計すべてをカバーするノウハウを持つ専門家集団ということになるのだそうです。

この石原先生から頂いた概念整理を頭に刻んで、Freer事務総長との会談に臨みました。我々は予め日英の監査制度の比較表を作り、我々の問題意識を先方に伝えたうえ、Freer事務総長はそれを受けCIPFAの役割、機能、抱える課題などに関して明瞭なお話をいただけました。

1885年に設立されて以来120年以上の歴史がある組織なのだそうで、公共セクターの財務、監査に特化した役割を果たしています。会員組織であり、英国を中心とする自治体の財務関係幹部や内外の民間会計士など13000人の会員を擁し、徐々に外国へも活動範囲を広げているとのことでした。現在25カ国で40のプロジェクトを進めているという話を伺いました。

会計基準の作成などに携わってるほか、人材養成の観点から公会計をきちんと勉強させるコースも設定しています。我々が訪問した際も、事務所の一角では会計セミナーが開催されていました。週に3-4回はこのようなセミナーが催されるのだそうです。学生向けのオンラインによるサービスもあり、非常に体系だっています。 自治体公開系の分野で専門家を目指す人たちがここを頼りに研鑽を深めています。

CIPFAが取り組んでいる現在の大きなプロジェクトのひとつは、公会計分野における国際財務報告基準(International Financial Reporting Standard; IFRS)の世界展開なのだそうです。世界の4-50ヶ国が参加するこの国際財務報告基準には中国も参加する予定のようです。英国では2008年度よりまず中央政府とその関係団体にIFRSが導入され、今後自治体へも導入が進められるのです。

民間企業においては、既に2005年からEU域内の上場企業はIFRSが強制適用になっていますが、2009年以降EU域内の外国上場企業にも適用が求められています。このため、日本企業では日本の会計基準とIFRSとのコンバージョンに向けた準備作業が行われている最中です。継いで2008年度から2011年を目途に作業が進んでいます。そのためのセミナーがジェトロ主催で行われるなど慌しくなっているようです。

CIPFAのもうひとつのプロジェクトとしてあげるべきは、自治体監査を通じた自治体の財務の改善支援です。これがCIPFAの本来の目的です。バリュー・フォー・マネーの観点から財政資金が効率的に賢く使われるように目を光らせています。Freer事務総長は以前バーミンガム市の会計部門の責任者を務めておられたとのことですが、当
時は65名の専門資格のある会計士がいたのだそうです。現在は40人に減っているとのことです。バーミンガム市は英国第二の大都市とは言え、日本の感覚に慣れた我々からは想像も出来ない人数の多さです。財政規模が5億ポンド(約1200億円)程度の自治体では、12-15人程度の資格のある公共財務会計士がいるのが普通だというお話でした。

自治体の監査は内部監査と外部監査に分かれますが、内部監査は自治体の事務総長に報告があがります。外部監査はそもまま外部に公表されるのだそうです。そして各自治体における監査は、価格の安さ(cheapness)だけではなく、サービスの質(quality)の確保の観点に立ち、個別の会計処理のチェックだけではなく、仕事の仕方、システム自体の検証(risk with the system)を行うまでに至っているとの説明でした。各自治体では法律で求められている1年毎の年次報告に加え、3月毎の報告も行われているとのことでした。年次報告は、会計年度終了後3ヵ月後にはレポートが出されるというスピーディーなものなのだそうです。

