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October 08, 2007

英国のパリッシュ訪問

私が英国で実地に検分して見たい分野に、この地のコミュニティ活動の実態があります。英国でコミュニティ活動と言えば、先ず頭に浮かぶのがパリッシュです。

わが国には、地縁に基づく地域自治組織の代表として町内会組織がありますが、英国の地縁自治組織として挙げられるものは何といってもにパリッシュです。

パリッシュと言うと、言葉の由来に敏感な人は教会と関係する組織のことを想起すると思われます。私が勤務するロンドンの事務所でまとめている資料を読むと、確かにパリッシュはもともと、1つの教会と1人の神父を有する区域である「教区」を意味し、布教と宗教上の監督を目的とした区域であり、8世紀から存在していたと言われているようです。そのパリッシュは16世紀頃から貧民救済、道路管理、治安の維持などの地方自治体としての役割を果たすようになり、17世紀の初頭には、救貧法によりパリッシュに貧民監督官が置かれ、教区委員の協力を得て、救貧税の徴収と救済事業を行うようになった経緯もあるようです。

その後、イングランド及びウェールズに地方自治体としてのカウンティが設置されることとなるとパリッシュは主要な自治体としての役割を徐々に失っていきましたが、1892年にグラッドストーンによりパリッシュの果たしてきた役割に対し再評価がなされ、その再生・振興を目的として1894年パリッシュ法(Parish Act)と呼ばれる法律が制定され、今日のパリッシュの基本的な構造、組織が確立した歴史があるようです。この法律により、行政と宗教が完全に分離されることになったのです(パリッシュの宗教的な役割は教区会(vestry)が担うことに。)

ところで、 ロンドンなど大都市を除くと、英国の地方自治体の構造は、カウンティ(County)及びディストリクト(District)による2層制となっている地域とユニタリーのみの1層制となっている地域が混在しています。これらの自治体は、住民に対し義務的なサービスを含め多様なサービスを提供する主要な自治体(Principal Authority)として位置付けられていますが、住民に最も近く裁量性の高いサービスを行う地縁自治組織としてパリッシュは存在感があります。

パリッシュという呼び名は地域により異なっており、イングランドの地方の田園部ではパリッシュ、都市部ではタウン・カウンシル(Town Council)、ウェールズではコミュニティ・カウンシル(Community Council)と呼ばれています。これらのパリッシュ等はサービス供給に関しては限定的な権限しか与えられていないものの、住民に最も身近な自治体として、地域における民主主義を体現する上で、重要な役割を果たしています。

パリッシュが日本の町内会と大きく異なる点の1つに、200人以上のパリッシュは選挙によるパリッシュ・カウンシルを設置する義務があることです。200人未満のところはパリッシュ・ミーティングと呼ばれる住民総会によってもよいことになっており、直接民主主義が実現しています。イングランドのパリッシュの数は10,000を超えていますが、議会を持つものが約8700、パリッシュ・ミーティングによるものが1500あると言われています。1997年以降、旧来のパリッシュが分割されたり、パリッシュのないところに新たにパリッシュが設立されたりして、100以上の新たなパリッシュが設置されています。

パリッシュの人口は、少ないところでは10人以下のところから、多いところでは8万人を超えるところもあり、その役割も住民の選択により多種多様であるようです。平均的な規模は一つのパリッシュで人口500人から2,000人程度のようですが、典型的な規模は1700人程度という記述のある資料もあります。なお1963年にグレーター・ロンドン・カウンシルが設置された際はロンドン内にあったパリッシュが廃止され、1972年地方自治法の改正により大都市圏カウンティ・大都市圏ディストリクトが設立された際は大都市圏内のパリッシュが廃止され、現在パリッシュの8割は地方の農村部に設置されています。

最基底の小さな単位の自治体であるパリッシュの果たす機能は、日本の町内会とは異なり、公共団体である自治体活動として捉えられています。その活動としては、市民農園、浴場、洗濯場、市民プール、墓地、火葬場、遺体安置場、検死室、公共の時計、住民集会場、運動場、体育施設、ボート池などの設置、バス停の提供及び維持管理、公園、サイクルパーク、遺体安置場等の利用規則の制定、池や排水溝の管理、レクリエーショングラウンドやオープンスペースに供する土地の購入、戦争記念施設の維持管理等が法律で列挙されており、これらのうちいずれを行うかはパリッシュ自身の決定によることになります。

