ベトナムの「地方分権」の動き
ハノイ二日目は、朝8時半から夕方5時半まで、みっちりセミナーに缶詰でした。日本政府側から総括審議官ほか4名、ベトナム側からは、チャン・フー・タン内務副大臣、グエン・ドック・ジェン組織人事局長の挨拶と講演により、ハノイの一日が暮れました。
ベトナム国内務省副大臣グエン・フー・タン氏によると、
・ベトナムの国づくりにおいて、行革、分権と権限委譲を進める必要。地方政府の対応が重要だとの認識。
・予算のあり方、国と地方の役割分担が大きな課題。
・公共サービスの民営化を推進。行革に当たり各国の経験を研究。日本の経験が重要。
・ベトナム内務省では、国際機関の支援を受け情報収集。
・1999年にベトナムでセミナーを行い、今回が2度目。この間の日本との交流がベトナムの行革に役立っている。
との話がありました。
日本国駐ベトナム大使館松永大介公使も挨拶をされ、
・日本を始めとする援助国としてもベトナムの地方の地方行政組織である「省」を始めとした地方行政機関の能力強化が、国づくりにあたって重要との認識。援助国会議でもその話題が出されている。
とのことでした。
日本側の総括審議官からは、日本の地方自治の歴史の紹介し、明治、戦後、今日の3期にわたる改革のエッセンスを概説しました。このなかで、日本に特有な地方交付税制度、市町村合併の推進の状況、国と地方の行政事務分担、国と地方の財源配分などの説明を行いました。地方分権改革に対しては非常な抵抗があるが、国の更なる発展のために、進めなければならない改革との認識も示しました。
ベトナム内務省組織人事局長グエン・ドウック・ジェン氏からは、
・ベトナムは4層制の国・地方の行政組織を有していること。
・従来から分権を行ってきているが、更なる改革が必要。特に地方幹部の能力向上が必要。
・国と地方の権限、責任の明確化が必要。
・しかし、分権推進には省庁の抵抗がある。
という趣旨の話がありました。
グエン局長の話は、ベトナムの「地方分権」とは、地方行政組織という国の行政の下部機関に、権限と責任を下ろすという趣旨の説明で、いわば、国がその「出先機関」に権限を委譲していく印象を受けました。日本の地方分権の感覚もこれまではそういう要素が一部にあったことは否めませんが、ベトナムは、地方行政機関の求めというよりも中央政府の主導で権限の地方機関への分散を行おうとしており、本来の地方分権とは、若干異なる要素があるように思われます。わが国では、これからの地方分権の方向性は、国と地方の役割を明確に分割し、制度の立案、実施、結果責任まで国と地方で分けていくのが共通認識になりつつあります。そしてそれにあわせて、国と地方の租税配分の見直しをしていくことが想定されていますが、地方行政機関の収入のほとんどが国からの補助金であるベトナムではそこまでの議論はまだないようです。
このほか、日本側から、最近の地方分権改革の流れの説明し、これが第2次、第3次改革へ継承されていくであろうこと、日本の地方税財政制度の現状と今後の方向性、日本における民間活力の導入の手法、事例、アウトソーシング、指定管理者制度、市場化テスト、PFI、独立行政法人、電子政府・電子自治体、行政手続きオンライン化といった多岐にわたる話題が提供されました。
参加したベトナム政府関係者、地方行政組織関係者からは熱心な質問が出され、
・財源のあり方が問題。これがないと分権は失敗するのではないか。
・地方分権と国の統一性確保の関係。
・国税と地方税の役割分担の関係。
・日本における急激な合併の狙い。(ベトナムでは基礎自治体をより細かく分けようとしている由)
・分権一括法と地方自治法の違い。
・自治、自主、自立の言葉の意味。
・地方交付税制度と税源委譲の関係。
・地方分権を行っていく場合の問題点の認識。
・地方分権委員会のメンバー構成、勧告内容、地方の意見の聴取の度合い。
・日本の地方議会の役割。
・交付税の配分の総務省と財務省の協議の有無。
・必置規制の廃止についての議論の有り様。
・地方歳入のうちの料金収入について。
・分権を行うための法律改正作業の大変さ、各省の協力度合い。
・独立行政法人の実態。
などについて、突っ込んだ質問が出されました。
最後に、チャン・フー・タン副大臣が、中央政府の地方政府に対する現在の認識と今後のベトナム政府の地方分権化のスケジュールに関してお話をされました。その趣旨は以下の通りでした。
・ベトナムの地方政府は、国の下部機関としての色彩が強く、地方が国に依存するのが常識になってしまっている。
・その結果、地方行政機関の自主性、自己責任が希薄になり、法令で基準が決まっていることに関しても自分でものを判断することをせずに、上級機関にいちいち相談してくる。
・これらを改めるためにも、地方行政機関への権限委譲を進めていきたい。2年くらいの間に中央・地方分権法を制定し、あわせて人民委員会法、人民評議会法の改正も想定している。
・とにかく、地方行政機関の自主性、自己責任を充実していきたい。国は、よりマクロ的な仕事に携わるべきで、こまごまとした仕事は地方行政機関に委ねたい。地方が強くなれば国も強くなる、という発想だ。
「地方が強くなれば国も強くなる」というのは、我々もよく聴く言葉ですが、ベトナムでも同じようです。質疑の中からも伺われましたが、ベトナムも、日本の例に倣い、地方分権推進委員会のようなハイレベルの審議会を作り、地方への権限と責任の委譲を進めていく意欲があるように伺われました。事前に日本の手法もだいぶ勉強をしている様子でした。
今回、丸一日かけて、日本の制度改正の経験と現状の動きなどをお話申し上げました。国情と国の発展段階の違う国にそのまま当てはめることが無理なこともあるでしょうが、考え方にそんなに大きな差がないことをお互いに認識し、今後の継続した相互協力を約しました。
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