中世以来の自治の歴史遺産「寺内町」がある市
「頑張る地方応援プログラム」地方行脚もフィナーレに近くなり、6月16日の土曜日、大阪府に行ってきました。
倉田薫池田市長、吉道勇貝塚市長、多田利喜富田林市長、馬場好弘寝屋川市長、上垣正純熊取町長、松本昌親千早赤坂村長から、実感のこもったお話を伺えました。
この地方行脚も、当初は、「地方交付税の機能として、地方の頑張り度合いを成果指標で測るのは如何なものか」と言った制度の建て方に関する批判などがありましたが、行脚を重ねていくうちに、こうした建前的な意見は影を潜め、恰もワインが熟成するような雰囲気が醸し出され、市町村長さんが自分たちのまちづくりの取り組みを総務省側に語りかけ、それを行っていく上での様々な課題を具体的に総務省側に提示するという、建設的なものに変わってきている様に思われます。
特に大阪地域は、歴史が古く、ユーモアのある地域だけあって、柔らかい言葉でハッとするような指摘を受け感銘することが多々ありました。
倉田池田市長からは、地域内分権の取り組みのご紹介がありました。11の小学校区毎に条例で地域コミュニティ推進協議会を作り、個人住民税の1%相当分(7千万円)の使い道を考えてもらう仕組みを作ったのだそうです。平成20年度の予算から適用するのだそうですが、どのような形になっていくのか、まさに「住民自治の実験」です。市内の各地域ごとの地域間格差が少ない池田市ではありますが、市民の自治能力の高さが問われます。今後の発展が大いに注目です。
吉道貝塚市長は、この市長御自身が「名物」です。80歳になるとは思えないほど語り口はシャープで、博覧強記です。実は「三位一体」議論の際には、生活保護の国庫負担を減じようとする厚生労働省側の主張に対して、現場を抱える立場から一歩も引かない主張を展開していただきました。
当時、厚生労働省は、「3/4という高い国庫負担率が、市の当事者意識を失わせ、認定を甘くし、生活保護の乱給を招いている。国庫負担を減じ、地方負担を増やし市のコスト意識を高めれば、保護認定が適正になり、生活保護率は少なくなるはずだ」と永田町方面で主張しました。これに対し、吉道市長は、公営住宅や精神病院を多く抱える貝塚市の現状(これらの施設の集中立地により生活困窮者を抱える貝塚市の現状)を顔を真っ赤にしながら語り、厚生労働省の主張が如何に欺瞞に満ちたもので机上の空論であるかを、全国市長会の場などで断じ切りました。
世の中の酸いも辛いも経験尽くした感のある吉道市長の語り口からは、地方自治の達人の境地を感じます。その吉道市長から、「うちは寺内町やさかい他とは違うで」という話を何度か伺いました。
寺内町(じないちょう)とは、室町時代に真宗などの寺院・道場(御坊)を中心に形成された高度な自治機能を有した集落のことなのだそうです。濠や土塀で囲まれるなど防御的性格を持ち、当時の信者、商工業者等が集住した歴史と権威のある地域なのだそうです。
貝塚市も16世紀後半に一向宗の自治都市である寺内町がつくられた時に既に「貝塚」の字が使われていたのだそうですが、市町村合併に当たっては、このような寺内町とそうでない市町村の間で、「格式」の議論なども出てきたことも、大阪府内では合併が容易に進まない事情の一つであることが伺われました。
多田富田林市長の地域にも寺内町があるのだそうです。富田林駅東に広がるエリアには興正寺別院を中心に発展した室町時代の市街が保存されており、現在は重要伝統的建造物群保存地区に選定されているとのことでした。歴史的風土100選にも選定されているのだそうです。
頑張る応援プログラムがきっかけになり、こうした歴史的価値を再認識し、これを生かしたまちづくりに脚光が浴びることは、とても嬉しいことのように思えます。
松本千早赤坂村長の話も、大変面白いものでした。ご存知、千早・赤坂城は、元弘元年(1331年)より61年間にわたり後醍醐天皇、南朝側の戦略拠点であり、楠木正成がゲリラ戦を意識し、籠城戦のために赤坂城、次いで千早城を築いた歴史があります。現在はその遺構はほとんど無く金剛山の山肌のみが見えるのですが、村長によると、1125mの金剛山には、年間120万人のハイカーが訪れるのだそうです。
しかも、3000人は毎日登るのだそうです。地元では、金剛山に3000回登ると一人前と言われているのだそうですが、金剛山登山は今や健康づくりの登山として有名になっているようです。「糖尿病の人が登って帰ってくると血糖値が下がり正常になる」ことから、糖尿病患者の登山の聖地にもなっているとのことでした。また、金剛山に登るお年よりは、突然ころっと亡くなる人が多く、「あの爺さん最近見ないけどどうしたんだ」→「こないだころっと亡くなったそうだ」という話題が頻繁なのだそうです。
そこで、松本村長は、金剛山のふもとで廃校になる小学校を活用し、「ころっといけるクリニック」を作ってみようと考えているのだそうです。金剛山に登ってもらえば、福祉の経費も、医療費も節約できるし、安上がりの高齢化社会対応ができるという松本村長の「夢のある」話に一同爆笑でした。
村長さんは、ミルフォードトラックなど世界の著名なトレッキングコースをご自身で訪問し、それらを参考に、金剛山を中心とした2泊3日、50キロの河内山系のトレッキングコース整備が出来ないか、検討中とのことでした。とても面白い企画であり、心から応援したくなりました。
市町村長さんからは、悩み事も披露されました。特に、小児科・産婦人科・麻酔科などの医師不足は大阪府内のような大都市圏でも深刻なのです。勤務医の「開業病」が流行って困る、という声も聞かれました。総務省も厚生労働省と協力して医師確保対策に乗り出すことになっていますが、制度所管省庁の厚生労働省には特にしっかりして欲しいと思います。国民年金にしても、介護保険にしても、医師確保にしても、最近の厚生労働行政は少し緊張感の無い対応が目立っているように思えます。頑張る地方応援プログラムの地方行脚の中でも、市町村長さんから異口同音にそうした指摘が出ています。
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