ウェールズの"Pen y Fan"に登る
10月20日の好天に恵まれた週末、ウェールズのBrecon Beacons国立公園内にある南ウェールズ最高峰のPen y Fan (「ペネバン」と発音)山に登ってきました。標高は886mとさほど高くはありませんが、高い山の少ない英国ではそれでも高い山の部類に入ります。天候の変化が急で、ウェールズでもっとも危険な山という不名誉な名称も付けられているようです。
今回の登山は、ウェールズ在住のJET事業参加者のOB会のメンバーの登山に私たちも参加した形になりました。9名の参加者のうち英国側が6人、日本側が3人でした。英国側6人の中にはニュージーランドからの参加者も一人おり、国際色豊かな登山になりました。
今回の山歩きは、8月の上旬にウェールズに私が伺った折に、ウェールズのJETOB会の幹部の中に山歩きが好きな人がいるのをたまたま知り、ロンドン事務所の有志と共同の山歩きをしようという話が実現したものでした。
Peter Wills氏、Charlotte Evans氏、Richard Gunion氏、Dean Glaver氏、Owen Jones氏、Simonette Mallard氏の6人が英国側でした。日本側は、私の他は事務所の職員の角南和子さんとその友人である吉見桂子さんが参加しました。もう一人中原由紀恵さんも参加予定でしたが体調が優れないので宿で待機でしたが、彼女たちはたまたま岡山県関係者でした。どうも岡山の女性は団結が強いようで、角南さんの声賭けでサッと集まります。彼女たちの話を傍で聞いていましたが、「スコットランド、ウェールズの男性は優しい」などという英国男性評価が耳に入ってきました。残念なことに、日本男性の話は全く聞かれませんでした。
目的地はカーディフから車で一時間半くらいの距離のところにあり、路線バスが出ており、参加者は現地集合でしたが、私どもはRichard氏の自家用車に便乗し往復できました。
Richard氏はウェールズの歴史や現状に詳しく、カーディフから国立公園を往復する途中で、様々なことを解説していただけました。私が特に興味を持ったのは、Rhondda Cynon Taf という名前の炭鉱町を抜けたときです。英国の産業革命時代に良質な石炭を産出する地域として賑わったものの、その後の閉山で栄枯盛衰を極めた地域です。よくよく見ると高速道路の法面には黒い石炭層の露頭が姿を見せており、またボタ山のような姿の小山も目に付き、昔の石炭の町の面影を少し感ずることも出来ました。
Richard氏の話では、ウェールズ政府は企業誘致などこの地域の再生に大変努力をしているものの、高い失業率や不健康状態が続くなど地域の低迷の状態は続いていいるとの話でした。同氏はRhondda Cynon Taf County Borough Councilの幹部をよく知っており、日本の夕張市の再生などに絡み興味があるのであれば紹介するとの話もいただけました。
炭鉱の町を抜けるとBrecon Beacons国立公園に入り、丘陵と谷の組み合わさったなだらかな曲線と切り立った岩が見事に調和した自然が目に入ってきます。車を駐車場に留め、登山開始です。
緩やかな登りと下りを繰り返し、次々に広がる景観の雄大さに感嘆しながらの登山になりました。最初にCorn Duという鉄平石で出来ている巨大なテーブルのような頂に登頂しました。皆でお弁当を広げて昼食です。鉄平石の岩は腰を下ろすのにちょうどよく、私が持参したビールを皆で分けて飲んでいただきました。英国では昼に酒などは余り飲まないようで、英国人には意外に受けました。
Corn Duの頂から500mくらい行った先に、Pen y Fanがあります。珍しい名前でどのような意味があるのかを、地元出身のOwen氏に聞くと、「この地域のてっぺん」という意味のウェールズ語であるとの解説がありました。頂上に立つと、ジャズフェスティバルで有名なBreconの町が小さく見渡せるほか、四方の山並みや湖がパノラマになっています。Peter氏は凄いという意味の"stunning"という言葉を繰り返していました。Owen氏によると、この景観は典型的なウェールズの自然の景観ということですが、これは氷河が形成した地形だということでした。
行楽シーズンということもあり、登山客も結構来ていました。犬を連れての登山客や、兵隊の姿も見受けられました。初年兵の訓練や、特殊部隊に配属できるか否かの体力チェックのテストコースとしても活用されているようです。
手軽な行楽コースではありますが、天候の変化は激しく、遭難する人も少なからずいるようです。私たちが山登りをしている際も、前日に行方不明者が出たということでヘリコプターによる探索が続いていました。幸い、午後2時過ぎには発見されたとの話を後刻伺いました。山頂近くに1900年にこの辺りで行方不明になり亡くなった5歳の子供を追悼するオベリスクを見かけました。Tommy Jonesというのがその子の名前でした。何やら、松本の美ヶ原のことをまた思い出してしまいました。
それにしてもウェールズの自然も雄大です。過日伺ったScotish BordersのEildon Hillは優しい自然のイメージでしたが、こちらはそれよりも荒々しさがあるように思えます。なだらかさと急峻な崖の組み合わせのコントラストが印象的です。崖の下にあるエメラルド色の池も貴重なアクセントになっています。
稜線に沿って歩きましたが、途中で崖下の小さな池のほうに向かい、また稜線に戻るなどの「冒険」も試みました。Owen氏のガイドがあるので大丈夫だろうとの判断でした。崖下は意外に湿っており、行く筋もの小さな水流が草原のすぐ下を流れていました。水源とはこのようなところをいうのだろうと新たな発見をした思いもしました。稜線の上からははっきりと見えない連続した小さな滝も見ることが出来ました。
6時間程度の山歩きの道中、JETOBの人たちと仕事のことや私生活にわたることまで様々な話が出来ました。栄養学を専攻している一人は、日本の食生活をこちらに紹介できないかと考えていました。Obesity(肥満)がこちらでは大きな社会問題になっています。経済的に問題があるところほど肥満度も大きいという相関関係も指摘されており、このままでは社会基盤が揺らぐとの危惧も出ています。
近いうちにニュージーランドの大学に留学するという人もいました。心理学を勉強するのだそうですが、英国の大学よりも学費の安いニュージーランドに行って勉強したいとのことです。実はその背景に日本の千葉県でJETに参加していた際に知り合ったニュージーランド人の女性と仲がよくなり、その女性のところに行くことになるということです。今回もたまたまウェールズに来た彼女を伴っての山歩き参加だったのです。
来年の日英外交関係150周年に、JETOBとしても様々な形で協力していきたいということで、お金のかからない形での知恵をお互いに出し合いたいとの話も出ました。JETの関係者も、取っ掛かりとなる何らかの事業があれば集まりやすくなります。
Charlotteさんが、ロンドン事務所の歴代所長でウェールズの山に登ったのはあなたが初めてじゃないのかしら、などとおだててくれました。
我々がいるロンドン事務所も、山歩きを供にするというような形で彼らと日常的に友達付き合いが出来れば、更に幅広く奥の深い人間関係の構築も出来るものと考えています。JETOBの皆さんも次第に社会経験を蓄積し、英国社会を支える立場に立って行きます。
今回の山歩きは、ウェールズの自然に親しむだけではなく、継続的な草の根のレベルの日英関係構築のあり方を考えるヒントも得られた機会となりました。
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