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January 15, 2006

「弱きもの、汝の名は、男性」

1月14日夕方から、「統合医療研究会」という勉強会に夫婦で参加しました。千葉県立東金病院副院長の天野恵子医師による講習会です。

「更年期以降の男女の健康」という演題のもとに、性差医療、ガン、動脈硬化、心臓病などについて、最新の研究成果を元に分かりやすく解説していただきました。

この勉強会を企画された関口守衛医師の司会の元に講演は始まりました。長く東京女子医大の循環器専門医を務められ、その後信州大学医学部教授をされておられた関口医師は、西洋医学とともに東洋医学の知識の蓄積を生かし、両者を統合した医療を研究し、より患者のためになる医療の在り方を目指しておられるとのことでした。

天野医師からは、男女で医療の在り方には大きな差があるものの、これまでは男性の症例を元に医療が組み立てられてきたために、女性にとってはピッタリとした診断というものが行われない憾みがあり、それを打開するために、男女の性差に着目した医療が最近やっと産声が上がり、急速に普及しつつある、というお話が先ずありました。天野医師は、1990年代に米国で始まった性差医療を日本に紹介し、自ら「性差医療・医学研究会」という学会を立ち上げられた日本におけるこの分野の第一人者でいらっしゃいます。

男性ホルモンと女性ホルモンの違いで男女の病気には大きな違いがでるという認識が大もとにあります。女性の場合はエストロゲンという女性ホルモンが、更年期にかけて急速になくなり、それが記憶力減退、骨粗鬆症、肝機能低下(悪玉コレステロールを処理する機能が低下)などに直接関係しているとのお話がありました。

それに対して、男性の場合は、アンドロゲンという男性ホルモンは、70歳くらいから徐々に減り始め、90歳になってほぼゼロになる、ということです。したがって女性の場合のように40歳から50歳にかけて急速に更年期障害になることはないのだそうです。

ホルモン的に言えば、天野医師によれば、「男も女も同じ」、といえるのは、90歳になった人の場合なのだそうです。だから、ピカソが70歳で子供が出来たというのは、あり得ることなのだそうです。

健康寿命に関して男女の差が大きいというデータの紹介がありました。女性の健康寿命が78歳を超えているのに、男性のそれは74歳を少し超えている程度です。健康寿命というのは、健康で過ごせる年齢の長さなのですが、1950年から2000年までの50年間の男女の死因別推移のデータ紹介を見てびっくりしました。胆嚢癌や腎疾患を除くと殆ど他の死因は男性の方が多いのだそうです。胆嚢癌は女性ホルモンが死因に影響しているから女性が多いのだそうですが、自殺、事故、肝硬変、胃癌、食道癌、肺癌など圧倒的に男性の死亡率が高いというデータです。特に自殺は、女性の自殺の増減はさほど無いのに対して、男性は近年2.5倍に急上昇しているというデータです。食道癌も男性は女性の5-6倍の死亡率を示しています。

自殺に関して言えば、天野医師によると、実は自殺未遂は女性が多いのだそうです。女性は、いわば相手に対する当てつけのために自殺未遂は行うケースがあるものの、実際には死亡には至らず、男性はそうではないのだそうです。肝硬変に関しても、男性の死亡率が高いのはC型肝炎が多いのだそうです。胃癌もピロリ菌が原因といわれていますが、どうも「男性は感染症に弱い」生物のようです。

女性は、通常は心臓病や脳卒中も年をとってからしか発症しないとのこと。またケーキを沢山パクパク食べてもコレステロール値が高くならないのは、女性ホルモンの効能なのだそうです。しかし、これも閉経前までで、閉経後は、女性ホルモンの分泌が止まると、一挙にコレステロール値が上昇するのだそうです。

このように、女性ホルモンに守られていない男性は、病気、事故、自殺などの率が高く、男性の平均寿命を上げていくのは女性以上に難しいのだそうです。では男性陣としては何をすべきか、という処方箋になり、タバコは吸わない、深酒をしない、ストレスを抱え込まないといった当たり前のことに行き着くようです。

どうも医師の目、それも女医の目から見ると、「弱きもの、汝の名は、男性」ということになるようです。

天野医師が強調したのは、癌検診の必要性でした。糖尿病が早く見つかるよりも癌の早期発見が非常に重要だ、ということです。肺癌に関しては、ラセンCTによるチェックが必要とのこと。胃癌は胃カメラでは胃の表面しか見れないので胃カメラと胃のエックス線撮影を組み合わせることが好ましいとのお話でした。胃カメラを2度やったら次の回は胃のエックス線撮影、といった組み合わせが適切なのだそうです。肝臓は超音波検査、乳癌はマンモグラフィーを2年に一度。乳癌検診を米国では9割が検査を受けているのに日本では3割しか検査を受けないそうです。乳房の小さい日本人女性は検査時に痛みを感じるからだともされていますが、乳房のエコー検査がこれに代替できるので嫌がらずに受けるべきだという話でした。腫瘍マーカー検査は前立腺肥大用。

