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August 27, 2007

EMEARの視点

外国赴任は心細いものですが、有難いことに、国内の人脈が外国にも繋がっており、様々な方から欧州駐在の日本人や外国人の知人をご紹介いただくことが多々あり、大変心強く思います。

ご紹介いただいた方に少しづつお会いするのもまことに楽しいものです。とにかく、その知人をめぐる話題により最低限お互いの共有するものがあるというのは、初対面とも思えない話ができます。

長野県のエプソンに勤務の知人の紹介で、エプソン欧州の副社長の方とお会いする機会がありました。ロンドンの近郊のHemel Hempsteadというところに事務所を構え、マーケッティングの責任者としてご活躍です。

欧州の統括機能はオランダのアムステルダムにあるのだそうですが、アムスの人員が150人であるのに対して、欧州全体では1300人の社員を擁し、各地の拠点が販売戦略や関係会社の支援に汗を流しているとのことです。彼の副社長氏も、月に2回はアムスに飛んでいるのだそうです。

エプソンは、長野県が誇る国際企業ですが、全世界を北米、アジア2ヶ所(北京とシンガポール)、そして欧州の4つの販売ネットで統括し、それぞれの地域ごとの販売戦略を練っているとのことです。製造拠点は、中国(深浅、蘇州)、インドネシア(ジャカルタ)、フィリッピン(マニラ)にあり、日本の事業部で開発したものをアジアのマスプロダクションで生産し、各地に輸出するというシステムになっているとのことです。

彼の副社長氏の属する欧州は、欧州だけではなく、EMEARという言葉で代表される地域を統括しているのだそうです。Eはヨーロッパ、MEはミドルイースト(中東)、Aはアフリカ、Rはロシアなのだそうです。国際企業の間では、EMEARという言葉は、既に世界で通用する用語になっているとのこと。不明にも私は存じ上げず、またひとつ学習ができました。

製造拠点が欧州にまったくないわけではなく、イギリスにもプリンター用の消耗品の工場はあるのだそうです。もちろんサービスセンターなどは沢山あり、そういうところをこまめにバックアップするのも大事なことなのだそうです。

欧州エプソンとしては、今後、EMEAR地域への戦略的展開を更に検討しているのだそうです。

私のほうから、インターネットの時代で、わざわざ営業拠点などを作らなくてもいいのではないかという気もしますが、と素人っぽい質問をすると、「やはり商売は、相手国の販売店などとの関係をきちんと構築し、信用を築きあげていくことが重要なのです。販売拠点を作ると必ず成果が出ます。特にビジネス系の顧客に関しては、アフターサービスなどを含め、現地での対応体制の構築が欠かせません。コンシューマー系はその要素が薄く、インターネットでの対応も可能ですが、プリンターとなるとやはりビジネス系が重要です。コンシューマー系はプリンターを購入しようというコンペリングリーズンが希薄ですから。」という答えが返ってきました。

確かにそうです。私も東京の留守宅にエプソンのプリンターを持っていますが、年賀状か写真のプリントくらいしか使いません。従ってインジェクターも年に1、2回くらいしか買い換えずにすんでいます。

ところで、コンペリングリーズンという言葉も新鮮でした。「そうせざるを得なくする動機付け」とでもいうのでしょうか。EMEARという言葉とコンペリングリーズンは、私にとっての新しいボキャブラリーに加わりました。

ところで、この副社長氏は、26年の会社生活の中の15年が海外なのだそうです。中国、ドイツ、英国といった海外経験があり、それぞれの国の国民性に基づくものの考え方を熟知されてこられました。

英国は、外国の金が英国に集まる仕組みを巧みに構築し、世界にしっかりと根を張っています。確かにロンドンには世界の金持ちが集まっています。アラブの金持ち、ロシアの金持ち、アフリカの石油成金、中国のニューリッチなどはロンドンを我が物顔で闊歩しています。高級ホテルでアフリカ人の金持ちの子供が高価なブランドショップで買い物をしているのは珍しくありません。そしてその傍らで、東欧からの移民が静かにホテルのボーイの仕事や道路清掃の仕事をこなしているのです。

副社長氏の話では、中国、アフリカ、ロシアといった世界の金持ちは、子供が高校生になるとこちらの私立高校の寄宿舎に入れるのだそうです。そこで本場の英語を勉強させ学友も作り大学を卒業させ国際企業で実績を積ませ本国に戻す、という考え方のようです。エプソンでも中国人の学卒者が入社試験を受けに来るのだそうですが、彼らはハングリーで能力も高く、日本の若年層との比較で見ていると、ある意味で「危機感を感じる」ようです。

