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September 03, 2005

ハリケーン・カトリーナとFEMA

米国でハリケーン・カトリーナによる被害が深刻な規模に拡大しています。米国の歴史上最大規模の自然災害とも言われ始めています。その中で、被害対応に当たっている危機管理組織の対応が議論され始めています。

今度のハリケーン被害で、歴史の皮肉を感じています。1992年のフロリダを襲ったハリケーンアンドリューの被害の際に、連邦政府の救済が遅れ、3日も経ってからの救援開始が批判され、時の大統領ブッシュパパは、大統領選でクリントンに苦杯をなめたとFEMAの関係者の中では言われています。

今回のカトリーナも、被災後5日たって漸く救援活動が本格化したと報道(「被災から5日目で初めて支援物資が軍用トラックで届けられた」ラファイエット(米ルイジアナ州)2日共同)されています。ブッシュ息子大統領は、イラク問題に加え、ハリケーン対応で、父親と同じ立場に立ち、歴史は繰り返す、という言葉を思わず思い起こします。

ところで、連邦危機管理局(FEMA)という組織がありますが、2003年3月にFEMAがデパートメント・オブ・ホームランド・セキュリティ(DHS、国土安全保障省)に統合されています。DHSは税関、入国管理局、動植物検疫、国家災害医療などまでも含む 22の政府機関を寄せ集め17万人の巨大組織ですが、独立の組織だったFEMAは、DHSの内部組織となっています。

統合後の危機管理組織が初期の理念どおりに運用されていくか、実際の災害対応の実績が問われていますが、ハリケーン・カトリーナによる巨大災害に際しての連邦政府の対応が議論になりそうです。古くからのFEMAの関係者の中には、独立組織としてのFEMAの方が、権限の面、機動性の面、専門家が責任ある立場に立っていたという面などで優位であったという話もあります。

いずれにしても、現在のFEMAの機能にはどのようなものがあるのか、関心をお持ちの方は多いと思います。

2年ほど前の2003年8月に、発足間もないDHS都市捜索救助応援プログラムのディレクターのマイケル・ タミロウ氏から、米国危機管理組織の再編と機能に関し、お話を伺う機会がありました。タミロウ課長 は、30年に及ぶ消防局の現場経験を有し、米国内、海外における重大事案への出動経験も豊富で、全米検索救助協会のメンバー、国際的にも国連国際検索救助諮問グループのメンバーを務め、米国の災害出動チームの代表も務めている緊急対応のプロ中のプロです 。現職に就任前は自らバージニア州のフェアファックス郡消防局の都市検索救助隊(US&R)の隊長でもありました。地震災害ではソ連の地震をはじめ5回、それからテロ災害に関してはオクラホマシティーの爆弾事件、2001年の同時多発テロでもペンタゴン、WTCの 現場で指揮を執っておられます。特にFEMAの都市検索救助システムについては、設立当初から深く参画している見識の高い方です。

以下、当時私がまとめたタミロウ課長講演の概要です。実体験を踏まえた話もあり、参考になる講演でした。

(国土安全保障省;DHSの任務)
防災と危機に関する米国での状況は2001年の9月11日に変わりました。世界全体がこれで変わったと言ってよいかと思い ます。安全あるいは福利厚生、安心感、治安が根幹まで揺るがされました。その結果、方向性あるいは焦点という意味ですべて見方 を変えざるをえない事態となりました。米国の政府は迅速に動きました。いくつかの重要な大統領令が出されています。
国土安全保障に関する大統領令は2002年2月28日に発効し、いくつかの組織が決定され、ここ1年間ほどはここに焦点が 当てられてきました。
本土安全保障省(DHS)の概略をご紹介すると、先ずリッジが初代長官で、その下に五つのディレクトレット、 部局があります。各ディレクトレットには次官が任命されております。
DHSの使命は自明だと思います。当然、テロ攻撃が米国内で起こることを防止いたします。そのためにはアメリカのテロ に対する脆弱性を軽減しなければなりません。さらに、万が一テロ攻撃が起きた場合には被害を軽減、最小化しなければならず、ま たもとより自然災害に関しても被害の最小化を図る必要があります。

