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November 05, 2005

日本の10年先を行くフランスの地方分権改革

「自治・分権ジャーナリストの会」という団体がありますが、その関係の方から、2004年に有志でフランスへ地方分権の現状を調査に行った結果を本にまとめたということでお送り頂いた「フランスの地方分権改革」(日本評論社)をじっくり読みました。

フランスの分権改革の動きを、実際の制度運営に携わっているフランス人の話を交えながら、多角的に分析検証している本で、今の日本の分権改革の少し先を行っているという意味で大いに啓発される内容でした。また、当然のことですが、ジャーナリストの手によるものだけに、分かりやすく読み物としても面白い内容の本です。

私もたまたま2005年8月23日に、笹川日仏財団で、フランス憲法研究の第一人者であるエックス-マルセイユ第3大学政治学院教授アンドレ・ルー教授から、最近の憲法改正を含めたフランスの地方分権推進の動きに関するお話を伺う機会がありましたが、その話の内容を再度確認できるものでした。

以下、少し感想も交えながら、本の内容を紹介申し上げます。

(中央集権国家からの転換)
フランスはフランス革命以来中央集権国家の典型的な国として有名でしたが、1880年代のミッテラン政権による第一次地方分権改革を経て、現在は保守のシラク政権による第二期の分権改革が進行中です。2003年には地方分権を大きく支える内容の憲法改正まで行われ、急激に地方分権への舵を切っています。

日本の府県制や地方財政制度の「母国」は実はフランスです。そのフランスで、二次にわたる地方分権改革が大胆に行われ、遂に憲法改正までも断行したということなのです。

(分権でEU内の地域間競争に勝ち抜く)
その理由は何か。欧州の国々から異口同音に聞こえてくるのは、「権限移譲が国力を高める」という確信に満ちた論調であり、裏を返せば、国際社会の中で一定の国力を維持するためには、「中央政府がこまごまとしたことをやっている場合ではない」という現状認識がある、と記されています。

特にEUの場合は、加盟国間の激しい経済開発競争があり、域内の人や物、金の移動が自由になった結果、企業誘致などで地域間の競争が激しくなり、国境を越えた地域間競争に勝つためには、小回りがきき、更に一定の財政力を持った塊が必要であり、国という単位では大きすぎて小回りがきかず、意志決定に時間がかかるという難点がある、といった背景事情の説明があります。

(平等主義*中央集権への郷愁に揺れる思い)
そうは言っても、フランス革命以来の「自由・平等・博愛」の中で、特に平等原理が好まれるフランスのことなので、話はそんなに単純ではなく、様々な悩みもあるようです。

19世紀フランスを代表する歴史学者のトクヴィルが、平等を求める「民主的民族は、本能において中央集権の方向に引きずり込まれる」と見抜いていたように、平等原理は、どちらかといえば全国を一律に統治する中央主権と親和性があることは論理的な考え方です。

それでも地方分権改革を進める理由は、やはり、欧州統合に伴う、経済の論理の浸透であることは間違いのないことのようです。競争原理が支配的になると平等を基本にしたフランスの国是が揺らぐ。分権による地域間競争も市場原理の地域版だから危険視される。かといって地方を画一的に縛り付けておけば、EU内の州単位の地域開発競争で落ちこぼれる心配がある。

フランスは、自由と平等の間のバランスの取り方に苦心しながら、大きく分権化に向けた舵を切っているとの分析がなされています。

(憲法改正までの分権改革の経緯)
1982年の第一次分権改革では、
・国の事前の後見監督廃止
・県行政の執行権を地方長官から県議会議長へ移譲
・州の地方自治体への昇格
が制度化され、

2003年の憲法改正では、
・憲法上、地方分権原則の導入
・地方自治体への「実験的試行制度の導入」
・(地方自治体の代表性が確保されている)上院に、地方自治体の組織に関する上案の先議権の付与
・州を憲法上の地方自治体に加えたこと
・補完性原理の導入
・(議会の発意による)意志決定型の住民投票制度の導入
・財政自主権に関する原則の導入

が制度化され、関連の法律が矢継ぎ早に制定されたことが紹介されています。

(反対派の立場)
この憲法改正に当たっては、賛成は保守・中道派、反対は社会党・共産党などの左派で、20年前の地方分権改革時とは賛否が入れ替わっているとのことです。しかし、与党内でも、国家主義者のドブレ国民議会議長は、批判的だったとのことです。社会党の主な反対理由は、次に掲げる内容だと紹介されています。日本の分権慎重派の見解と似ています。
・行き過ぎた地方分権は平等原則に反することになること
・地域格差が拡大し国全体の統一性が保持できなくなること
・地方の自主性を過度に認めることは国家の分断に繋がり、連邦主義に陥ること

(地方の立場で国との調整を行う「地方財政委員会」)
第一次分権改革の以前に制度化された地方財政委員会の仕組みも紹介されています。1979年に、各省庁の補助金を統合し一般財源の交付金を作るにあわせて設置された機関で、「国と地方の協議の場であると同時に、交付金を分配する意志決定の場である」との機能を有する組織だそうです。43名の委員は、国会議員、地方代表、省庁代表からなり、地方代表が2/3を占める権威のある委員会になっているのだそうです。政府が地方財政に関連する法案を国会提出前に地方財政委員会に諮問するようになっているという事実もあるのだそうです。この委員会のお墨付き得た法案は国会審議が容易になるとの期待感も政府側にあるようです。

(日本の10年以上先を行くフランスの地方分権改革)
自治・分権ジャーナリストの皆様の見立てでは、フランスの地方分権改革と日本のそれを比較すると、フランスの改革は日本よりも10年以上先を行っているという印象のようです。フランスは1982年の第一次分権改革をスタートとし、日本は1995年の地方分権推進法の成立と地方分権委員会の発足をスタートラインとする、ととらえ、そこから両国がそれぞれの制度改革の動きが始まったと比較しています。

思えば、日本も、フランスと同じく、旧社会党の村山首相の下で分権改革の流れが始まり、それが小泉政権の三位一体改革に引き継がれているのと、フランスが革新系のミッテラン政権で始まった分権改革が、保守のシラク政権で更に拡大しているのと軌を一にしているところがあります。三位一体改革も、様々な抵抗を受けながらも、補助金を大幅に整理し、着実に国から地方への税源移譲という成果を残しつつあります。そして、「国と地方の協議の場」の制度化などを第二次分権改革の手段として地方6団体は求めていますが、フランスの「地方財政委員会」はそのモデルとなりうるように思われます。そして、フランスの後を追うように、昨今の憲法改正の議論の中で、地方自治に関する条項を厚くし、欧州自治憲章などの国際標準に沿ったものとする提案が自民党などから示されています。

この様に見てみると、地方分権化の流れは、現代の世界の潮流であり、そういう巨視的な視野で、ものごとの流れを見ていくことが、自らの仕事の羅針盤になりうると思えた次第です。

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