英国自治体の中央政府依存精神文化?
おそらく米国もそうなのでしょうが、英国には様々なシンクタンクがあり、英国の官庁街Whitehallの周辺には、それぞれの政治的背景をしょった目的意識が明確な研究機関が集まっています。
そのうちの一つ、中道右派のPolicy・Excangeという機関の企画で、Londonの中心地にあるWestminster City Councilのリーダーを長年にわたって務め、実質的にWestminsterの指導者でもあるSimon Millton氏の地方分権に関する講習会があるというので話を聞きに伺ってきました(9月12日)。
Milton氏は、同時にLGAという英国の自治体で構成する圧力団体の会長でもあり、その存在は関係者の間ではよく知られた人です。保守党の中での政治的ポジションは中道左派に位置すると言われている若手地方政治家でもあります。
話の内容は、中央政府によって遂行されている無駄を指摘し、地方分権により現在の政治が抱えている多くの課題は解決されやすくなるというトーンでした。特に、地方議員が地元の事情に精通しており、選挙で選ばれた地方議員にこそ、権限を与えてゆくべきとの意見でした。英国では地方選挙の投票率が非常に低いことが問題視されていますが、それは地方自治体の権限と財政に大きな制約があるため地方自治体の存在が選挙民の関心の対象になっていないからだとの指摘もありました。
Milton氏の講演の中で特に印象深かった点は次のとおりです。
現在、ブラウン政権になってから、成文憲法のない英国で統治構造の基本問題の議論がありますが、それに関連し、2006年の白書で記述されたあらたな中央と地方の関係を規律する「中央・地方協定」(central-local concordat)の必要性を指摘しつつ、この協定の憲法上の位置づけ(成文か不成文を問わず)のあり方にも触れています。
Milton氏は、地方政府をこの憲法議論の中心に位置づけるべきだと主張します。地方議会は、コミュニティがその将来を決定する舞台のようなものであり、そこに活力と信頼を付与していくことが民主主義を発展させることになると指摘します。
具体的には、地方議会と国会の関係を見直し、両者の間の連携を提言しています。貴族院議院の見直し議論に絡め、ドイツ、オランダ(両国とも上院の全議員が地方の代表)、ベルギー、スペインの例(両国とも上院の一定割合が地方代表)を引き、例えばイギリスでも貴族院議院議員の1割は地方代表、特に地方議員代表とすべきだと提言しています。
同様の考え方から、今後、新規に地域協議会が設立される場合には、そのメンバーとして地方議員と国会議員の双方が参加すべきことも提言しています。
そして、選挙のタイミングについても、現在は地方自治体ごとの多様で複雑な仕組みを改め、地方議員選挙を国政選挙の合間の中間選挙として位置づけ直し、選挙民に地方選挙を国政への意思表明としての位置づけも与えるべきだと指摘しています。
Milton氏は、Simon Jenkins氏というタイムズ紙の著名ジャーナリストが指摘している、1980年代の英国においては、①民営化と組合改革を通じた市場経済化と②それを実現するために必要だと思われた中央政府の権限強化の2つの動きがあったとの見解を引用しながら、その後の政権においてもこの中央集権化の動きを覆す政策がとられてきたとはいえないと断じています。
中央政府の許認可のために英国においては都市の再開発の動きがドイツなどに比べ緩慢であること、中央政府が毎年発出するガイダンスの束(rainforest of guidance)と中央政府が設定する実績評価指標や成果目標の設定により、結果的に地方自治体に中央政府依存の精神文化(dependency culture)が醸成されていると批判しています。
Milton氏の試算では、中央政府が地方行政をチェックするためにかかっている費用は25億£(6千億円超)に上るとしています。この資金があれば、教師33000人、警察官14000人、老人用のベット37000床が用意できるとも指摘しています。
地方自治体の税収であり、住民の不満が最も大きいと言われるカウンシルタックスの改革の必要性についても触れ、現在の手詰まり状態(stalemate)はもはや放置できないと段階にあるとも指摘しています。
米国流の地方自治は、たとえ失敗があっても成功事例をみなが習うことで結果的によい結果がもたらされると、そういう見方もしています。
英国の地方議員は、自らが執行部の責任者になっているだけに、理事者としての意識が日本の地方議員の方々に比べて強く伝わってくるように思えます。中央政府が地方自治体の評価を実施することに関する肉声を聞けたことは新鮮でもあり、こうした声を直接聞くのは、とても勉強になります。
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