(国防総省創設以来の最大の組織再編)
大きな組織の再編が行われていますが、これは、より効果的、効率的な形で対応が可能となるようにとの趣旨から行わ れたものです。しかし、異なる省庁を統合するのは簡単なことではありません。DHSに22を超える既存の省庁の機関を統合し、合わせ て17万人を超える職員の異動を伴い、再編規模としては過去最大となりました。これは50年代以降、国防総省を創設して以来の大規 模な再編です。国境、交通、運輸系の確保、あるいは重要インフラの防護、情報の収集、脅威リスクの評価、初動対応の準備、緊急 事態に対する対応、これらがDHSの重要な任務となりました。

(膨大な予算配分)
ブッシュ大統領の指示により、予算に関して、政府はたいへん真剣に取り組んでおり、相当の額をコミットする用意が あります。次年度に関しましては360億ドル以上の予算がDHSに配分されております。8億2900万ドルが「脅威の評価と防止」、つまり 脅威の発生を抑止に当てられます。8億300万ドルが「新技術の開発」に充てられることになります。また、59億ドルが「防災と初動 体制強化」のために投入されます。更に、最大の180億ドルが「国境、運輸、通信系の防護、保護」に充てられることになります。
67億ドルが「港と空港、水路に関するセキュリティ、安全性の確保」に充てられますが、国土が広大故に、この課題は かなり厳しい対応が求められています。5億ドルは「入国管理サービスの改善」に、13億ドルが「首脳の保護ならびに偽造防止」に充 てられます。そのほか、120億ドル以上が様々な手段により国土の安全保障を強化するために全米に振り分けられることになります。

(省の目標;統合の実を上げる、新たな能力の創出、地域の適切な管理など)
DHSにとっては一つの省としての統合したこと、当然のことながら、ばらばらだったグループをまとめることが、第一義 的な挑戦課題となっています。しかし、それ以上に重要なのが、新しいサービスの「能力」を生み出すことです。これまで何をして いなかったのか、何を改善することができるのか、が問われます。たとえば情報へのアクセスに関しては、高度なIT社会の中で、あ る意味では情報の洪水の中から重要な情報を選び出すということも課題となっています。
もう一つ、DHSの目標として重要なこと、それは、とにかく国土が広大ですから、地域、地方レベルでの管理が よりよい形で行わることです。そこで地域、地方に管轄を分けて、より効果的に国土を管理しようとしています。 更に省の使命には、州、地域、民間の活動をサポートすることも含まれております。それを全てこなしながら、同時に個人の自由の確保も必要です。経済の安全保障も確保してなければなりません。

(科学技術能力プロトタイプ作り)
簡単にDHS5局のディレクトレットを紹介すると、まず、科学技術局は、米国に対して何らかの脅威があれば、それに対 応する力を高めてミッション・オペレーションの高度化を行う、ということが任務です。例えば、原型、プロトタイプ作りを迅速に 行います。科学技術能力のプロトタイプ作りをできるだけ早く行って、システムを開発していきます。また高度なシステム工学の力 を使って、科学技術を前進させていきます。更に、分析という機能があります。米国の脆弱性を常に精査しなければなりません。こ れは継続的にセキュリティシステムをテストすることによってチェックしていくものです。
ここで強調したいのは、破局的な災害、事件、事故への対応能力です。そのためには当然のことながら現在の能力も向 上していかなければなりませんが、それ以上に重要なのは、今後革命的に新しい能力を身に付けるということなのです。

(インターオペラビリティーの重視、Public Safety WINS)
日本ではどうなっているのかよく分かりませんが、米国における重要課題の一つに、よくインターオペラビリティー 、相互互換性と言われるものがあります。いくつかの異なるレベルで使われる概念であり、たとえば消防組織の中で使われるこ ともあります。機器、装置を標準化しておくことによって、相互支援の際にお互いに使いこなすができる、ということになります。 一番重要なのは通信の分野ということになります。これは大統領令の下で主導的に進められ、パブリック・セーフティ・ウィンズ( Public Safety WINS)というものが定められています。WINSというのはワイヤレス・インターオペラビリティー・ナショナル・スト ラテジー(全米無線相互互換性戦略)の略称です。
米国においては、異なる通信技術があります。ポータブルのワイヤレスビデオがありますが、周波数帯域が異なったり しております。たとえば、WTCあるいはペンタゴンが攻撃されたときに、相互に通信ができなかったという事実がありました。そこで 全米的な戦略をつくることによりこの障害を乗り越えようと、効果的な通信を確保しようとしております。
その戦略の一部としてスコアカード、文字どおり「成績表」という制度があります。各州の状況をスコアを付けてチェ ックしております。この取り組みの中で、14州ではすでに高度な先進的な状態ができていることが確認されております。相互互換性 に関しては、14州は少なくとも要求水準を満たしているということが確認されているということになります。

