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October 28, 2007

都市再生の手段としての「混雑税」、「運河」

先週はとても忙しい一週間でした。前回ご報告したSEEDA訪問の後、在英日本商工会議での会合、マンチェスター、バーミンガム訪問、英国コミュニティー・自治省ポリティカルアドバイザーとの会合、(日本の)日教組幹部の訪英対応などであっという間の一週間でした。

おまけに風邪を引き、ホテルで首を寝違えて痛め、肉体的にも苦しい旅になりました。JETのOBとの懇談の席もこなす必要もあり、風邪からの回復が遅れます。

ところで、マンチェスターでは、ロンドンに引き続いて、コンジェスチョンチャージを導入する動きについて取材しました。あわせて、一時期は義務教育の学力水準の落ち込んだマンチェスターの水準が回復している現状について教育委員会の方の話も伺ってきました。英国第2の都市バーミンガムでは都市再生の現状と将来についてのブリーフを受けてきました。

マンチェスターのコンジェスチョンチャージの企画は、ロンドンの仕組みの反省を踏まえてのものでした。マンチャスターは現在の交通混雑はそんなにひどくは無いのですが、市の将来の発展可能性を踏まえるときに、成長阻害要因の交通混雑という要素を予め除いておくというところにミソがあります。

GMPTA(グレーター・マンチェスター交通局)のSimon Warburton戦略チーム長の話では、環境問題や市の発展可能性の阻害要因を教え込むような念入りなアンケートを作り、その対応策としてのコンジェスチョンチャージに関する大方の住民の賛同を得、その上でプランを作成し、政府と協議中なのだそうです。マンチェスターは、先ず、公共交通門の整備を先行させるのです。バスや路面電車(ライトトレイン)の充実に25億ポンド(6250億円)以上の公共交通投資を行い、市民が自家用車から公共交通機関に乗り換える環境が整ったところで時間を置いてコンジェスチョンチャージを導入しようという計画です。

ロンドンが、先ずコンジェスチョンチャージを導入し、公共交通の整備を並行させたのとは大きく異なる対応です。現に生じている交通混雑の深刻さの相違かもしれませんが、将来の市の発展可能性の阻害要因として交通混雑を捉えるという観点には感心します。日本の国民年金ではありませんが「困ってから考える」癖の付いたどこかの国とはいささか異なる対応です。

それでもいろんな課題はあります。マンチェスター市を囲む他の自治体と共同(グレーター・マンチェスターの区域)でこの企画を進めているのですが、2つの自治体が住民アンケートを独自に行い反対を表明しているのだそうです。政治的な理由がこの背景にあるようですが、2つの自治体のアンケートは、単にコンジェスチョンチャージに賛成か反対かを問うものであり、グレーター・マンチェスターが行った、「アンケートを通じて問題の本質をさりげなく教え込む」ものとは異なるものだったのです。ここら辺に、アンケートを作る側の「意思」が現れます。

コンジェスチョンチャージに関しては、実は政府のレベルの構想があり、GPSによりそれぞれの車の走行記録を把握し、チャージをかけるという壮大な計画があります。ブレアー前首相が熱心であったものですが、この計画の実現を待つことにするのか、市が独自でマンチェスター方式を導入するかという判断が求められたとのことです。GPSなどはプライバシー把握などの問題もありマンチェスターでは採用しないようですが、現在は独自方式を追求しています。

Warburton氏は私の意地悪な質問にも的確に答えてくれます。「コンジェスチョンチャージが成功しすぎたら料金が入ってこなくなり公共交通投資の資金回収が覚束なくなるのではないのですか」、との問いに対して、「実は同規模の市のモデルはあるのです。ストックホルムとシンガポールを調べています。この制度導入で、3割は乗り換え、3割は時間帯を避けるか同乗節約、残りの3割は金を払っても市内に乗り込むのです」との答えでした。当然のことながらきちんと先進事例を調べ資金計画を立てているのです。

マンチェスター市では、教育委員会のAngela Schofield女史からも話を伺いました。一時期経済苦境に陥ったマンチェスターは貧困に伴う教育の荒廃が進み、全国水準を大きく下回る学力水準であったのを、改善努力を重ね、全国水準に急速に近づいている努力の経過をご教示いただけました。

