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September 01, 2007

聖パトリックが三位一体の説明で用いたシャムロックの葉

8月末にアイルランドのダブリンを初めて訪問しました。JET事業で日本に滞在した経験者のアイルランドOB会の人たちと今後の相互の協力のあり方を議論するとともに、ダブリン市のシティーマネージャー、日本大使館の関係者との意見交換を行うためです。

お集まりいただいたアイルランドのJET・OB組織の幹部の方々は、それぞれ新潟、岡山、島根、大阪に滞在したことがあり、それぞれ赴任地のことを非常に懐かしがっていました。アイルランドからも毎年日本に数十人が英語教師などで赴任していますが、残念なことに最近その数が減る傾向があります。今年は38人が日本に旅立っています。

Mark McEboy氏は、JETから戻って日本大使館でJETプログラムの調整役の仕事をしているのですが、やはり人数減を気にしていました。82名の応募があり、そのうち38人が選考され日本に旅立ったのですが、最近応募の数が減っていることを心配しています。

しかし、幸いなことに、応募者の質自体は悪くはなっていないという付言もありました。応募が減っている理由としては、好景気で民間企業などの就職率がよいこと、円安でJETの在日時の処遇が大きく目減りして見えること、などをあげていました。

一方で日本の自治体は、JET事業で外国青年を招聘するよりは、日本の語学学校から外国人教師を派遣してもらったほうが「効率的」という考え方から、JET事業から遠ざかる向きもあるという事情もあり、日本側外国側それぞれの事情が微妙に絡み合う局面も生じています。

ともあれ、JET事業が培った蓄積はアイルランドでも着実に浸透しつつあります。ダブリン市内で、若いアイリッシュが、新潟県の旧大島町の話や岡山県の山村地域の話で花が咲くということは、不思議な光景です。

こういう蓄積を途絶えさせてはいけません。更に生かしてこそ、これまでの蓄積が生きます。しかし、ダブリン市内にあるトリニティカレッジというエリート大学で、最近日本語講座が廃止になったという話も伺いました。大学側にはいろいろな考え方があるとは思いますが、日本政府もこうしたちょっとした動きを座視していることは望ましくないように思えます。

Neil Maher氏が現在のアイルランドのOB組織の会長を務めていますが、彼は毎日のように朝日新聞のネットニュースをフォローしているのだそうです。驚くほど正確に日本の政界事情も把握しているのには驚きました。アイルランドへの進出企業に対する税務関係のコンサルタントをやっているとのことで、その視点から見たアイルランド経済の現状に関する分析もご披露いただきました。

それによると、アイルランドは、EUへの加盟、英語が日常語であること、国家が教育に力を注いできたことなどが相まって、このところ経済の成長が著しいのだそうです。おまけにアイルランドは12.5%という特別の法人税率を設定し、外国企業を誘致してきたのだそうです。またIFSCという国際金融サービスセンターの集積地を作り上げ、ここに進出する外資系金融サービス企業は非常に多いのだそうです。

たとえば、シチーバンク、グーグル、マイクロソフトといった金融系、ハイテク系外資企業は欧州の拠点をダブリンに置いているのだそうです。

その結果、人口400万人のアイルランドは一人当たりのGDPが欧州でルクセンブルグに次ぎ、2番目の高額所得国になっているのだそうです。もとより、日本のそれよりも多いのです。この事実を知っている日本人はそうは多くないかもしれません。

しかし、Maher氏は一方で、ダブリン市内の地価の上昇が著しいこと(家を買うのに最低でも100万ユーロはかかるとのこと=1億5千万円!)、ダブリン中心市街の住宅は投機の対象になり、地上げが横行し、中心市街地は貸家が増え空洞化が目立ち、旧来のコミュニティが崩壊しつつあること、所得格差が拡大していること、といった負の側面もご教示いただけました。

EU内でも、アイルランドが昔のような貧しい時代ならまだしも、ケルティックタイガーと呼ばれるようなEUの高額所得国に成長したにもかかわらず、開発途上国で導入しているような租税軽減措置をいまだに継続しているのは不見識だとの批判も出ているとのことでした。

Tara MaddenさんやCharis Hughesさんは、アイルランド人らしい人懐っこい表情で日本での思い出などをお話いただけましたが、せっかくの日本との縁をこれから継続的に維持していくための方策の必要性認識について意気投合しました。

日本大使館では関係者とお話をする機会がありましたので、トリニティカレッジの日本語講座の廃止の件を持ち出すと、頭を痛めているとの返事がありました。日本企業のプレゼンスが高い時代であれば工夫の余地もあるのだけれども、なかなか解決策が見つかりにくいとのお話でした。

