大ロンドン市長選に向けてのHUSTINGS
私の勤務する事務所のアンドリュー・スティーブンス氏が、HUSTINGSという催しものがあるので、見に行かないかと誘ってくれたので、ウェストミンスターとはテムズ川を隔てて向こう岸にあるボクソールのホールに出掛けました。
ところで、アンドリュー氏は、英国の地方行政に関する入門書を著しているジャーナリスト兼研究者でもあり、英国の地方行政分野に幅広い知己とネットワークをお持ちで、わが事務所も大変重宝しており、今回のHUSTINGS参加も実は彼の知人からのお誘いがあって実現したのです。
ところで、HUSTINGSとは、英国で政見発表演説会のことを指し、来年5月の大ロンドン市長の保守党の候補を選定する政見発表会が9月10日の夜に開催されたのです。
現在の大ロンドン市長は労働党のケン・リビングストン氏であり、「RED KEN」と呼ばれるように、昔は左翼の活動家としても有名な人でした。ロンドンに混雑税を導入したり、オリンピックを誘致したり、ベネズエラ大統領と直接交渉し、ロンドンに原油を低廉な価格で輸入したりと、派手な政策で新聞をにぎわせている名物市長で、現在は2期目です。
この強力市長に挑む保守党の候補選びが、始まったのです。9月30日の候補者指名に向けて、民主的手続きが動き出したのです。その手続きの重要な場が、このHUSTINGSなのです。
女性候補のBorwick氏を除く3名は、Warwick、Boff、Johnsonの男性3名です。この中で、最も有力とされる候補がBoris Johnson氏で、同氏は現在保守党の若手下院議員で且つ保守系週刊誌「スペクテイター」の編集長、小説家、ジャーナリストといった多彩な活動をしています。アンドリュー氏によれば、活動の多彩さは私生活にまで及び、奥さんのほかにもとても親しい女性が複数人いる話が報道されているとのことでした。しかし英国ではこの手の話は相当程度寛容とのことでもありました。
さてその肝心のHUSTINGSでは、4名がショートスピーチを行い、会場の申し出を予め受付け、指名を受けた者が、手短に質問をし、候補者の政見の全体像を引き出すという手続きで進みました。
アンドリューの話では、議論が白熱するという触れ込みでしたが、私の受けた印象は、同じ政党内の和気藹々とした雰囲気の中で行われたという印象でした。
ニューヨークに比べて後手に回っている犯罪対策、逼迫した住宅供給政策、バリュー・フォー・マネーを意識した徹底した行政改革、混雑税の撤廃、公共交通の充実、自転車利用の促進、他民族コミュニティの糾合などが議論の対象でした。
私の目には、候補者ごとに大きな政策の差があるようには思われませんでしたが、聴衆を沸かせる話術で一際目立っていたのがやはりBoris Johnson氏でした。独特な言い回し(「housing of dignity and distinction」、「make the top deck of a bus a place of calm and civility」、「a wretched truth that you are more likely to be a victim of some types of violent crime」など) とワサビの利いた皮肉に拍手が起きていました。
今後各地で同様のHUSTINGSが行われ選挙に向けて雰囲気を盛り上げていくようですが、会場はビールを片手に参加している聴衆もあり、まるでパブにいるかのような雰囲気のなかでの演説会でした。
それにしても、それぞれの候補者の政見項目は気が利いています。A5版の裏表の用紙1枚の中にとても分かりやすくコンパクトに主張が書いてあります。特にBoris Johnson氏のそれは、ユーモアと皮肉がたっぷりで、まるで雑誌のコラムを読んでいるようです。日本の政治家もこのようなスタイルは大いに参考にできるはずです。
演説の巧みさと洗練された文章力。英国の政治家は、鍛えられてひのき舞台に上がってくるようです。
一方で、左翼陣営は、保守党がBoris氏でまとまることを見越し、リベラルな圧力団体のリンク(www.compassonline.org.uk)で、別途Boris氏の「思想の本質」を暴く解説パンフレットを用意しているのです。
まさに言論の国くにイギリスです。このパンフレットを見ると、Boris氏の過去の発言を丹念に調べ、有権者に複眼的な情報提供を試みています。言論の上に成り立っている民主主義の真髄を見る思いがします。
1時間半ほどのHUSTINGSを終えて、地下鉄のあるヴォクソール駅方面に歩いて帰りましたが、帰途SPAと書いた施設が目に付きました。アンドリュー氏に、このSPAは旅行者用なのかと聞くと、彼は、「虹の旗がかかっているのが見えるでしょう。これはゲイ専用のサウナ施設という意味です。決して間違えて入ることのないように」と教えてもらいました。7色の虹の旗は、欧州ではゲイ専用施設であることを示す表示だということです。このような話は旅行ガイドブックには書いてありそうもありません。やはり生粋のロンドナーは様々なことに通じているのです。
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