(インテリジェンス情報の収集、警告の発信)
情報分析・インフラ防護局では、情報を取りまとめて普及していくという使命があります。それは、現在、そして将来 の脅威を確定し、評価することです。また脅威があった場合に、我々の弱点等をつき合わせて考えます。そしてタイムリーな形で警 告を発信します。しかし「言うは易し」です。したがって、予防的、もしくは防護的な必要な行動をとることになります。
インテリジェンスの分析、それからアラート、警告を出す。これが一番核心的な作業です。直ちに行動をとるこ とができるようなインテリジェンス情報を集めることが重要です。具体的には、テロ行為を抑止する、未然に防止する、逮捕につな がる、といった情報の収集が緊要です。徹底的にタイムリーな形で情報を分析しなければならず、その能力を向上しようとしており ます。

(関係省庁間の協力)
それを実際に行うために、他省庁と全面協力を実現することが重要です。たとえばNSA(国家安全保障庁)、CIA、FBIと 全面協力が必要です。過去、この点で確かに問題があり、それは同時多発テロで明らかになりました。各省庁間できちんとコミュニ ケーションができていなかった、情報が効果的に共有されていなかったことが反省点として挙げられています。情報分析・インフラ 防護局の使命として各省庁間の協力確保があるのです。

(脅威情報の発出のジレンマ)
ウォーニング、警告を出すことに関しては、難しい問題があります。脅威のレベルを5つに分けて警告を出して おります。赤、橙、黄、青、緑の5の色分けが行われております。できるだけシンプルな警告に心がけており、例えば、特殊あるいは 全国規模の脅威に関し、「航空部門が危険である」といったような形の警告を発出しています。空間上、あるいはネット上の双方に 対して脅威情報を出さなければなりません。この情報は、一般の市民あるいは民間の業界、州あるいは市町村などに対して出します 。しかし、1年間このシステムを使ってきた経験で言えば、まさに「言うは易し、行うは難し」です。例えば、危険度情報ハイレベル で上から二つ目の橙を発出して何も起こらないと、「あいつらはでたらめを言っているのではないか」と非難されます。
一方で、リスクをきちんと高いところに位置づけないままに何かの重大事案が発生したような場合には、「やるべきこ とをやっていない」と批判されます。結局、何をやったとしても批判をされる運命にあります。

(重要インフラの防護)
重要インフラの防護も非常に重要な使命です。日本や米国のように非常に複雑な高度社会では、テロリストは、重要な インフラを攻撃することによって大きな損害を引き起こすことができます。重要インフラへの攻撃により、水、食料、農業、エネル ギー源、あるいは銀行金融制度を破壊することが可能です。こういった重要インフラを守ることは、国レベルだけではなく州、自治 体すべてが責任を共有することとされています。

(国境・交通のセキュリティ確保の課題)
国境・交通安全局の任務は、国境及び輸入港の安全確保ということです。米国は海岸線が非常に長く、港、空港も多く 、高速道路、鉄道や官公庁の施設の保護が必要です。その強化のために、入国管理あるいは税関法の所管も変えました。
農業に関する法律については、検疫法は国境で安全を確保する必要があり、州、自治体レベルでもセキュリティに関す る準備、対応が必要です。 国境・交通安全局の下で、入管サービス、国境管理の機能強化は複数の組織が分担管理しています。その中でも最大の 分野として、市民権及び移民部では、公民権ならびに入管サービスを管轄していますが、現在この部門は非常に厳しい作業を強いら れています。例えば、米国の市民権を獲得希望の外国人に関しては処理効率を向上しようとし、ビザの処理の手法も向上し、就労許 可などの許認可に関して、あるいは転入者、転居者に関しても十分なサービスを提供しようとしています。テロリストを排除する任 務がある一方で、適法な人達は適正に入国ができるようにすべきですから、非常に難しいプロセスとなっています。
国境ならびに入管に関する法の執行も課題です。入管で、非合法的なものへの対処はどの国でも悩みの種です。米国は 、メキシコが南に隣接し、眼と鼻の先の南東部にキューバがあり、常に我々の悩みです。麻薬取引に関しては長い間の闘いの歴史が あります。非常に困難な作業をこの局が担っているのです。