3歳児からの無償教育の実施、家庭環境などで脆弱な環境にある子供たちのリストを作成し、学校、福祉関係者、警察などがチームを作りその子供たちを個別に指導できる体制を整えているという話には特に聞き入りました。マンチェスター市の教育委員会には18人のインスペクターがその活動を行える体制を構築しているのだそうです。それを支えるのに4人の管理職が別に本部に控えているのだそうです。

それでも脆弱環境にある子供たちのうち48%の子供は改善の効果が見えないのだそうです。家庭の問題に加え精神的問題などがあり、一筋縄ではいかないようです。とにかくマンチェスター市で子供たちが話す外国語の数は、とても多いのですから。

こうした個別の積みあげを行ってきた結果が「学力向上」に繋がっているのでしょうが、学力以前の問題解決こそ学力向上に繋がるものだと再認識させられます。

Schofield女史からは、「教育問題に興味があるのであれば次回は学校現場を案内してもよい」とのお話を伺え、是非お願いすることにしました。

もう一つの訪問地バーミンガム市では、Clive Dutton計画・都市再生部長の話を伺いました。OBEの称号が名詞に記されており、この方も大きな業績を残してこられた方のようです。産業革命で栄えた往時の威光を取り戻すべく、都市再生に向けた意欲は並々ならぬものがあります。欧州で最大規模の都市再生の計画概要を伺うことが出来ました。

バーミンガムの国際会議場は、世界各国からの国際会議を呼び込み、英国で開催される国際会議の半分はバーミンガムであるとのお話も伺いました。この国際会議場の稼働率はとても高いのだそうです。また25歳以下の人口が37%と、非常に若い世代の多い町でもあるようです。市内を歩くと若者が楽しめる施設が沢山あります。

こちらに来るまで知らなかったのですが、バーミンガムには運河(canal)が非常に多く、Dutton部長の説明の中でも、都市再生の切り札のひとつとして、運河の再生が取り上げられていました。ベニスの運河よりもバーミンガムの運河の総延長の方が長いのだそうです。Rimg0484

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東京や大阪もその昔は堀を巡らし栄えた水の都だったはずですが、現在では暗渠になってしまっています。以前東京で隅田川、神田川、日本橋川を巡るクルーズに参加したことを思い出しましたが、運河を都市再生の切り札に持ってくることは意外に面白いように思えます。歴史を復刻し温故知新による都市再生です。

この運河沿いに都市再生で、多くの都心内居住フラットを作っています。ビジネスマンなどの若い世代の人が都心に住むようになり、以前のように都心に「夜は誰もいない」状態から脱しているようです。

Dutton氏に、この地域とのRDA(地域開発機構)との関係を伺いましたが、Danton氏にとっては、バーミンガム市の規模になると、この地域の地域発展戦略はバーミンガム市に一元化すべきとの強い意見をお持ちでした。この問題に関して、バーミンガム市に一緒に同行していただいたバーミンガム大学のMike Smith、Kris Watson両教授によると、「ロンドン地域を所管するRDAのように市長が理事者を兼ねている場合は良いが、バーミンガムはそうではなく、悶着が生じやすい。一方で政府は、バーミンガムもロンドンのように市長の直接公選制を導入するのであればロンドンのRDAのように市長を理事者にしてもよいとの取引を考えている」ということでした。都心への若い人の居住も実は居住コストは非常に高く、経済が下り坂になった時に維持できるのかとの懸念も両教授からは教えられました。  

こうした機微な情報を頂けるバーミンガム大学と私の勤務する事務所は長年の提携関係にあり、日本の自治体職員の研修を引き受けていただいているだけではなく、英国の自治制度の動向についてもレポートを頂いております。今回も、バーミンガムの都市再生の現場をご案内いただくと供に、市当局にもご同行いただけました。こういうお互いの信頼関係に基づく地道なつながりを大事にしていかなくてはなりません。

ところで、マンチェスター・バーミンガム両市とも、市庁舎が立派なのには驚かされます。産業革命の成果を後世に残すように当時の市関係者が多額の資金を集め威容を誇る市のシンボルを作ったのです。それがいまだに引き継がれ使われているところにこの国の重みを感じます。歴史の深いベールに包まれながら、最新の施策を駆使するコントラストにある種の魅力を感じます。
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