パリッシュは、これらの住民サービスの提供に加え、住民の意見を集約しカウンティなどに提言していく機能もあります。また、パリッシュの機能と権限のなかで特に重要だという指摘があるものに、都市計画に関する協議があります。地域の自治体は建築許可、開発許可等に際し、当該地域のパリッシュに事前に協議を行わうこととされ、これをもとに地域の景観が守られて側面もあります。

パリッシュの事務を担うためにTown Clerkと呼ばれる職員が置かれています。パリッシュ議員は通常無給ですが、職員は有給です。規模の小さいパリッシュの場合、職員は非常勤であることが多く、1人の職員が複数のパリッシュの職員を務めることもあります。パリッシュ職員の仕事はパリッシュ議会の運営であり、議案、議事録の作成、議決事項の執行、会計、施設管理、議員への助言、住民や外部への情報提供など多岐にわたっています。Town Clerkは公募されパリッシュ議会が任命しています。
 
パリッシュには課税権があります。これも会費制の日本の町内会と異なる点です。パリッシュはPreceptと呼ばれる税をカウンシル・タックスの徴収に併せてディストリクト・カウンシル、ユニタリー・オーソリティ等に徴収委託しています。イングランドにおけるパリッシュの全歳入金額の約70%がプリセプトにより調達されています。パリッシュの他の主な活動財源としては、レクレーション施設、駐車場等の運営による料金収入(11%)、ビレッジ・ホール又はコミュニティ・センターと呼ばれる施設の賃貸料収入(5%)、市民農園等の賃貸料収入(3%)などとなっています。

なお、パリッシュ・タウン・カウンシルの行う事業については裁量の余地が大きく、このためディストリクト・カウンシルやユニタリー・オーソリティー等の基礎的自治体からの関与はほとんどありません。

パリッシュの活動を発展させるための全国組織(National Association of Local Councils:NALC)があり、政治的活動も行っています。最近では、毎年持ち回りで総会を開いており、パリッシュが抱える課題を関係者で共有し、討論しています。私も10月の総会を傍聴してきました。

パリッシュにもいろいろな課題があります。よく指摘される課題として私の勤務している事務所が把握している点には以下のようなものがあります。
・地域住民による意思決定過程への参加意欲が低調。
・組織内部の管理的業務が占める割合が高く、地域住民の要望を実際に調査・吸収することやコミュニティに直接関係する事業の実施という機能を十分に果たすことができない。
・多くのパリッシュは小規模で常勤の職員がいるところはまれで、常勤職員がいても1名乃至数名という非常に小さな規模で運営されているため、コミュニティの活性化に向けた事業を実施するゆとりがない。
・パリッシュの議員の中にはカウンティやディストリクトなどの地方自治体議員との兼職も多く、パリッシュにおける議員活動に十分な時間を割けない。
・パリッシュの議員に立候補する候補者数が減少気味である。地域の人々の地域に寄せる関心の度合いが立候補者の減少につながっている。
・パリッシュが実施する事業には、例えばディストリクトと重複・競合するケースがあり、両者に十分な協力関係が構築できない。
・パリッシュに必要予算を配分することを嫌う自治体も多く、逆にパリッシュの縮小を希望するディストリクト・カウンシルやユニタリー・オーソリティーもある。
・非常に規模の小さいところは、コミュニティの中でいかに役割を担っていくか等のノウハウやビジョンがないところも多い。
 
一方でこれら課題を打開する方策としてクオリティー・ステータスという仕組みが導入されています。「Quality Parish and Town Council」と呼ばれるこのスキームにあっては、専門的な職員が配置されていること、パリッシュ議員が定期的に競争選挙により選出されていること、広報誌が発行されていることなどの条件をクリアーしたパリッシュは、国の承認を経て新しいステータスを授けられることになりました。このステータスを得たパリッシュ・タウン・カウンシルと基礎的自治体は、将来の相互のパートナーシップについて更に検討することが義務付けられ、その結果これまでは基礎的自治体だけで行ってきた交通や地域開発などの分野でパリッシュ・タウン・カウンシルが新たな責任を負うこととなりました。これに伴い、地域交通や地域計画、町の再開発などに関する財源も基礎的自治体から得られることになりました。

