失業率30%を克服した地域戦略
週末に二回目のMedwayに行って来ました。前回もAshley Davis氏からお誘いを受けてMedwayに伺いましたが、その際に伺った話を更に深めてみたいという気持ちがあり、再訪しました。
ちょうど、MedwayのGillingham地区で三浦按針(ウィリアム・アダムス)祭が開催されるというので、お祭り激励も兼ねて出掛けました。
Medwayの資料によると、日本の歴史の教科書にも出てくるアダムスは、1564年にGillinghamに生まれ、大英帝国の海軍に所属し、フランシス・ドレイク卿の指揮下、対スペイン戦争に従事したあと、結婚してオランダに渡り、1600年にリーフデ号の航海長としてにアジアに航海し豊後に漂着、のちに徳川家康の信任を受け幕府の外交顧問となり、知行地を三浦郡逸見村に賜り、貿易、造船、幕府の兵力の装備強化等の指導にあたった人です。三浦郡は現在の横須賀市であり、その経緯もあり、Gillinghamと横須賀市は姉妹都市の関係にあり、合併してGullinghamを包含したMedwayにその関係が引き継がれているということなのです。なお、静岡県の伊東市も姉妹都市の関係にあります。
「WILL ADAMS FESTIVAL 07」と銘打ったお祭りは、秋晴れの晴天の下非常に盛会で、Medway市民が16-7世紀頃の衣装を着込み、エキゾチックな日本文化に触れる機会を楽しんでいました。また、旧市街地の周辺に駐車場を整備し、旧市街地からは車を締め出すコンセプトは、その都度感心させられます。
たまたまCllr Val Goulden Medway市長がご主人と一緒に野外でハンバーグを召し上がっておられ、私どもも紹介され戸外の椅子に一緒に座り、コーヒーを飲みながら、「蒲谷亮一横須賀市長や澤田秀男前市長とは昔広島で一緒だったことがあるのですよ」、などという話をしてひと時を過ごしました。
会場には国際観光振興機構の奥田哲也ロンドン事観光宣伝事務所長も、所長自ら日本の観光宣伝を兼ねブースに張り付いておられ、その仕事熱心さに感服しました。
実は、今回、Davis氏がMedway市のLes Wicks市議会議員を紹介してくださり、何となく意気投合したWicks氏からは結果的に5時間にわたりMedway全域を自分の車で案内していただくご好意を賜ることになりました。Wicks議員は1979年に初めて議員に当選以来熱心に市制に携わって来られ、最近では、子供の育成、教育、学習部門の市政の責任者をされています。ユニタリー制度(地方自治制度における一層制)を採用しているMedwayは、元々Kent Countyの持っていた権限も行使するようなっており、Wicks氏によると、ユニタリーに移行してから、子供に関わるすべての責任がMedwayの権限となり、「best for children」の観点から、「joint-up care」ができるようになったと胸を張っておられました。
ご本人は、若い頃にクリケットの選手でもあり、特にスポーツ振興を通じた青少年育成に情熱を傾けておられるようでした。青少年育成の市の執行責任者の案内で、市内のスポーツ施設、ケント大学、グリニッチ大学、カンタベリー・キリスト教会大学の構内を見て回りました。これらの3大学は英国海軍兵舎跡を活用した同じキャンパスに所在し、少し離れたところにあるUniversity College for the Creative Artsという大学とともに、将来は大学の統合もあり得べしとのWicks氏の見込みも伺いました。
Wicks氏によると、Medwayは、大変な苦境に陥った時期があったのだそうです。サッチャー政権下の1984年にMedwayの海軍施設が時代の変化の中で廃止されたのです。一時期失業率は30%を超え、どうやって地域経済の復活を果たすかが当時の政策課題だったのです。Wicks氏は保守党の議員ですが、言葉の端々にサッチャー批判が滲んでいるのを感じましたが、それには理由があるのです。地元のサッチャー批判の煽りで、Wicks氏は一時期落選の憂き目にもあったのだそうです。
Medwayは、しかし、見事な復活を遂げつつあります。海軍基地跡地には大学の誘致、法人税率を10年間ゼロにしての企業誘致が功を奏し、更には、ドックヤードの再開発で、住宅建設、ホテル建設などが目白押しです。Rochester、Guilligham、Chathamといった市街地を一望できる丘に案内されましたが、こちらの言廻しでRegeneration(再開発)と呼ばれるプロジェクトも鳥瞰することができました。今後15年のうちに、数万戸の新規住宅の建設が計画されているとのお話も伺いました。
ロンドンオリンピックに向けて、各国から集まる選手の練習場として、ロンドンから僅かの時間で通えるMedwayは注目されており、Wicks氏のスポーツ振興にも力が入ります。London・Medway間を30分以内で結ぶ、特急列車の導入も予定されているのです。
ロンドンオリンピックを視野に、運動能力の高い青少年の特別の育成プログラム(Elite Athelete Support Programme)が、Medwayとケント大学の協力の下に開始されるなど、地元の熱の入れようが伝わってきます。
スポーツエリートだけではなく、青少年を含めた一般向けのスポーツ振興も盛んで、公立の施設が立派なのには驚きました。
8歳から16歳までの限定の指導員付きのスポーツジム(Youth Gym)までが用意されているのには更に驚きました。広い緑地空間があり、かつ青少年のための思い切った資金投入を行っているMedwayの政策は、大いに参考になります。こうしてMedwayの魅力を増し、EUの中の都市間競争で優位に立ちたいとの気持ちが伝わってきます。
Wicks議員と別れ、列車で20分ほどのWhitstableにまで足を伸ばしました。やはりMedwayが進める広域観光戦略に位置づけられた「Maritime Heritage Trail」のひとつの沿岸拠点です。潮の香りのする小さな町でしたが、地元名物の牡蠣を半ダース食べてみました。ビール一杯と併せて10£強(2500円程度)の値段でロンドンに比べお得でおいしい夕食となりました。
ところで、地元の水先案内人に恵まれると、より深い地域探訪ができるものです。横須賀市や伊東市も、せっかくの姉妹提携を、政策共有の観点からも活用してもいいなあとの思いがふとよぎりました。
The comments to this entry are closed.
Comments