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November 06, 2005

「マイルドな資本主義」から「ワイルドな資本主義」に

2年前に岩波書店の創業90周年を記念し、経済学者の皆さんがお集まりになり、シンポジウムが行われました。神野直彦、吉川洋、間宮陽介、内橋克人、宮本憲一、大沢真理といった当代の論客の皆様です。

その模様が「経済危機と学問の危機」(岩波書店)という本にまとめられています。

神野教授の進行のもとに、現在の長期に亘る経済危機に立ち向かう処方箋を、現代の経済学者は示し得ているのか、現在の構造改革路線は果たして正しいのか、という観点からの熱心な議論がまとめられています。

吉川教授は、経済財政諮問会議のメンバーでもあり、国際競争が厳しい中で、「のんびりやりたいという気持ちは誰にもあるが、世の中がどんどん変わっていく中で、日本は日本として、然るべき対応をしておかなければ、気が付いてみれば空港のハブ機能もなくなってしまったということになりかねない」と警鐘を鳴らし、どんどん複雑になっている経済社会の中で、「きちっと資源配分をやるシステムは市場以外にない」、と論じておられます。

これに対して、内橋氏は、豊富な現場取材に基づく分析をもとに、次々に打ち出される構造改革路線が生み出す危機こそが、「最大の危機」と論じています。現在の構造改革の結果、「国民の誰もが今や自分の生活について常に自己防衛的に心をつかい尽くさねばならなくなってしまった」、「年収200万円以下、貯蓄200万円以下の世帯が全世帯の20%を超え」、「急速にこの層が増えている」、「幾種類もの労働現場をせわしく走り回って兼働しなければ食っていけない」、「一つの専門を掘り下げ、能力を高め、それゆえ受け取る報酬も高く豊かになっていく、というのではなく、いつまで経っても時間の切り売り。専門と言えるものがなくなり、したがって熟練とともに報酬の実質も上がっていく、という労働の常道が通用しなくなってしまった」、と、最近の市場経済中心主義の経済構造改革の流れを批判しています。

内橋氏は更に、労働領域に関しても、企業側の「働かせる自由」が拡大し、「働く自由」は萎縮している、規制緩和の結果、経団連が長年やりたかったことが実現しつつあり、今や「やりたい放題」ではないか、と指摘しています。戦後の社会制度改正の中で、「大と小があるのは世の常」ということで、その間の「公正な競争とはどうあるべきか」と考え、作り上げてきた制度が、「ご破算」にされようとし、「児童労働」が平然と行われていた時代の制度と精神に戻れと言うことを言っているかのように思われる、とまで論じておられます。「売上高は1%しか増えていないのに、経常利益が70%増えている意味をどう捉えるか」、という数字をあげて企業の「働かせる自由」のもたらした結果を語っておられます。

間宮教授は、そもそも「自由」の意味あいが時代とともに変わってきていると分析し、古来「自由」とはすべからく「個人の自由」であったものが、現在では「組織の自由」に置き換えられ、今日の自由化論は「個人の自由」よりもむしろ「組織の自由」を高めようとする動きであり、その「組織の自由化」は逆に「個人の不自由化」をもたらしていると指摘されています。対外的な競争が激化すると、組織自由主義は、対内的には統制化に向かうと分析し、内橋氏とは異なる言葉ではありますが、同趣旨の懸念を表明されておられます。

内橋氏は、規制緩和の流れの中で、日本型自営業が崩壊し、地域社会の崩壊が進み、その結果社会的コストも高くつくという指摘も行っています。地域社会の基盤を強化していくことこそが国際競争力を強くすることである、という指摘は、春秋の筆法のようで新鮮ですが、当然のことです。高齢者医療費が最も高いのは何処か。高齢者医療費が最も低いのは長野県茅野市、最も高いのは旧炭住街。前者は健全なコミュニティーが残り、後者は崩れ去っている。その結果は医療費の増大という結果として経済にのしかかるという図式を分かりやすい例を示しながら指摘しておられます。

内橋氏は、「マイルドな資本主義」が「ワイルドな資本主義」に転換しつつあるという言葉で表現されていますが、現在の大きな流れとしてそれは当たっているのかも知れません。

私の職場の任務は、どちらかというと、そういう構造改革の流れをバッファーし、地域社会の安定を図るべき立場にありますが、巨額な借金残高、財源不足の中で、バッファー役の制度に関しても、更に効果的な制度改革、運用を迫られています。公的部門の対応の困難さの根源には、やはり巨額な財政資金の不足という問題があるのです。

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