廃止鉄道を復活させ地域振興を図るスコティッシュ・ボーダーズ
事前の地理的下見を十分に行い、Scottish Bordersの執行責任者の話を伺いにカウンシルに参上しました。
エジンバラ総領事館からは仁藤司史副領事にもご同席頂くことができました。(仁藤氏は政務担当ということで、積極的にスコットランド内政の運営の実態を調査されており、局面局面でいろいろ教えていただくことが多く、大変お世話になりました。)
スコットランドでは、1996年からスコットランド政府の元に一層制の地方自治制度(ユニタリー制)が敷かれており、Scottish Borders Councilも1層制自治体として10年以上の歴史を数えています。もともとこの地域にはウェールズの規模にも匹敵する大きなカウンティの元に基礎的自治体があったものを、基礎的自治体は一旦廃止、そして大きなカウンティーを自治が可能な範囲に幾つかに分割してできたものが現在のScottish Borders Councilであると、執行責任者のDavid Hume氏は説明してくれました。
Hume氏は、前にエジンバラ市にも勤務していたことがあるそうで、故郷に戻ってChief Executiveを勤めているのだそうです。これまでも何人かのChief Executiveに会っていますが、Hume氏も個性豊かで説明力が豊富なやり手のように感じました。
もともとこの自治体を訪問しようと考えたのも、Hume氏の招聘があったからなのです。騙されたと思って来て見ると、思いのほかに様々な発見があり、目の鱗が落ちました。もともとBordersという名前から想像すると、辺境の地で人口流出に悩み寂しい地域かな、などと思い巡らせて伺ったのですが、全く逆でした。
人口は微増ながら増えているのだそうです。伝統の繊維産業(この地区を流れている川の名前はTweed川です。名前から想像できる繊維産業のメッカです。)の他に、紙製品、食料品があり、そして期待の星は観光です。
伺って驚嘆しましたが、非の打ち所の無い観光資源が360度に亘って広がっています。どこから見てもうっとりする景観です。ホテルもこじんまりとしたホテルが品格を保って至る所にあります。ホテルのレストランもおいしい食事を提供し、周辺から足を運ぶ人たちがとても多いのだそうです。
ウォーキングやサイクリングにも力を入れ、訪れる人に対する宿泊施設などの更なる充実を計画しているという話も伺えました。東の北海沿いの海岸ではスキューバもできるとのこと。海岸トレイルのルートもあり、有り余る観光資源をどのように生かすか、Hume氏の地域戦略の腕が鳴っているようです。
我々が呼ばれたのも、そのようなScottish Bordersの真の姿を日本の自治体関係者にも知ってほしいとの思いが込められているように感じました。
Hume氏には、市のVice-Convenerという市議会の副議長に相当するRon Smith氏と開発部長のBryan McGrath氏も加わり、スコットランド議会との関係を含め市政全般に亘る議論が広がりました。
・スコットランドの新しい政権が自治体の権限を強めると言ったと思ったら最近慎重になっていること、
・最近は東欧からの移民がこの地域でも増えていること、
・サーッチャイズム以降の市場経済化の中で地域格差は生じているものの概ね改革は前向きに受け止めており、特に執行責任者の側にとっては政策手段の選択肢が広がって好ましいこと、
・公的部門の民営化も、従前公的部門で抱えていた人員を基本的にそのまま請け負う会社に移管しての民営化なので、被雇用者に十分説明をして乗り切ってきたこと、
・この地の中等教育の水準は全国でも高い水準にあり、その水準に見合った雇用形態を創出していくことが課題であること、
・この地は、エジンバラ、ニューキャッスル、カーライルの3都市の中間地点に位置し、多面展開が可能で地理的条件は悪くないと考えていること、
・エジンバラとの交通手段を強化すべく、鉄道敷設の計画があること、
などといった内容の話を順に伺っていきましたが、特に鉄道敷設の話には思わず身を乗り出しました。確かにこのCouncilの所在する地域は鉄道の便が悪く、私たちもこの地に足を運ぶのに車を使わざるを得ませんでした。
実はスコットランド議会で新たな鉄道を敷設する決議が2006年に行われ、2011年までにはMelroseの近くの駅まで列車が走る計画があるのだそうです。Waverley Railway Projectと呼ばれるこの地方鉄道敷設計画は、実は廃線になった旧路線の復活の意味合いもあるのだそうです。1960年代に自動車に乗客を奪われた英国の鉄道の少なからぬ路線が廃止の憂き目にあいましたが(Beeching Axeと呼ばれた英国鉄道廃止の計画)、Scottish Bordersでは、なんと復活するのです。
現在、日本では、赤字ローカル線が次々に廃止の憂き目にあっています。茨城県でも最近鹿島鉄道が廃止されました。鉄路に関しては採算性に加えた別の観点も必要ではないかと、このスコットランドの鉄道の話を伺いながら考えさせられました。この地でこの時期に何故鉄道敷設に漕ぎ着けたのか、公共交通部門の日本の自治体関係者は研究してみる価値が大いにあるように思えました。
一方で、Hume氏は、特に日本の自治体の廃棄物行政の先進性に高い関心があるとも語っていました。当然のことながら我々の側からの情報提供を約しました。
2時間半余りの会合の後は、私どもが自然探索が好きであるとの事前情報を入手していたHume氏のご好意により、Councilの職員でレンジャーであるKeith Robeson氏の案内で、前日に登ったEildon Hillを遠望できる別のHillに行くことができました。Waterloo Momumentが聳え立つやはり火山の跡の小高い丘です。
前日よりも更に空は青く、我々の訪問を待っていてくれたかのような晴天でした。
日本の農山村もそうですが、行ってみてはじめてそのよさが分かる、ということは、世界中のどこにいても真実だなあと、つくづく思います。先ず行って見るという最初の関門をクリアーすることがとても重要なのです。今回のスコットランドの「辺境の地」訪問で、事前の想像は完全に吹き飛びました。是非また来てくれとの、Hume氏の言葉が空の青さに乗りうつったようにも感じられ、その言葉を真に受けたいと思います。
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