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August 18, 2007

静岡フィルハーモ二ー管弦楽団英国公演

ロンドンにいると、文化的な行事への参加に恵まれることがあります。8月17日に英国コベントリー市での、静岡フィルハーモニー管弦楽団の公演にお手伝いをかねて参加しました。

静フィルは、今年創立30周年を迎え、2001年のバーミンガム・ロンドン公演に引き続き、今回17日、18日と、コベントリー・ロンドン公演を実現しました。

静岡県は、バーミンガムやコベントリーを含むウェストミッドランド地域と友好交流を続けており、今回の公演も地域間文化交流の一環としての訪問になりました。

私の事務所にも静岡県から竹田敏彦氏が出向してきており、こちらでの受け入れが滞りなく進むように、受け入れにご尽力いただいたバーミンガム大学のクリス・ワトソン教授や楽団関係者との調整を行ってきていました。

せっかくの機会なので、私も楽団のコベントリー公演を拝聴に伺いました。公演場所であるコベントリー・カテドラル(大聖堂)での練習風景からの拝聴となりましたが、本番もすばらしい演奏となり、500人近い聴衆からは割れんばかりの拍手の喝采を受けました。Rimg0205

曲目は、外山雄三の「管弦楽のためのラプソディー」、チャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第一番 変ロ短調 Op.23」、同じくチャイコフスキーの「交響曲第5番 ホ短調 Op.64」でしたが、いずれもすばらしい演奏で、演奏後、耳の肥えた英国の中部地域の皆様からも、異口同音に祝福の言葉が寄せられていました。

コベントリー市のデーブ・バッテン市長ご夫妻も最前列の席でお聞きでしたが、日本のローカルな管弦楽団がこれほどの演奏をするとは思っていなかったようでした。「このカテドラルでは演奏会は珍しくはないが、これほどの市民が集まったのは珍しい」ともおっしゃっておられました。

バーミンガム大学のワトソン教授とともに静フィルの公演実現にご尽力された地元の名士ウィルアム・ローレンス卿は、「音楽は対立した人々の心に和解を促す(reconciliate)ものだ」と、公演後呟いておられました。「今日の演奏者の関係者の中には、第2次大戦で英国とも戦った人がいるはずだ。戦争で破壊され、再建されたカテドラルでのこの演奏はとても意義深い」と、歴史の中で家系を維持してきた英国貴族らしい高邁な感想を述べておられました。

実は、アンコール演奏として、指揮者の海老原光氏は、流暢な英語で、「8月は世界にとってとても意味のある日なのです。この月に第二次大戦が終わったのです。第二次大戦で多大な被害を受けたこのカテドラルで8月に演奏が出来るのは、とても意義深く、コベントリーの皆様に感謝の意味を込め、世界の平和を願いつつ」、エルガーのエニグマの第9曲目を演奏したのです。ローレンス卿はそのことに特に心を打たれたようです。

後で海老原氏に第9曲の意味を伺うと、「葬送の際などによく使われる曲で、気持ちが篭ったものです」との返答がありました。私から、「エニグマとは、世界対戦中のドイツ軍の暗号システムの名前でもあるのですよ。平和を祈念してエニグマを使われたのは、そういう意味もあるのかと思っていましたが」、と申し上げると、海老原氏は、二重の意味で納得されておられました。

と言うもの、コベントリーは、戦前から自動車産業の中心地として栄えてきましたが、戦時中は軍需工場も多く立地し、ドイツはロンドン以外では、コベントリーを初めて空爆の対象としたのです。1940年11月14日から15日にかけての空爆は特に苛烈で、大聖堂をはじめとして市の中心部分は大部分が破壊され尽くし、600名もの死者が出たと大聖堂の記録に掲載されていました。

コベントリーは、原爆被害を別にすると、東京、ドレスデンに次ぎ、空襲被害が大きかったとされているのだそうです。そういう悲惨な歴史もあり、コベントリーはドレスデンとも姉妹提携を結んでいるようです。

大聖堂は、外壁だけを残し、破壊され尽くしましたが、今回の公演は、その隣に再建された新大聖堂の大音響空間で行われたのです。Rimg0201

大聖堂の奥に、巨大なキリストのタペストリーに見つめられつつ、荘厳な雰囲気の中で演奏が行われたのです。自動車やカメラ・パソコンといった製造業では日本は知られていますが、文化面でもきらりと光る存在感を確実にこの地の人々に印象付けたはずです。最近、英国における日本の存在感が少し薄れつつあるように感じていたところだけに、関係者のこれまでのご努力には改めて敬意を表したいと思った次第です。

