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November 15, 2006

碩学が語る次期分権改革の視点

日々仕事をしていて、現在の自分自身の在り方や今の仕事の位置付けに暫し迷うことが往々にしてあります。特に最近は年をとったのか、そういう気持ちになりがちのように感じられます。

そのようなときに、旅行に行くとか、妻に愚痴をこぼすとか、スポーツでリフレッシュをするとか、歴史書・哲学書を読むとか、先輩・友人に相談するとか、ぐっすり寝るとか、様々な方法で局面打開の道を探るように努めた経験がこれまでも何度かあります。

しかし、悪戦苦闘しなくても、偶然の機会にふっと目の鱗が落ち、初心に帰る思いをすることも、ままあります。11月14日、偶然国会の委員会審議の場で、幸運にもその機会に巡り会いました。地方分権改革推進法案の国会審議が衆議院で順調に進み、この日に参考人質疑が行われました。そのうちの一人、小早川光郎東京大学大学院法学政治学研究科教授が参考人として衆議院総務委員会に出席され、簡単な意見陳述の後、質疑が行われましたが、その意見陳述の中味が、私にとっては新鮮で、頭の中の霧が晴れ元気回復したような気分になったのです。

小早川教授は、これまでの平成5年以来続いてきた地方分権改革に深く関わってこられましたが、その経験を踏まえ、今後の地方分権改革に在り方を語っておられました。霞ヶ関や地方公共団体の間では、ともすると地方分権改革に「疲労感」を訴え、小休止を希望する向きがあることはよく指摘されます。私自身も三位一体改革など多少ともこの分野の仕事に絡む中で、そういう雰囲気を感じていないと言ったら嘘になります。しかしながら、小早川教授の話を聞いて、改めて初心に帰る思いがしたのです。

小早川教授は、今後の地方分権を考える上で、3つの観点を大事にすべきだと指摘されておられました。一つは、改革の理念をしっかりと見据えることの大切さ、二つには、当面の改革課題の絞り込み、三つには作業の進め方でした。

最初の改革の理念に関しては、概ね次のような視点を指摘されておられました。

・地方分権によって何がもたらされるのか様々な捉え方が可能であるが、「究極の理念」は何かをしっかりと捉えることが重要だ。

・中央集権はコストの割にサービスが良くないので地方分権が必要だという視点は確かに大事だ。

・しかし、もっと大事な視点は、地方分権改革には民主主義の問題が関わっているという視点である。

・行政サービスを与える側と受ける側の距離がありすぎるとサービスの受け手が余りに受動的になり過ぎ、結果としてサービス水準が過大になることになる。

・現在は行政の多くは国の行政組織以上に地方公共団体が担っているが、その地方公共団体の行政執行には、夥しい数の国が定めるルールの束がある。

・その結果、日本の場合は、行政の決定中枢が国の立法に集中し、自治立法権が大きく制約されている。

・これを住民の立場から見ると「決定中枢」が遠いということになる。

・地方分権により、決定中枢と行政サービスの受けての距離を縮めることがとても大事でなる。

・距離が近いと、住民が首長や議員を選挙により的確に評価することができる。

・最近地方公共団体で不祥事が目立つが、だからといって地方公共団体が信用できない、決定中枢を国に残すべきだということにはならない。

・住民は選挙により責任者を取り替えることが出来るというというシステムがあることが重要であり、そのシステムに行政の決定中枢を位置付けていくことが必要なのである。

・つまり、住民が自分たちの責任で自分たちで決定するのが民主主義の基本であり、そのために地方分権が不可欠となる。責任に裏付けられた自己決定権が、地方分権で実現する。

・行政システム、財政システムにおける自己決定権が大事であり、そのためには、地方公共団体サイドの改革、議会の改革、情報公開、住民参加などと並び、国と地方間の行政システム・財源配分の問題が車の両輪として大事になってくる。

・第一次地方分権改革では、国・地方間の行政システムの改革に力を入れた。財政面の改革はその後の課題となり、三位一体改革はその第一歩の改革である。

・行政システムの改革と財政システムの改革を両方一緒に動かすのは難しい。先ず右足を出して、その後に左足を出す、そしてまた右足、というように順を追ってやっていくことでないと、なかなかうまく進まない。


次に改革の理念を実現していく手法として、当面の課題を絞り込むことの重要性について次のように指摘されました。

・道州制議論は重要であり、その将来の方向性を視野に入れることは必要であるが、改革のポテンシャルには限界がある。

・様々な課題を一挙に処理するのは難しく、当面できることに力を集中することが必要である。

・地方分権関係で当面できることとは、「国の法令による自治行政の縛りの緩和」である。尤も、これを見直すこと自体が大変な作業量になる。

・右足から左足、次の右足は何か、ということで、次の課題を絞ることが重要な視点である。

・その意味で、国と地方の財政システムの組み直しは、次期の分権改革の課題として非常に重要である。国から地方への税源移譲は一番の基本である。そして、地域間の(財源の)水平調整の要素を組み込んでいくことで、将来に向けて耐えうる地方財政システムを構築することが求められている。


三番目の作業の進め方として、改革の力を集中する工夫が必要であるとし、次の視点を示されました。

・以前の地方分権推進委員会では、委員会の場で具体的な内容の詰めを行い、大変ハードな作業を経験した。

・それでも、成果物としては、膨大な国の側のルールの内容の是非までは論じていない。整理したのは、国と地方の事務を自治事務、法定受託事務といった形でカテゴリー毎に分類することだったように思う。

・次の地方分権改革のテーマは、この行政分野毎に定められたルールの中味に立ち入った作業が必要になる。

・その意味で、今回の地方分権改革推進法案をよく読むと、分権改革推進委員会は短期間で基本的方針を提示し、次の段階では総理のリーダーシップでその方針の具体化を図るという手法が読みとれる。

・以上の視点から、次の段階の分権改革に期待している。


以上お話の内容を概略簡単にまとめましたが、いつものことながら、小早川教授の体系だった思考には感心します。漠然とそうだろうなあと感じていても、改めて明瞭な言葉で表現されると、我が意を得たりという思いがすることがままありますが、今回の小早川教授の意見陳述の内容には、大いに啓発されました。

地方分権改革推進法案が国会を通過すると、新しい委員会の場を中心に、第二期の地方分権改革の在り方や進め方についても議論が行われることになると思われますが、小早川教授の考え方は、一つの有力な見方であると思います。地方分権改革の有力メンターがここにも一人おられたと改めて心強く感じました。

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