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March 11, 2007

けやきドクトリン

3月9日の夕方、武蔵野市の「けやきコミュニティセンター」を訪問する機会がありました。コミュニティ活動に詳しい前武蔵野市長の土屋正忠衆議院議員から、けやきコミセンはコミセン活動としては最も進んでいる事例であり、是非運営責任者の話を聞いておくといいというお薦めがあり今回の訪問につながりました。

http://www.city.musashino.lg.jp/cms/sisetu/00/00/09/00000954.html
当日は「けやきコミュニティ協議会」の寺島芙美子代表、冨秀子事務局長、中澤幸子広報部担当のお三方にお話を伺うことが出来ました。Photo_17
(建物)
けやきコミセンは、公園の一角を切り取った場所にあり、公園を前庭のように活用し、窓が多く、中庭に面したわたり廊下で建物をグルリと廻れる大変ハイセンスの設計になっています。厳めしさとか圧迫感が無く、親しみやすく人間的なつくりです。先ず建物が気に入りました。この建物は、早川洋さんの設計によるものなのだそうですが、早川さんは、住民の皆さんの思いを受け止めて何度も設計を変更していったのだそうです。Photo_18Photo_19
私たちが話し合いをしている隣では、中学生が友達同志で算数のドリルをやっていたり、高校生が将棋盤を持ち込んで将棋をやっていたり、大変開放的な雰囲気でした。廊下で会った若者が、「こんにちは」と挨拶してくれたり、このコミセンの雰囲気を皆で盛り上げようという気持ちが湧き出ているように思えてきました。

このコミセンは平成元年の暮れに出来ましたが、それまで7年間にわたる準備期間があったとのことでした。クリーンセンター建設に絡み、この地域にコミセンを作って欲しいとの住民運動がわき上がり、コミセン建設のコンセプトを何度も練り直し、市当局とも粘り強い交渉を重ね、実現に至っているということでした。

7年間の準備期間の間に、いろんなコミセンを見て回り、それぞれのメリットデメリットを吸収し、ある場面では反面教師とし、けやきコミセンらしい特色を出していくこととしたのだそうです。

(けやきコミセンの運営の思想)
このコミセンの思想は、次のような「けやきの精神」ということで受け継がれているのだそうです。日常の細やかな各自の努力、話し合いによる合意形成が今日の「けやき」を作ってきたのだそうです。一応言葉では表しているのですが、実際には「ニュアンスのある、絶えず変化し、充実する柔らかな心」なのだそうです。いわば、けやきドクトリンともいうべき内容です。

・けやきの心は、「ユニークで開かれたもの」
・新しいものへのチャレンジ精神を大切に
・みんなが自分の頭で考えてみる
・自分の意見を持ち、思ったことを言ってみる
・人の意見を聞く
・よく話し合いどこかで接点をみつける
・決まりはなるべく数を少なく
・人や物事に接するときはいろんな角度いろんな面から考える
・白か黒か決められないことも多い
・立場上知ったプライバシーは守る
・えらい人はつくらない
・現状に安住しない
・新しいことに対する好奇心を持ち続ける
・よいと思ったら実行してみる
・だめだったら他の方法を試してみる
・陰口はやめる
・まちづくりが出来るのはここに住んでいる私たちです

こうしたけやきの精神を元に、運営上の成功の秘訣は何ですか、と寺島さんに伺うと、3点挙げていただけました。
第1は、面倒くさがる人が少ないこと。第2は、賛成反対の立場から議論はするが、決まったことは皆で実行できること。第3は、若い人に責任を持たせて、ベテランはフォローに廻ること、なのだそうです。

協議会の代表も、任期は1年、再任は3回まで。要は、権力者のような存在を作らないということなのです。風通しをよくして誰もが気軽に参加できるコミュニティの有り様が、このコミセンのコンセプトなのです。

(武蔵野市のコミュニティ活動の自主三原則)
さて、コミセン運営の中味ですが、武蔵野市のコミュニティの原点は、昭和46年に策定されたコミュニティ構想が原点にあるとのことでした。武蔵野市には公民館はありません。社会教育の一環としての公民館活動ではなく、市民自身の活動をコミュニティ活動の原点に持ってきたということです。

市では、コミセン建設にあたり土地の選定から設計まで市民参加によって行い、さらにコミュニティセンターの管理運営も地域住民で組織する公共的団体に委ねるという、当時としては先駆的な市民の自主性を最大限尊重したコミュニティづくりを進めてきたのです。

コミュニティづくりのための条例(http://www.city.musashino.lg.jp/cms/guide/00/00/07/00000707.html)をつくり、コミュニティづくりの自主三原則(自主参加、自主企画、自主運営)を基本に、市内19箇所のコミセンを、それぞれの地域の自主運営に任せてきています。

けやきコミセンは、この武蔵野市の自主三原則に則って、独自の運営の特色を加えてきたのです。

(金のかからないコミセン運営)
けやきコミセンの管内人口は約3500世帯、約8000人。ここで年間延べ6万人の利用者があります。但し地域外の人の利用も認めており、管内人口利用割合までは調べてないとのことでした。