(従来のFEMAはどう変わったのか)
私が所属するのは「防災・緊急対応局」という部署で、以前のFEMA(危機管理庁)に当たるところです。担当次官はマ イケル・ブラウンです。ブラウン次官は、「名称をFEMAに変えるよう」に公式要請をリッジ長官に出しております。理由は、もとも とFEMAという機関は国民に親しまれ、よく知られおり、FEMAという名前は残したかったということです。
国民が「FEMA」という名前を聞くと、仕事の内容が理解できます。突然名前をエマージェンシー・プリペアードネス・ アンド・レスポンスという長い名前に変えると、これはかえって混乱の元になるのではないかということです。ブラウン次官が正し い判断を行いリッジ長官に要請を行っています。リッジ長官の最終決定はこれからですが、恐らく名称は「FEMA」に戻ることになる と思われます。

(DHAの地域管轄区域とFEMAの地域事務所区域)
さて、FEMAは、これまで全米を10の地域に区分して管理してきましたが、DHSではどのような地域分割により全米を適切 に管理できるかと検討中です。現在の議論としては、FEMAの10の地域区分をそのまま使えばいいのではないかと言われており ます。現在その得失の評価を行っており、場合によっては更に分割したほうがいいのではないかとも言われています。そのほうが効 率的なサービスが提供できるのではないかという考えです。

<新生FEMAの機能、うち防災・準備対応部の仕事>
(国民への事態対応教育支援の重要性)
FEMAの中には4部あります。先ず、プリペイドネス、これは防災・準備対応の段階に対応する組織です。この部の主な使命について述べます。
当然のことながら、全米規模で災害準備の対応が必要です。計画、研修、訓練、情報の共有などがあります。最も重要な活動は啓発活動です。全国的な啓発活動を通じて、米国市民が自然災害やテロ攻撃に備えられるように、教育支援を行っていくというものです。国民一人一人が、そしてその家族が適切に事態に備えるため、緊急時用の備品準備、家族と連絡体制の確保(緊急時に連絡をとれるようにするということ)、予想される事態に関する情報提供などが想定されています。重要なのは、災害などが起きる前に準備しておくということです。

(消防活動支援)
防災・準備対応部の仕事の最も大きな分野として、消防活動への支援業務があります。実はこの仕事は、比較的新しい仕事であり、初動対応要員の能力強化をローカルレベルで行うことにあります。
本年度は多額の資金が投入されています。現在7億5000万ドルが消防庁に提供され、消防庁を経由し各地の消防本部に直接資金が提供されています。3年ほど前にこのプログラムが導入されましたが、爾来10億ドル以上が拠出されています。

(危機管理センターの整備)
防災・準備対応部のもう一つの課題は、危機管理センター(EOC)の整備です。いずれの地域でも、EOCと呼ばれるセンターを作ることは、効果的な緊急事態に対応する上で不可欠なものです。
米国の多くの州や市町村のEOCは物理的にも機能的にも改善の余地があります。現在、各州には5万ドルを支給し、EOCの評価が行われています。そしてFEMAとしては州や市町村のEOCの強化に向け4億ドル以上の資金を確保しています。このうち7400万ドルを市町村に提供しております。

(大都市圏医療応急チーム;MMRS)
緊急医療面での連邦政府の地域支援任務で重要なものに、大都市圏医療応急チーム(Metropolitan Medical Response Teams;MMRS)と呼ばれる1996年に発足したシステムがあります。公衆衛生に対する脅威、大量破壊兵器の使用という事態に備えるため既存の緊急事態対応システムを充実させ、最も重要な最初の48時間に効果的に対応可能な準備と調整を行う仕組みを作り上げています。
地域社会の警察、消防、緊急医療サービス、危険物扱い班(HAZ MAT)、病院、公衆衛生機関などの協力体制を構築し、120の大都市、そして郡部において整備されています。
このチームの任務は、化学、生物、化学物質の同定、医療情報の収集・共有、被災者トリアージと処置、被災者の除染・支援、被災者の受け入れ機関への搬送調整などです。こうした現地におけるニーズを連邦機関が理解しておくことが求められています。
MMRSには5か年戦略計画があり、その中には、現場レベルでチームが適切に活動を行う体制にあるか否かを評価する運用準備体制評価、また、大量死傷者発生対処などがあり、2002年度で23の管区が存在し、またそれぞれの管区毎に60万ドルの助成金が提供され、能力向上が図られています。
MMRSの理念は単純明快で、大量破壊兵器の使用に対し即時対応できる応急医療というものが人命救助に決定的に重要であるということ、こうした事態に即時に対応できる資源が地方には不足し事態に圧倒される状況が生まれうるということ、現在の特殊医療用備品、装備の実態が不十分であること、したがって連邦政府が大量で即時に支援を行い、地方の対応能力を強化することが求められること、であります。

