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December 10, 2005

ドイツ医療保険改革の後を追う日本の改革

年末の政府・与党の議論で、最近の改革の中では大きな医療保険制度の改革案がまとめられました。

秋からの議論が政治レベルで一挙にまとめ上げられた感が強い印象を受けますが、今回の改革は、少し前のドイツに於ける医療制度改革の議論に類似する面が強いことを、千葉大学手塚和彰教授の「怠け者の日本人とドイツ人」(中公新書ラクレ)を読んで認識しました。

実は、この本は、たまたま今年高校の同窓会で手塚教授とお会いしたことが縁で、教授から頂いたものでした。

ドイツの社会保障制度の沿革と現状に造詣の深い手塚教授は、日本の改革のスピードは、ドイツの於ける改革と比較してまだまだ遅れていると指摘されています。ドイツは手厚い医療保険や公的年金の保障によって高度な福祉国家となりましたが、その福祉制度がもはや維持継続できない状態になっており、福祉国家のプロモーターであった社会民主党・緑の党連立政権ですら、福祉政策を大きく見直さざるを得なくなっている事情にあることを、EUの成立、東西ドイツの統一といった国際関係の変化の事情を背景にリアルに描いています。

手塚教授は、「良いことも悪いことも、その多くは20年前にアメリカで起きたことが10年後にドイツに波及し、さらにその10年後に日本に波及するという流れがあり、これらに加えて、日独両国が直面する課題として、少子高齢化が、他の先進国に増して進んでいることがあげられる。少子高齢化により、年金・医療・介護の改革が待ったなしとなっているとともに、高齢者と若い世代の社会的公正・公平が問題となっている。」と、その体験に基づく基本的視座に立った議論を展開されています。

そのドイツの医療保険ですが、「日本の医療保険のモデルとされ、職域毎の被用者保険を軸に企業疾病金庫、地域疾病金庫、補足疾病金庫などによって医療保障を行い、その保障内容は広く、眼鏡、出産も無料、疾病後のクアなどにも保険給付がなされてきたが、疾病金庫の財政悪化とともに徐々に給付の範囲が狭められ、クアも時間が短縮され、一定地域(州あるいはその中の区域)の総医療費が、医療の供給者側と疾病金庫側で決められることになった。また、疾病金庫間での競争原理が導入され、従来は被保険者の職域により決められていた疾病金庫は、どこにでも異動できるようになった。」という改革の流れにあると指摘しておられます。

しかしそれでも保険財政は赤字となり、保険料値上げも国の予算の投入も困難であることから、医療保険改革が始まり、その第1弾として当面の医療保険改革法が通過し、2004年1月から次の内容の改革が施行されていることが紹介されています。
・当年度に関しては医療供給側の医師、歯科医師、病院などへの報酬引き上げなし、薬剤の非経済的なものの削減により、医療供給側の報酬等を引下げ。
・価格競争の導入により、医療の供給価格の抑制。
・保険料負担を、使用者側を減額、被用者側に自己負担を広範囲に導入。
・歯科に関しては医療保険の枠内から外し、別途の保険(定額制のものと民間保険)に加入。
・医療保険給付範囲の限定。来院に際してのタクシー代、死亡一時金、医療上の根拠のない不妊手術、包帯などの補助手当は保険支給カット。
・患者の自己管理による疾病予防にボーナス保険料の設定。

以上の内容は、最近の我が国の医療保険改革の議論の中でも同趣旨の議論が行われていることを見ると、このドイツの医療保険改革の議論が大いに参考にされていることが容易に伺えます。

ところで、ドイツの苦境の背景には、東西ドイツの統一後、ドイツが旧東ドイツの再建のために、多大な国家予算を投入して、産業の旧東ドイツへの誘致を行ってきたという事情があることも紹介されています。そのための資金として、連帯税(所得の4%)の徴収をはじめ、連邦と州、労使が一体となり、失業手当の縮小、住宅手当のカット、第2子への児童手当のカット、かつて無料であった高等教育などでの授業料の新設、農業(西側)・炭坑・造船の補助金カットなどにより、年間120億マルク(1兆2000億円)の投入を行っているという経緯があるのだそうです。

韓国が将来に於ける北朝鮮との南北統一に関し、ドイツ統一に於けるドイツの苦境を目の当たりにして逡巡する向きもあるという話もあながち誇張ではないと思える内容です。

また、手塚教授は、人口減少社会への決め手として外国人労働者の受け入れをあげる意見に対して、ドイツの経験に基づき、その効果に疑問を呈しています。ドイツのケースで見ると、「外国人の第二世代はドイツの教育、職業訓練からドロップアウトする例が多く、失業率が極めて高い。つまり、十分な教育がなされず、失業したまま高齢化し、それが今や大きな社会的負担となっている実態が示されている。犯罪率も急上昇し、米国の911テロの関係者にドイツ在住の外国人が多数含まれていた事例」が紹介されています。

少子化対策として外国人を受け入れる政策は、「短期的な人口減をカバーし、数パーセントのGDPのプラスに寄与したとしても、高失業を生み、失業者の生活保護の必要とともに、高齢化した外国人への負担増もあり、結局は社会的負担の方が大きくなる」と断言されています。

いずれ日本においても外国人労働者の受け入れの問題が、国家的政策課題にのぼる日も遠くないと考えられますが、ドイツの先例は、大いに参考になるものと思われます。

我が国において、高度成長の時代に制度化し、国民に約束してしまった手厚い年金・医療給付の仕組みが、少子高齢化で持続可能なものでなくなっている中で、ドイツの改革の後を追うように日本の制度改革が行われつつある状況は、手塚先生の本を読むと、一瞬、既視感(デジャビュ)のような思いにとらわれます。更にそれ以外の社会問題にまつわる課題も、国際比較の中でお互いに問題意識を共有できる分野は多いと、手塚教授の本を読みながら再認識し、併せて、この分野に於ける先輩の更なるご活躍を期待したいと思った次第です。

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