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October 20, 2006

茨城租税債権管理機構の成長・進化

茨城県庁から茨城租税債権管理機構に出向し事務局次長をされている我妻孝男さんが、霞ヶ関の私の職場を尋ねてくれました。10月18日に、この機構が総務省の特別表彰を受けたとのことで、そのついでに寄って頂いたのです。

残念ながら私は外出中でお会いできませんでしたが、メッセージが机の上においてありました。

「機構は、6年目に入り、きわめて順調な運営が出来ております。特に、機構が出来るまでは実施していなかった不動産公売件数の増加は著しいものがあります。前年度58件、今年度は100件が見込まれます。」というものです。

早速、インターネットで調べてみると、公売物件をネット上で見ることが出来ました。


今年の表彰は、特別表彰が茨城債権管理機構、大阪府不正軽油犯則調査チームの2団体で、我妻次長が代表謝辞もなさったという話を、表彰担当の職員から伺いました。表彰理由を推察するに、全国で最初の広域的な徴収専門組織であり、目覚しい実績を上げていること、市町村の徴収職員の養成等も行っていることが評価されたものと考えられます。

この機構は、私も思い入れの強い組織です。私が茨城県庁勤務時代に、我妻さんたち茨城県税務課の職員の皆さんと勉強会を作り、東大名誉教授の林健久先生に座長をお願いして検討を重ね、税の公平性確保の観点から、市町村税の徴収のための全県をカバーする広域地方税徴収機構をつくろうとの意図から設置されたものでした。私は設立途中で東京に帰任しましたが、後をきちんとフォローしていただいて、設立にこぎつけました。県内の全市町村が加入する一部事務組合形式の市町村税徴収機構です。

当時、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」、すなわち、いわゆる分権一括法が平成12年4月に施行され、地方自治体は従前にもまして自主的・自立的に財政運営を行うことが求められるようになっていました。その中で、財政基盤の充実強化を図ることが緊要な課題となっているにも拘らず、地方税の滞納事案は年々広域化・複雑化し、処理困難事案が急増してきているという悩ましい現状がありました。そこで、市町村の収入未済額の縮減を図るためには、市町村が単独で取り組むよりも広域的な徴収体制を整備し、専門的で効率的な滞納整理を行う方が、効果的であると考えました。県の個人住民税は市町村の個人住民税と一緒に徴収してもらっているという事情もあり、市町村の税の徴収体制は県にとっても重大関心事でした。

将来必ず地方税源の充実、税源移譲の移譲などの議論が出てくるであろうその時に、地方税の徴収体制が弱いという批判を招くようだと、地方自主財源の充実議論に冷や水をかけることになりかねない。ついては、将来を見越して、茨城県発で、全国に先駆けて、全県をカバーする徴収機構を作り上げよう、という意図もありました。住民向けに厳しいことを求めるのは忍びない、と、市町村長さんの中には、難色を示す方もいらっしゃいましたが、結果として、県内全市町村を構成団体とする市町村税の徴収のための一部事務組合「茨城租税債権管理機構」が平成13年4月に設立されました。 http://www.ibaraki-sozei.jp/index.shtml

心配だったのは、これがきちんと機能するかどうかでした。しかしその心配は杞憂でした。税理士や国税庁OBもメンバーに加えた税の公平性追求の専門家集団の力は大きく、「個々の市町村から機構に徴収委託のために租税債権を譲渡する」という話が滞納者に伝わっただけで、滞納者が税を納めるという、威嚇効果もあったようです。

その「進化」の結果が、物件公売に至っているということなのです。

この機構の存在は、全国の地方税関係者で知らない人がないまでに広まり、機構所在の水戸市には全国から多くの視察団が押し寄せました。水戸市内のホテルはずいぶん潤ったのではないかと冗談も出ていたくらいです。視察団だけではなく、講師として招かれた機構の関係者が全国に飛びました。私自身も、羽田空港の空港ロビーで、講習会講師で九州へ出かける倉持公三元機構事務局長(現機構顧問)にばったり会ったりしました。

「こんなとこで何しているの?」と聞くと、倉持さんから、「いやー、部長(私のこと)のおかげで、全国から引っ張りだこで忙しくてたまりませんよ。これから九州ですよ。」と笑いながら返ってきた答えが懐かしく思い出されます。

機構の誕生に関わった一人として、機構が順調に成長してくれているのはとても頼もしく思います。来年からは所得税から個人住民税への3兆円の税源移譲により、住民税税収が増えます。一般の人は、ほとんどが、所得税よりも住民税を多く納めることになります。それだけに地方税の公平性に対する意識はいやが上にも高まります。納めてもらうべき税がきちんと納められていないのに、地方税増税などとんでもないという意見も出るでしょう。

地方分権を進めれば進めるほど、税の執行体制のあり方に注目が集まります。茨城県の事例は、仕組みもその運用実績も、全国のモデルとして燦然と輝き続け、全国に普及し、地方税に対する国民の信頼感を高めていくことを更に期待しています。

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