(緊急事態管理能力向上助成金)
緊急事態管理能力向上助成金という制度があり、現在、1億6500万ドルが確保され、それぞれの地域のリスク、脆弱性に応じて、被害抑止、被害軽減、緊急対応、復興の分野の喫緊のニーズに活用されます。地域の緊急事態管理者は、この資金を計画、研修、訓練、必要な設備の整備などに活用することになります。

(全国研修センター)
FEMAには全国研修センターがあり、ワシントン北部の消防大学と同じ敷地にある緊急事態管理研究所(EMI)がそれです。両方の施設では毎年約1万3000人が受講しております。その他通信型のもの、講師の派遣というものもあります。全体では25万人が教育訓練を受けております。

(市民防災組織)
市民防災組織も重要な機能を有します。国民自身が自分達の手で自分自身、家族、コミュニティの安全をより確かなものとしていくことが求められます。市民防災組織の内容としては、コミュニティ緊急事態対応チーム(CERT)、警察ボランティア、医療ボランティア、近隣監視チーム、があります。CERTですが、緊急事態の際に地元は混乱状態になるため、地域の住民の緊急事態対応能力を高めるというものです。初動対応者への支援、被災者への応急措置、ボランティアの組織化などがCERTのメンバーには求められます。緊急事態には、ボランティアの組織化が決定的に重要になりますが、ボランティアの希望者に何をしたらいいのか指示をしていくということが重要となってくるのです。このCERTのトレーニングについては、45州の341か所で提供されています。

(ウェッブサイトのディザスター・ヘルプ)
今日では、インターネットの活用が非常に重要です。オンラインのウェブサイトが現在設置されており、連邦、市町村がディザスター・ヘルプというインターネットサイトの下に連携が図られています。このネットは様々な機関が活用しており、US&Rも24のタスクフォースの活動の円滑化に活用しています。

<復旧部の仕事>
(復興支援)
FEMAには復旧部があり、被災コミュニティを支援し、復興を図るための手段として、公共団体支援、個人向け支援、被害軽減基金があります。連邦政府の復興支援は連邦政府の法律に基づいて行われ、まず州知事から大統領への支援要請が必要です。災害の規模が州や市町村の災害対応能力を超えていること、連邦政府からの追加支援が必要だということの証明が必要であり、それが確認され、大統領が災害宣言を行って連邦資金を投入することになります。

(公共団体支援)
公共団体支援事業は、州や市町村が行った災害関連のさまざまな業務、例えば瓦礫除去、緊急防護措置、道路橋梁修理、水利施設復旧、建築物・設備復旧、公共機能の復旧、公園・娯楽施設の復旧などへの支出に対して、それを払い戻すということです。

(個人向け支援)
個人向け支援事業は、個人や世帯に対して行われるもので、例えば、住居、生活必需品、カウンセリング、災害による失業、法律相談、ボランティア団体支援事業、寄付金の配分などが想定されます。地域社会では教会などを含めさまざまな団体でボランティア活動が行われていますが、この個人向け支援事業あくまでも連邦のプログラムです。連邦プログラムの中に、緊急給食、避難所プログラムというものがありますが、これに対しては、2003年度において、1億5300万ドルが確保されています。

<被害軽減部の仕事>
(FEMAの被害軽減プログラム)
FEMAには被害軽減部がありますが、この部門の任務は、災害が起きた場合の人々の生命や財産への影響を軽減・除去するためにあります。河川氾濫地域における建物の安全確保、耐震工事の施行、建築基準の作成・強化、水害保険などがその活動内容です。
主要な6プログラム、すなわち、全国水害保険、全国ダム安全プログラム、全国地震被害軽減プログラム、全国ハリケーンプログラム、外力軽減プログラム、水害被害軽減プログラムが用意されており、これらの制度により市民に災害に備えてもらうということになっています。