施設利用は無料。施設の年間運用経費は約870万円。これは全て市の委託料と補助金で賄われています。このうちコミセンの窓口業務への市の委託料が530万円と大部分を占め、あとは市の施設管理や事業費への補助金です。事業費補助は105万円と多額ではありません。事業への参加者負担金などはコミセンの会計とは別途工面されています。

窓口の人件費も含め、800万円台でこの施設運営が賄われるのですから、効率的といえば効率的です。こうしたコミセンが市内19箇所をカバーしているのですから、武蔵野市は市として行うべき仕事に専念できるのです。

コミセンの運営には、64名の運営委員、120名の協力員がかかわっているとのことでした。意思決定は運営委員会で決める。多数決は採らないで徹底的に議論を行うのだそうです。最後は5名の代表委員会に一任ということもあるようです。議論は徹底的にするが決まったことには従うといった民主主義のルールが貫徹しています。

(高い充実感)
けやきのコミセン活動は、とても高い充実感があるようです。コミセン活動の結果、市内で会った際に挨拶する人がとても多くなっているのだそうです。活動の中で知り得た個人情報の扱いについても、個人情報の手引きなどをつくるレベルに達しているのだそうです。

「まちづくり局」という活動の実践組織では、この指留まれ方式で、散策、食事会、美術、野外遊び、子育て、ガーデニング、読み聞かせ、囲碁、パソコン、環境、喫茶などの活動が行われ、「けやき学舎」という議論の場からは、様々なアイデアが出され、地域通貨「エト」の利用などが始まっています。更に「けやきコミセン」の全体イベントとして、けやきまつり、けやき夏まつり、けやきどんど焼きといった企画もあります。市の事業費補助の105万円は、この活動費補助に充当されています。

最近では、コミュニティの在り方懇談会をつくって、団塊の世代のコミセン活動への取り込み方策の検討も行ったのだそうです。特技を生かせるようにしたらどうか、などの意見が出されたようですが、団塊の世代にアンケートを採ったところ、「まだまだ社会で働きたい」との意向が多く、いきなりフルに地域社会に入ってきてもらうのは難しいかも、様々な工夫が必要だとの認識が出来たようです。

コミセン活動への誘い方としては、一般広告よりも、一人ひとりに声をかけていくことが有効だということのようです。人と人がつながるきっかけもマンツーマンの関係が大事なのです。

(ムーバスの効用)
けやきコミセンは、武蔵野市の中では実は交通不便地だったのです。武蔵野の「陸の孤島」と呼ばれていたのだそうです。ところが、ムーバスが出来て、コミセンの前でバスが止まり、普通のバスが入れない路地を通りながら100円で1時間に4-5本の小型バスが発着する市内の毛細血管バス交通は、コミセン活動にも多大な効果を生んでいるとのことでした。ムーバスのお陰で、市内の高齢者が買い物に出られるようになったということを伺ってはいましたが、コミセン活動にも影響を与えているということははじめて知りました。

(課題もある)
課題や問題点も伺いました。人が集まるので、市役所側が、ゴミ袋を売ってくれないかとか、募金箱を設置してくれないか、などといろいろ注文が来るということが気になっているようでした。その都度運営委員会にかけて決しているようですが、事務が繁雑となり、本来のコミセン活動の支障になることは避けたいとのことでした。

運営委員が64名と若干多く、意思決定に時間がかかることも課題のようでした。最後は5名の代表委員に委ねられることになるとの話でしたが、この代表委員は運営委員の投票で選ばれるのだそうです。

施設が開放的なので、たまに施設に入って来て騒ぐ中学生がいることも課題だという話もありました。

事業がどんどん膨らんでいくことに対する課題もあるようです。どこまで手を広げられるか。これまでは趣味の会的な自己実現型の活動が主体でしたが、地域の問題解決型の活動へも進出していく動きがあるようです。

近隣の成蹊大学のブロック塀が無機質であり景観を損なっているから生け垣にして欲しい。その場合の生け垣のの清掃などはコミセン活動で行っても構わない。あるいは、コミセンの前のふそう通りが対面交通と一方通行が複雑に絡み合い、通過交通も少なからずあり、交通事故がたまにあり、何とか出来ないか、といった議論が出ているようです。

(地域通貨への取り組み)
最近では地域通貨への取り組みも出はじめているようです。「エト」という地域通貨を発行し、コミュニティ活動に幅広く使えるように考えていきたいということですが、広がりはこれからです。けやき学舎の議論の場から出てきたアイデアだそうです。ご近所の成蹊大学の研究者の研究活動とも強力な連携があるようです。Photo_20

(学童保育への取り組みも)
けやきコミセンは夜の9時半まで開館しています。学校が終了して家に帰るまでの間、子供がここにいて勉強している例もあるようです。共稼ぎのお母さんは子供をこのコミセンまで迎えに来ることもあるようです。そこで、コミセンの活動として、このコミセンで学童保育をやってしまおうかというアイデアも生まれているのだそうです。学童保育といっても正式のいかめしいものではなく、例えば中学生が小学生を教えるとか、退職者が得意な分野の蓄積を教えるとか、それを週一回くらいから始めるといった企画が生まれつつあるようです。これの活動に対して、地域通貨の「エト」を与え、他の活動への参加費代わりに使えるといった取り組みなのです。