CIPFAの組織は会員の会費と教育訓練・出版、コンサルタントなどのサービス提供による収入の二本立てとのことです。年会費は250ポンド(6万円)と個人のポケットマネーから出すとすると安くはない値段です。しかし会員収入は年間4000万ポンド(100億円弱)の支出の1割程度にとどまり、残りは「営業活動」による収入ということです。ベンチ・マーキング・クラブという制度があり、CIPFAが自治体のベストプラクティスを指定する仕組みがあるのだそうです。各自治体は会費を払いその指定を競うのだそうです。ほかにも自治体は財政指標を含め各種指標をCIPFAに提供し、CIPFAはそれを元に各自治体のパーフォーマンスを比較・公表し、どの自治体がどの分野でほかよりも相対的に優れているのか劣っているのかが一目で分かる仕組みを導入しているのだそうです。自治体はそれに対してコンサルタント料を支払っているのです。おおよそ、全国の自治体の9割方は加入しているとのことでした。

私から、「考えようによっては自治体が自らの弱みをさらけ出すことになる調査分析に金を払うのはやや自虐的に思えますが」と水を向けると、「確かにそうだ」とFreer事務総長は笑って答えておられました。

また、「わが国ではそうした決算分析は政府が行っているのですが、英国では政府はそのような分析は行わないのですか」と伺うと、「政府も決算分析的な作業はするもののCIPFAのようなデイーテイルに踏み込んだ分析までは行っていない。また政府はCIPFAの機能と能力を高く評価しており、この分野の分析を後押ししてもらってい
る」とのお話もありました。確かに、120年以上の歴史の重みは違うようです。

話の最後に、「CIPFAの抱える問題点があるとしたら何でしょうか」と伺うと、Freer事務総長は暫く考え込んだ後で、「我々の世代が引退したあとの若い世代が我々の仕事を引き継いでくれるかどうかが気がかりだ」とおっしゃっておられました。英国では伝統的に公務部門は非効率、民間部門は能率がよいとの固定観念があり、それに加えて最近の民間部門の専門職の給与高騰により、若い世代の優秀な人を公務部門に集めにくい状況が強まっているとのお話でした。Freer事務総長は、「確かに公務員になって金持ちになることは出来ないが、こうした英国の固定観念は間違いであり、実際には公務分野はクリエーティブでやりがいもあることを若い人に理解してほしい」とおっしゃっておられました。

私からは、日本では公務部門はこれまで優秀な人材を集めてきたが、昨今の公務員制度改革の流れの中で優秀な学卒者の公務員離れの傾向が出ていることを心配している人が多いことをお伝えしました。

さて、専門職を重視する英国の制度的裏づけとも言えるCIPFAのような機能については、日本でも大いに参考になると思われます。しかし、英国の制度が必ずしもいいものであるとばかりは言えないようです。

過日ロンドンに来られた明治大学の西野真理教授にご紹介頂いたCIPFAと長年のパートナーシップを結んできた公会計制度の第一人者であるRita Hale女史の言葉が心に響いています。彼女は、「監査はとても大事で公的資金は適切に使われなければならない。しかし私は時折、英国の監査や検査は行き過ぎではないか、行政執行の現場を混乱させてはいないか、公務従事者が監査に気を取られるメンタリティーを生じさせ、本当に質のよい行政サービスを提供するよりも検査の枠にあわせた仕事をしてしまうことになっているのではないか、と感じることがある。だから日本は英国の成功と同時にその間違いからも学んでほしい。」と私にメールをくれました。あり難いメールです。

Freer事務総長もRita Hale女史もお互いをよく知る長年の友だそうで、今回の訪問のことをお話しすると、どうしてその人を知っているのかと不思議がられます。ロンドン駐在だからこそ実現する一期一会でしょうか。

Freer事務総長にはクレアーロンドンとCIPFAの関係強化を確約いただけました。日本の研究者から「CIPFAは敷居が高い」との声があると伝えると、「私に直接連絡をくれ」との心強いお話を頂戴しました。この分野の研究を行いたい研究者の方は我が事務所を研究の寄港地として活用していただけます。そうすることで我が事務所の仕事の付加価値を更に高めたいと思っています。

CLAIR LONDON
15 WHITEHALL,LONDON SW1A 2DD,UK
tel 020 7839 8500
fax 020 7839 8191
www.jlgc.org.uk

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