政府は更に2006年10月に「力強く繁栄するコミュニティ」(Strong and Prosperous Communities)という表題の白書を発表し、この中でパリッシュ関連施策の改革の姿を提示しています。その中には、新しいパリッシュの設立や条例に対する中央政府の承認制の廃止(ディストリクトとユニタリー自治体の承認制に改める)、ロンドンに於けるパリッシュ設置の法定禁止措置の撤廃、定額罰金制を認め条例の強制力を担保する権限の導入、パリッシュ議会を「コミュニティ議会」、「近隣議会」、「村議会」と称することを認めるなどの措置が含まれています。

このような機能を有するパリッシュのうち、Bracknellというパリッシュ(都市地域のBracknellではTown Councilと呼ばれいる)を訪問する機会がありました。2階建ての事務所にMary Harris女史を訪問し、仕事の内容や議会の活動、財源などについて伺いました。Rimg0318
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Bracknellは、比較的新しいパリッシュです。もともと第二次世界大戦中でドイツ軍のロンドン空襲で家を失った人たちに住居を提供するためにこの地にニュー・タウンが設置され、1849年に500人の人口であったBracknellは、今では56000人を数え、ユニタリー自治体である約11万人のBracknell Forest Borough Councilを構成する6つのパリッシュの中でも最大規模のパリッシュです。

予算規模も150万ポンド(3億5000万円)は決して少なくはありません。その財源の殆どはやはりPreceptであり、他は財産の貸付収入、料金収入などです。Harris女史はTown Clerkですが、彼女の元には常勤非常勤併せて30人のスタッフがいるのだそうです。その多くは、Bracknellが管理する野外施設や公園や墓地の管理業務に従事しています。

議会は定期的に開かれ、2週間に1度の火曜日の夕方が概ねの定例日だということでした。27名の議員のうちの14名は、何と、Bracknell Forest Borough Councilの議員でもあり、Bourouhの議会の定例日は水、木であることから一応の住み分けがなされているようでした。議会の部屋も見せてもらいましたが、普通の会議室で、日本で言う公民館の会議室と変わりありませんでした。ちょうど伺った9月25日は夕方から議会が開かれる予定でしたが、私は別の予定があり、残念ながら議会の模様は傍聴できませんでした。Rimg0319

議員は、保守党20人、労働党7人と、党派がはっきりと分かれています。他のパリッシュの場合は、無党派の議員の多いところもあるようですが、地域によって政党色の濃淡はあるようです。Harris女史は、地方自治の現場に党派対立が入るのはあまり好ましくないとの感想をお持ちでした。中央の政党政治の影響で、Harris女史の目から見て非常に評判のよい議員が落選の憂き目にあうことがごく最近もあったのだそうです。

カウンシルタックスにキャップが設定され、結果として歳出拡大に大きな制約のあるBoroughとの関係が微妙で、本来はBoroughの管理責任であるのトイレの管理に、パリッシュ側が補助金を出す格好になっているといった現象も出ているとHarris女史は苦笑していました。

Bracknellパリッシュでは、Boroughとの仕事の調整に意を払い、双方の議員間、議員・職員間で定期会合を行い、意思疎通を図るように努めているとのことでした。

Harris女史の前任者が、2005年にパリッシュ設立50周年を祝った記念式典にそれまで蓄積した資金を注ぎ込み、現在は財政難で困っているのですよ、という本音も出ていました。歳出の増加が、即Preceptの増税に結びつくパリッシュにおいては、パリッシュ構成員や議員の増税に反対する声は厳しく、節約に向けたTown Clerkの腕が試されているようです。
 
Bracknellは新しい規模の大きなパリッシュですが、次は農村部の小規模なパリッシュを訪問したいと思っています。

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