イギリスの水害
イギリスに着いて初めての週末。宿舎への入居はまだ先でもあり、時間をもてあまし気味のところ、同じ職場の村瀬徹さんから、ロンドン近郊へのドライブのお誘いがあり、それではということで水害に見舞われているオックスフォードへの災害状況視察に出かけてみることにしました。
ロンドンの中心部から40号線を西に100キロほどのところにオックスフォード地区はあります。無料の高速道路は空いており、牧歌的な風景の中を村瀬さんと交代でワーゲンを運転してオックスフォード地区に到着しました。とは言え、村瀬さんもこの地域の地理感覚はなく、到着してからは、テムズ川の支流のありそうな低地方面に車を進めました。すると程なく、低湿地帯が現れ、牛がのんびりと川の上に浮かんだ島で草を食んでいるのが見えました。その姿を双眼鏡で見ている英国人がいたので、「これが水害の現場なのですか?」と聞くと、「そうだ」という返事が返ってきました。災害現場にしては、平和そうな風景です。
車でもう少し進むと狭い道路が通行止めになっており、車を降りて更に徒歩で道を進むと、道路が冠水しているのが見えました。そして水位が少しずつ減っていくのが分かります。「The Trout Inn」という水辺のレストランが営業していましたが、水害を思わせるような雰囲気はなく、観光客相手に普段の営業を継続しているのには拍子抜けしました。
日本の水害と異なり、平坦地が続くイギリスでは、土砂崩れや家屋の崩壊も無く、水位が高まり、そして引いていく、というのがこちらの災害なのです。それでも新聞では、当局の事前の警報の遅れ、堤防への土嚢積みの遅れ、河川災害対策予算の削減への批判、被災地に水を的確に供給できない上水供給会社の対応への不満(「設備投資に手を抜きながら膨大な利益を上げてきた結果が災害時に脆弱性を露呈した」との批判)などが手厳しく批判されています。現在も行方不明者の捜索が続いているとのニュース番組が繰り返し流されていました。
過去に無い短期集中豪雨への備えがなされていないことへの不安も募ります。今回の水害では、7500臆円もの被害が出たと試算されていますが、さらにその規模は膨らむかもしれないとのことです。ロンドン中心街が水没しているショッキングなフィクション合成写真が新聞に大きく掲載され、私も一瞬びっくりしました。「こういう事態もありえないことではない」との新聞の主張です。
それに対する備えの負担をどうするのかが、これからの政治上の課題のひとつになりそうです。イギリス人にとっては「家の価値」が人生の最大の関心事のひとつであり、災害脆弱性はそれに反する重大な懸念材料であり、それに答える政府の対応が注目されます。
外国での災害の対応は、日本でも大きな関心事です。よい対応は参考に出来るし、逆に日本の経験は諸外国への参考に供することが可能です。災害対応に関しても、事務所で出来るだけウォッチしたいですね、と村瀬さんと話をしながら夕刻ロンドンに戻ってきました。
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Comments
ヨーロッパの水害、私も一度フランスで経験したことがあります。
確か、ロワール地方だったでしょうか。
見学を予定していたアヴィ二ヨンの橋が水没していました。
ひたすら、水平方向に広がっていく水害、おっしゃるように日本のそれとは随分趣を異にしていました。
Posted by: 下沢孝一 | July 30, 2007 05:34 PM
ロンドンへは、単身赴任ですか?たいへんですね。大変お世話になりながら、あいさつにお伺いしなければと思いながら、ご無沙汰してしまいました。どうぞ、ご健康にご留意いただきご活躍されますよう、お祈り申し上げます。
昨日は、参議院議員選挙でした、大変な結果でありましたが、これからの国政も厳しくなりますね。
塩尻市 青木俊英
Posted by: 青木俊英 | July 30, 2007 09:54 AM