一方でコレステロールの値に過度に反応すべきではないとのお話もありました。男性の場合には、コレステロール値が高い人は心筋梗塞による死亡率が高くなりますが、一方で、コレステロール値が低い人は癌による死亡率が極めて高いとのデータの紹介がありました。欧米人と異なり、日本人の場合は癌の死亡率が圧倒的に高いということを考えると、コレステロール治療に関しては、過度にわたらないことが求められるとの見解の表明がありました。

自治医大の磯教授の研究では、「日本人の心筋梗塞の罹患率は欧米の1/5以下であり、薬物療法による冠動脈疾患の一次予防効果は非常に少なく、薬物療法の効果が少ない対象者に薬物療法を行う場合には、治療効果より薬剤の副作用の影響が上回ることのないか十分に考慮しなければならない」とのことだそうです。「心筋梗塞の既往のない血清コレステロール値240mg/dlの高脂血症患者では、心筋梗塞の発症を一人予防するために、男性で約1.3億円、女性では5.3億円の薬剤費が必要となる」との推計を行い、「薬物療法は、糖尿病、高血圧肥満、喫煙、家族歴などの他の危険因子を考慮のうえ、より高リスクなものに限って行うべきと考えられる」との見解も紹介されておられました。

これからは医療の無駄を省くためにも、一人一人の症状を見極めて、それぞれに適合した医療が求められています。実証データに基づく医療という意味で「Evidence Based Medicine」という言葉が最近日本でもはやりつつあるのだそうですが、コレステロール治療の例などはまさにその通りなのでしょう。天野医師によれば、米国では更に進歩し、「Narrative Based Medicine」という言葉があるのだそうです。よく患者の話を聞いて、患者個人を大事にする医療、という意味なのだそうです。

性差医療という概念は、男女を区別しない医療から男女の性差を踏まえた質の高い医療を目指すものだそうですが、「Evidence Based Medicine」、「Narrative Based Medicine」も考え方としては同じものであり、これにより、ピンポイントの医療行為が可能になり、将来の医療の無駄も節約できるのでしょう。

高齢者医療の在り方も問われていますが、体のあらゆる臓器がガタガタになり、個々人のコンディションにあわせた統合医療が求められる中で、漢方薬の有用性についても天野医師から解説されました。漢方というと、遅効性ばかりが強調されていますが、すぐに効く漢方薬が結構あり、天野医師はそれを処方しているのだそうです。実体験に基づく漢方を推奨する本も書かれておられ、漢方医学界から、「漢方のジャンヌダルク」と呼ばれていると苦笑しておられました。

この研究会を主催された関口守衛医師も、西洋医学と漢方の統合医療を目指されておられ、両者の気持ちが合致した瞬間でした。

講演会の最後に、天野医師から、女医の活用が必要だとの話がありました。現在は医師国家試験の合格者の33%が女性、医学部入学者の4割が女性なのだそうです。その女医さん達が、出産、育児などで医療現場から遠ざかり、現場復帰を思いとどまることは大きな社会的損失です。天野医師は全国の女医さんに、「あなた達でないと出来ない医療をやろうよ。それが武器になるのよ。」と呼びかけているのだそうです。女性医療などはまさにその典型なのでしょう。

女医確保へのバックアップ体制も出来つつあるようです。医師会が女医向けの優秀なベビーシッターを確保している例があるようです。出産育児で現場から遠ざかり、最新医療水準に追いつけない事態を避けるため、女医の再教育の機会を確保するなどの取り組みも始まっているようです。女医はお金を払ってもそういうサービスがあれば現場に復帰する気は大いにあるのだそうです。天野医師も優秀なベビーシッターに巡り会い、女の子を3人優秀な社会人に育て上げています。

過日安曇野市の医療関係者から伺った、産科医が確保できないとの悩みも、全国各地で取り組みが始まっているバックアップ体制が多いに参考になるものと考えられます。http://tokyo-nagano.txt-nifty.com/smutai/2006/01/post_4ad4.html#more

結婚して20年以上がたちましたが、夫婦でこうした講習会を受けたのは初めてでした。これからの人生をお互いにいたわり合うための基礎知識を得たと、二人で話ながら帰宅しました。

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