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August 23, 2007

自治体主導の国境をまたぐ「海道遺産を辿る」プロジェクト

Medwayという人口が25万人強のユニタリーと呼ばれる一層制の自治制度を採用している自治体(Borough)のAshley Davis氏から、Medwayの地域開発の現状と地域の歴史遺産を紹介したいので時間のあるときに来ないかというお誘いがあり、半日の旅程でMedwayでも歴史のあるRochester地区を訪問しました。


Rochesterはロンドンのビクトリア駅から1時間弱の通勤距離にある、歴史のあるところです。Charles Dickensがこよなく愛したこの地は、彼の多くの小説の舞台となりました。 

Davis氏の案内でRochesterのハイストリートを歩いていると、あちこちにDickens縁の建物があるのことには驚かされます。彼自身は、死後はRochesterでの埋葬を希望したものの叶えられず、ウエストミンスター寺院の詩人の敷地に埋葬されたとDavis氏が解説してくれました。このハイストリートのイメージとしては、木曽の妻籠宿が英国風になったような感じを受けました。Rimg0224_2

Medwayは、もともとはこの地域を貫いて流れる川の名前ですが、Rochester、Chatham、Strood、Gillighamの4つの町が合併してできた自治体です。ローマ時代から開けたRocesterが歴史が最も古く、その後は、Chatham、Gillighamにあった海軍基地を中心に栄えてきた歴史があるのだそうです。Rimg0234

合併は1972年にGilligham以外の3地域が先行合併し、1998年にGillighamが加わり、この時点でKent県(County)から行政的に外れるUnitary自治体として発足することになった経緯があるようです。

Davis氏によると、「元々石油精製所に土地を売却したStroodが売却収入を基金に積みその利子収入が毎年あったことから財政的に豊かで、その結果カウンシルタックスも安かった。Rochester 、Chathamが合併するまではまだよかったが、Gillighamが一緒になった際には、Gillighamのカウンシルタックスは下がったが、他の地域の税は逆に上昇し、一時期不満が出たこともあった」という経緯もあったとのことです。また、合併により、Stroodが貯めこんでいた基金は取り崩されてきているという話でした。

ところで、英国の合併は日本の合併を凌ぐ規模で行われています。現時点での市町村にあたる自治体の平均人口規模は英国は12万人を超えています。日本は7万人を少し越えるくらいでしょうか。英国政府はこれに加え、一層制の自治体組織も徐々に導入するなど、シンプルで規模の大きな地方自治体組織の構築を目指しています。

英国はなぜこんなに合併に一生懸命なのでしょうか。英国政府は効率化、競争力といった名目を掲げていますが、Medwayを訪問してDavis氏の話を伺っていると、競争力というある一面では頷ける側面があるということを感じます。

それは、Medwayではこの地域の競争力を高める数々のプロジェクトが計画的に進められているからです。Davis氏は、Medwayの地域開発、教育振興、観光振興などを具体的に説明してくれましたが、いずれも大変戦略性にあふれていることに驚かされます。

10年前まではこの地域に大学はなかったのですが、現在では、Kent大学などを誘致し、地域の研究教育機能を高めるとともに、その成果を地域のマイクロビジネスに生かすことにも成功しているとのことです。Davisさんに英国料理の昼食をご馳走になっている折に、たまたまKent大学副学長のDavid Melville教授がDavis氏を見つけ近づいて来られたので、Davis氏は私たちを副学長に紹介してくださいました。私たちの訪問の趣旨を理解した副学長氏は、「Kent大学にも日本人留学生がいるのですよ。わが大学でも日本の自治体とはさまざまな局面で協力できるので、とにかく一度大学にお出でください。歓迎します。」という話になりました。

このようなDavid氏のKent大学への食い込み具合を見ると、Medwayが、地域と大学の連携に非常に気を使っているのが分かります。

また、この地域で起業したい人には、Davis氏が様々な情報提供、便宜供与を買って出ているのだそうです。Davis氏は、Medwayのよろずコンシェルジェという感じです。国際関係の対応も彼が手がけているので、我々のような外国人への対応も非常に熱心にやってくれているのです。

お話を伺った中で、観光戦略に特に合併の意義を見出せたような気がしました。フランスとドーバー海峡を接している英国のKent地域とフランスの対岸地域それぞれに「海道遺産を辿る」(Maritime Heritage Trail)と銘打ったプロジェクトを国境をまたがった国際プロジェクトとして打ち上げ、EUの補助金も受け、実施しているのです。このプロジェクトは、国の主導ではなく、Medwayとフランスのカウンターパート(Syndicat Mixte de la Cote d’Opale)が30の機関と協力して主導しているのです。Trailとは山登りだけではないのです。

このプロジェクトに代表されるように、合併によって自治体の規模を大きくして、戦略性のある地域政策を編み出すという政策目的が、Medwayでは成功しているように感じられました。EU全域を視野に入れた地域戦略なのです。

このMedwayの地域戦略推進にぴったりの人がDavis氏のような人たちなのでしょう。英国では、自治体(政府もそうですが)がそのポストに最もふさわしい人を公募によって採用するのです。

Davis氏は、Medwayに奉職する前は、30年間TESCOという英国の大規模スーパーに勤め、そこのマネージメントや地域社会との関係作りの実績を買われ、Medwayの今の職に採用されたのだそうです。9年間の公務であり、今年で59歳なのだそうです。

とにかくネットワーク作りが好きな方で、私たちの訪問時にも中国系英国人の若者Chinkwong Yau君を伴っていました。彼は大学でビジネスを勉強してきたのだそうですが、現場の仕事ぶりを学びたいとのことで、David氏の周りについて実地研修を行っているのだそうです。Yao君の父親はこの地域で有名な中華料理のレストランを営んでおり、1960年代に香港から英国に移住してきたビジネスの成功者のようです。この地域の中国社会の束ね役でもあるようです。

跡継ぎ息子に幅広い実地体験をさせたいとのことでDavid氏に研修の依頼があったようです。Davis氏は、英国内のエスニック社会にも食い込んでいるのです。

私たちの訪問時のやり取りに加え、我々との昼食も「ビジネスランチとは」という勉強材料だったようです。我々も研修の材料にはされましたが、私たちにとっても、英国の中国社会へのかすかな扉が開けたのかもしれません。Yao君のメールアドレスを伺いましたので、何かの機会に活用できればと思います。

ところで、Medwayには、事務所の佐藤武弥氏と出かけました。彼は長野市からの出向職員で、何と、100万円もする高価な自転車を持っているのだそうです。今度日本から取り寄せるということなので、私から、「それでは、私もロンドンで自転車を買うので、一緒に、Maritime Heritage Trailを自転車で回る企画をしよう」という提案をし、そういうことになりました。パワハラにはなっていないと思うのですが・・・


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