ところで、演奏の前後に、指揮者の海老原氏やチャイコフスキーの難曲をすばらしい技量で弾きこなしたピアニストの黒岩悠氏とも親しくお話が出来ました。それぞれからは、33歳、29歳ととてもお若いのに、確信に満ちたインディペンダントな生き方の清清しさ、眩しさを感じました。黒岩氏はイタリアのボローニャ在住で、これからも欧州を中心に研鑽を積んでいかれるのだそうです。海老原氏は、鹿児島出身で、高校はラ・サール高校なのだそうです。伊藤祐一郎鹿児島県知事も同窓でいらっしゃいますよ、と申し上げると、嬉しそうでした。ご両人とは、今後の交流を約しました。

なお、フジテレビのロンドン支局にはテレビ静岡から柴田浩伸氏がテレビ静岡の支局長として駐在し、今回の公演の収録に忙しく対応されておられました。一緒に来ていた同支局のルース・スパークスさんもやはりJETの経験がおありとのことでした。ロンドンの日系のテレビ会社は、随分とJET事業の恩恵に浴しているようです。日テレの伊佐治支局長の言うとおりです。

演奏の模様は、後日、静岡テレビで放映されるとのこと。静岡県の関係者には是非ごらんいただきたいと思います。


<後日譚>

後日、指揮者の海老原さんからメールをいただきましたが、たまたま海老原さんが読んだ「ビックコミック」という隔週の漫画週刊誌中の「ゴルゴ13」の中で、その週号の舞台がコヴェントリーだったのだそうです。

そのストーリーは、コヴェントリーの大空襲を<エニグマ>から解読してしていた英国政府は、解読の事実がドイツに明らかになることを恐れ、大空襲の警告をコベントリーに対して行わず、コベントリー市民がたくさん犠牲になったという「国家機密」にまつわるものということでした。

海老原さんは、今回の演奏旅行と相俟って実に興味深い内容だったということで、お知らせくださいました。

早速、ピカデリーにあるジャパンセンターというお店で、ビックコミックを購入して読みましたが、フィクションながらなかなか興味深いものでした。偶々解読内容をコベントリー市民に伝えるべきか否かを議論する軍議を記録していた青年がコベントリー出身で、会話を記録したテープを持って両親の待つコベントリーに向かったものの間に合わず両親が爆撃で死亡し、そこからストーリーが展開するというものでした。

実はロンドンのホワイトホールの一角に、チャーチルが作戦司令部に使った地下壕が保存展示されており、私も過日それを見学する機会がありましたが、ゴルゴ13の作者はそのようなことも調べて劇画にしているということが分かりました。

それにしても、クラシックの指揮者がゴルゴ13の愛読者と言うことは面白いですね。面白いと言えば、前外務大臣の麻生太郎自民党幹事長もゴルゴ13の大ファンでいらっしゃいますが、作品にチャーチルまで出てくるところがファンである理由のひとつかもしれないと思わず想像してしまいました。

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Comments

演奏旅行お疲れ様でした。

物事は、記憶に残すだけでなく、記録に残すことも大事ですね。折角の偉業だけに、多くの方に知ってもらいましょう。河合代悟団長、石垣宏平理事長にもよろしくお伝えください。

Posted by: むーさん | August 23, 2007 at 01:57 AM

静フィルの木管メンバーです。
英国公演では大変お世話になり、ありがとうございました。
 今朝成田に着き、帰宅後たまっていたメールチェック等でパソコンを開きましたところ、偶然にもこんな嬉しいページに巡り会いました。
 コベントリー大聖堂の美しいステンドグラスが目に浮かびます。あの荘厳なカテドラルで演奏できたことを、とても嬉しく思っています。
残響の長さにとまどったり、周りの音が聴こえにくかったりと、いつも以上に緊張しましたが、とても暖かな雰囲気の演奏会でした。
 
 この公演を支えてくださった多くの方々のおかげだと感謝しています。
 それに加えて、こんなに素敵な記事にしていただき、ありがとうございます。さっそく団の代表に連絡をして、アドレスを伝えました。ほかのメンバーも喜んでくれると思います。


 覚悟していたとはいえ、あまりにも暑い静岡です。
涼しすぎるイギリスを恋しくも思いますが、嬉しいのは空の青さでしょうか。まだまだ夏を楽しめそうです。

Posted by: 水崎郁美 | August 22, 2007 at 11:04 PM

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