ところで、アイルランドに関する大使館の方の話は、Maher氏の話と重なる部分が随分とありました。林大使の認識では、EU加盟、EUの他の国へのへのアクセスのよさ、英語圏、労働者の質の高さ、低い法人税率、補助金といった理由で外資系企業の進出が進み、アイルランド経済はこのところ活況を呈してきたが、賃金上昇が著しい結果、ソニー、富士通、旭化成、NECなどの日系企業の工場が相次いで撤退、製造業では現在はアルプス電気が継続しているくらいであること、最近は金融、IT、ソフトウェアー、製薬といった業種が拠点を形成していること、経済発展に比べインフラ整備の遅れが目立つこと、郊外と市内のアクセスの悪さが目立ち、交通渋滞は日常茶飯事であること、といった諸点をご教示いただけました。

面白い視点として、アイルランドでは、語学学校が一大産業になっているとの指摘もありました。語学留学生を大量に受け入れ、高額な授業料収入を得ているとのことでした。たとえば、中国人の語学留学生は6万人いるのだそうです。400万人の人口で、です。中国人留学生は、語学学校に通う傍ら、レストランや清掃などのアルバイトで稼ぐのです。アイルランドでも外国人に対する就労の一定の制約はあるのだそうですが、所得が高くなったアイルランド人が就かない仕事の穴埋めを、こうした語学留学生が事実上埋めているのです。

しかし、アイルランドの「地場産業」は有名なギネスビールのほかはあまり見当たらないようにも思えます。政府も最近では研究開発面での自力をつけていく展開を図っていかないと次のステップに移れないとの危機感を感じ始めているようです。

話の中で、西松建設のトンネル工事の赤字受注の話は国際入札の難しさを物語るものとして印象に残りました。大きなトンネル工事を手がけた西松建設でしたが、騒音を問題視する住民運動の声に押され、政府が工事の時間帯を著しく制約したことから、工期が大きく遅れ、結果的に儲からない受注になったというものでした。その顛末が広く日本の建設事業者に共有され、アイルランドの工事受注で黒字を出すのは難しいとのチリングエフェクトを生じているのだそうです。ダブリン市内の交通渋滞解消のために地下鉄工事の受注需要があるのに日本企業は腰が引けている様子です。

そもそも反英国運動から始まったその成り立ちから反権力的な要素の強いアイルランド政府は、「反対意見」に過敏に反応する傾向があるようです。西松建設の工事もトンネル工事ですから、24時間工事が可能のように思われますが、少しでも気になることがあると政府に苦情が行くようで、政府による工事時間帯の規制、それも西松建設の負担で賄うべしとの要求が、日本企業の苦境を招いたとのことでした。

アイルランド大使館の方とは、JET事業に関する互いの協力関係の緊密化を約し、お別れしました。

ダブリン市では、シティマネージャーのJohn Tierney氏との話し合いを持ちました。昨年の9月から現在のポストに就任されておられるTierney氏は、リバプール、バルセロナ、サンノゼといった欧州や米国の都市との提携に加え、日本の都市との提携も考えてゆきたい旨お話でした。多面的な国際関係の中でダブリン市の位置づけを考えたいとの戦略思考が覗えます。そういう考えもあり、対外関係の部署も新たに作ったばかりということで、そこの部署の責任者の方も同席されておられました。日本の都市との交流の相談に乗ってもらえるのかというご質問があったので、それも我々の任務のひとつである旨お答えしました。

ところで、Tierney氏の話から、アイルランドも英国と同様に、中央政府が地方自治体から財源を吸い上げコントロールする傾向がこれまで強まってきたとの話を伺いました。英国が「地方自治の母国」と呼ばれたのは過去のことですが、アイルランドも昔はそうだったが今では違う、と語っておられたのが印象的でした。

それでも、制約された中で、ダブリン市の発展のために何ができるのか、考えなければならない立場にあるのです。

ダブリンのシティーマネージャーは、英国の都市のチーフエキュゼキュティブに相当します。来年の2月に予定されているウェールズのカーディフでのわが事務所主催の日英セミナーへの参加を促したところ、参加希望も表明されました。日本の自治体の抱える課題についても積極的に吸収していきたいとの姿勢に、今後の協力関係の縁を見出せたように感じられました。

ダブリンからロンドンへの帰路、ダブリン市内にある聖パトリック大聖堂に立ち寄りました。Rimg0237_3
5世紀にアイルランドにキリスト教を布教し、アイルランドの守護聖人として親しまれている聖パトリックは、一時期ブリテン島からさらわれ奴隷としてアイルランドに売られるなどの苦境の末、再度キリスト教布教のためアイルランドに戻ったという説明がありましたが、この神父は、時の王にキリスト教の三位一体を説明するのに三つ葉のクローバーの形をしたシャムロックと呼ばれる植物を使ったのだそうです。

私たちがアイルランド訪問時に使ったAerlingus航空のマークがこのシャムロックでした。日本の三位一体改革の議論のときにも、このシャムロックの葉をイメージキャラクターとして使えばよかったかなあなどと、きわめて世俗的な発想をしてしまいました。

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