副社長の話でも、欧州における日本のプレゼンスの低下は目を覆うばかりで、今後の国としての人づくりを含めた国際戦略の必要性を痛感するとのことでした。副社長氏は過日南アフリカの喜望峰を訪問し、その折に、彼の地にも中国人留学生が沢山いることにショックを受けたそうです。中国は長期的視野にたった骨太の国際戦略があると感じるようです。それに比べ、日本はどうか。こちらから見ていると、次元の違うことを内政問題の大課題にしてしまって、外に目を向ける余裕もないように思えてなりません。その間に、世界は日本抜きでいろんなことが進んでいる。

その意味では、東京オリンピックのような国際イベントを国を挙げて誘致していくことは、活を入れる意味ではいいのかもしれないというのが、話をしていて派生した結論でした。イギリスは、2012年のロンドンオリンピックで、EUの中での競争力を更に増そうという地域振興戦略があり、それに向けた投資が各地で行われ、将来に向けての確実な内需の見込みが堅調な景気を支えています。

日本は輸出で溜め込んだ金を国内で使えず、低金利の元で外国投資家に円資金の低利調達のスポンサーとなり、投資家はそれをユーロやポンドに変え、ロンドンオリンピックを支えている、ということになるのかもしれません。働いて稼いだお金が国内で使われず、それが外貨に変えられることで円安になり、円の価値をかえって下げているなどということを許しているなどは、国際戦略を持った国の所業とは到底思えません。

ところで、副社長氏から、今後の日本の国際競争力というものをどう考えていくのがよいかについて、卓見を伺いました。15年間の海外生活で到達した視点であり、私もまったく同感です。それを以下簡単に記します。

・日本はこれまで技術力を背景に、良いものを安く作り、世界市場に向けて提供すると言うビジネスモデルで成長してきたが、昨今の製品のデジタル化で差別化が難しくなったり、もの作りにおける中国の台頭などで、このビジネスモデルは既に限界に達している。
・90年代のバブル経済の崩壊で本質的な問題点のすり替えが行われたが、実はこのビジネスモデルの限界こそが長期的且つ本質的な問題だ。
・日本の技術の良いところは、物を小さく、精密に且つ高品質で作り上げることができる、というところにある。この技術こそが環境に最も重要な要素すなわち、省電力、小型化軽量化(使用後のごみの最小化)及び高品質高耐久性(製品がごみになる時間の引き延ばし)に重要。端的な例が自動車でこの3要素が見事に当てはまる。
・EUは社会、経済の牽引の重要な柱の一つとして環境を挙げ、既に実質的にもイメージ的にも日米に水をあけている。これを政治(EU)がリードする形で経済(市場)に落とし込むと言う形を取っている。
・しかしよく考えて見ると本来基本的な技術は日本が勝っており日本のお家芸とも言えるようなものだ。環境戦略は50‐100年のスパンで捉えていかなければならないものであり、ここ数年EUに(特に規制と経済活動の調和の部分で)水を空けられたとしても遅きに失してはいない。
・消費大国であるアメリカは根本的に政府も企業も環境に対する根っこがない。中国の社会問題はまさにそこにあり彼ら自身の能力では解決できないことは目に見えている。
・日本こそが国際社会をリードできる素養(技術、公共的なものの考え方など)を持っている。これをいかに正しく行うかが問題。

副社長氏は、長野県の長野高校の出身です。私も同じ長野県ですが、県の中で育った地域は異なります。それでも長野県には共通の知人もおり、長野県庁の原山隆一氏が副社長氏の高校同期だという話が出て、私も存じ上げていることからひとしきり盛り上がりました。

ロンドンで同郷の方と思わぬ議論ができました。日本の国内にいては気恥ずかしくてできない議論が何となくこちらではできます。これは面白い現象です。日本人は外国に出ると愛国者になるのでしょうか。「遥かなるケンブリッジ」の藤原正彦氏と同じ心境になってきます。

ところで、現在は日本国はアジア重視で国力も資源もそちらにシフトしているように思えますが、外交用語に「外交はガーデニングと同じだ。手を抜くと雑草が生える」という言葉があるようです。政治も経済も安全保障はリスク分散が基本です。中国やアメリカは、世界の各地に目を向けていますが、日本も一方的な精力のシフトは賢くないと感じます。

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