とにかく市役所では手が回らないことを私たちがカバーしていこうじゃないか、という発想です。普通「補完性の原理」とは、市民に出来ないことを市がカバーするということなのですが、こちらでは、市には出来ないことを市民がカバーするという逆転した発想になっています。市民活動が高次元になると単純な補完性の原理では通用しない原理があるのかと、少し頭を整理したくなりました。

(大きなイベントも)
大がかりなイベントも生まれています。武蔵野市立大野田小学校と協力して、「子供がつくるまち むさしのミニタウン」という取り組みが生まれています。子供達が自分たちでミニタウンのなかで仕事を探したり、給料をもらったり、議会をつくったりと、自主企画・自主参加の企画です。これもけやき学舎の「しゃべり場」から生まれた発想だということです。ミュンヘンの子供がつくるまちという企画が有名で、それを日本でも実行してみようという発想から始まった企画なのだそうです。確立された事例でいえば、Kidzania のコンセプトなのでしょうかね、と伺うと、そうだという答えが帰ってきました。 http://www.kidzania.jp/about/index.html

(武蔵野市のソシアルキャピタル)
いろいろと話を伺っていて、武蔵野市のコミセン活動には、それを支える人的資源が豊富にあるということを感じます。寺島さん、冨さん、中澤さんともに異口同音に、武蔵野市民の「民度」という言葉を発しておられました。とにかく主体的な人が多いようです。

というか、主体的にならざるを得ない層の人たちが多いのではないか、とも感じます。

武蔵野市には、社宅や公務員住宅も多くあります。こういう団地の奥さん方が、とても上手にコミセン活動を利用しているようです。常に新しいメンバーが加入して新しい血が流入してくるようです。子供を通じて人々が地域活動、地域の交流に目覚めるというのは自然な流れですが、武蔵野市はこういう居住者の資源にも恵まれているのかも知れません。

かけがいのない子供が如何によい環境で過ごせるようにするのかは、大きな関心事です。そのために地域の活力をどの様に高めるのか、そのためにどうやって地域の人が汗を流すようにするのか、そういう話につながっていきやすいと思われます。寺島さんと冨さんも、こうした活動に目覚めたのは、PTA活動を共にしたことがきっかけだったそうです。爾来○○年?のつき合いだということです。

武蔵野市は、こうしたことを考え実践できるソシアルキャピタルがふんだんにあると思われます。コミセン活動はそれを引き出すいわば「触媒」なのでしょう。

実は私の一家も平成2年から9年まで武蔵野市に住んでいましたが、子供が幼稚園から小学校の時代で、妻はコミセンを本当によく利用していました。けやきコミセンにも幼稚園の卒園謝恩会で行ったことがあると教えてくれました。知らぬは亭主ばかりなり、だったのです。その頃は私は、土日もなくひたすら霞ヶ関の課長補佐時代を過ごし、へとへとになっていました。子育てが終わり、管理職になって、自分が昔住んでいた地域のコミセンを訪ね、コミュニティの在り方の視察に来るなどということは、何やら不思議な気がします。何事もなく過ごせていたのは、武蔵野市という充実したコミュニティ活動のお陰であったという「チルチルミチル」の思いもよぎりました。

ヒアリングが終わり、吉祥寺駅までムーバスに乗り、そこで、寺島さん、冨さんと懇親会をやりました。初対面でいきなり懇親会などとはやり過ぎかとも思いましたが、トライしてみました。いろんな話で盛り上がり、ご子息達の結婚の話やペットの話、コミセン活動への政治的なアプローチの有無の話など、夕方伺った話とはまた異なる次元の深遠な議論にもなりました。

お互いの携帯に保存している「秘蔵写真」を見せあうなど、意気投合しました。やはり、ネットで知るだけの情報は限られています。けやきコミセンは居住者でなくとも活動に参加できるようなので、機会を見つけ、次は実際の活動の現場を取材してみたいと思いました。

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Comments

むらかみさま

私も若い部類に入れてもらって光栄です。

Posted by: むーさん | March 15, 2007 at 11:04 PM

初めて書き込みをさせて頂きます。
けやき代表の寺島さんから此処を伺い覗かせて頂きました。
私とは縁のない真面目な書き込みとその量の多さに圧倒され
ました。でも せっかく伺ったのでひとつ足跡をば・・、
と思い 内容のないコメントを失礼します。

 けやき代表の寺島さんは 多分お会いしたまんまの方だと
思うのですが 再度認識しておいて頂きたいことが御座い
ます。 それは、
     寺島さんは若い男性が大好き!! 
    ということであります。
 若い のカテゴリー は多分「自分より・・・」という
くらいだと思います。
   お心におとめおき下さいましぃ・・・・。

Posted by: murakami | March 15, 2007 at 10:23 PM

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