(被害予測システム;ALOHA/CAMEO FLDWAV)
FEMAでは、ITを利用し、人為的あるいは高度な技術を使った被害を予想するシステムを作り上げています。これはコンピュータ・プログラムで、ALOHA/CAMEOと呼ばれるこのシステムは、ガスや化学物質が大気に放出された場合の被害拡大、すなわち、どういう方向にその物質が拡散するのか、といったことを予測するものであり、FLDWAVと呼ばれるものは、ダムの決壊の分析を行うものです。これらはいずれも、自治体が大規模な災害を想定し、それに備えることが目的です。

<応急対応部の仕事>
(応急対応部の使命;標準時間の設定、大量死傷者対応)
応急対応部は私自身が所属しているところであり、現在の課題は、一つの部門に様々な機能を統合していく、ということです。それは、出動と到着の標準時間を全て応急チーム要員に求めていくということに目的があります。米国内でありさえすれば、少なくとも12時間以内にチームが到着できるようにすること、また、生活物資の支援は24時間以内に行う、ということです。また、大量に発生する負傷者への対応能力の強化も重要ですが、この分野についてはこれまで十分に対応がされてきませんでした。大量死傷者の発生予測とそれを前提にした訓練も重要で、災害拠点病院でそうした機能が果たされています。実際に事故、災害が起きる前に、こうした対策を講じておくことが重要です。

(25の高危険度地区の激甚被害応急計画)
もう一つの重要な課題は、激甚被害応急計画を作っていくということです。全米で25の高危険度の地区を定め、この計画を定めています。
この計画には、例えば60日以内に10万人分の避難者向けの緊急収容施設を作る計画、手続き、手順を整えるというもの、全ての応急チームに基礎技術、訓練プログラム、習熟度を高め、100%の任務遂行能力を確保するというもの、また、非常にお金がかかるものですが、全ての応急対応チームに対して、少なくとも毎年1回実施準備態勢訓練を行い、そのレベルを評価するというものが含まれています。
これらが、応急対応部の使命、目標であり、現在こうした方向の対応が着実に進んでいるところです。

(連邦応急対応計画を国家応急対応計画に変更)
FEMAには、これまで連邦応急対応計画(Federal Response Plan)というものがありました。この計画に基づいて応急対応をしていたわけですが、9・11以降の環境変化の中で、現在は国家応急対応計画(National Response Plan)というものができました。その目的は、単一の包括的、統合的なアプローチを確立し、連邦政府の予防、対応準備、応急対応、復旧の各活動を、全ての規律、全ての外力に適用できる単一の計画に収斂させるということにあります。これは、さまざまなプログラムの並存ということではなく、単一のものにするというものであり、単に連邦政府のみではなく、州、市町村も含めた国家的なものというものであり、全ての規律、全ての外力を含むものであり、所謂事態が起こる前の危機感理と事態が起きた後の被害管理を統合するものであり、対応の責任主体を明示するものであります。全体をシームレスな形で統合し、資源を統合的に活用していくところに意味があるのです。

(NIMSの構築)
応急対応部の仕事の一つに全米被害管理システム(National Incident Management System;NIMS)の作成があります。これは大統領令(HSPD)の5番、HSPD-5に基づき、単一の包括的な国家システムにより被害管理を行うシステムを確立するというものです。現在は各州、各市町村には異なるコマンド、指揮系統システムがあります。これを抜本的に改善し、合同で運用できるようなものとする必要があります。これは規模の大きな試みですが、すでに検討チームが発足し、作業が始まっています。できれば今年の終わりまでには制度を確立したいと思っております。このシステムが確立できれば、FEMAがNIMSの運用と管理に重要な役割を果たすことになります。

(NIMSの基本構造)
NIMSの基本構造は、非常時指揮システム(ICS)をその中核に据え、統合された指揮、制度を異なる州間でも持ちたいと考えており、省庁間の調整のシステムも必要です。また、防災資源の同定、管理が必要で、その資源はトラッキングも必要です。さらに、災害あるいは事態の推移に関する情報収集、トラッキング、報告といったことも重要な要素です。

(医薬品備蓄)
応急対応部の仕事として、医薬品の備蓄に関するものがあります。この仕事は、National Pharmaceutical Stockpile;NPSと呼ばれています。
神経毒性物質、生物性の病原菌、化学物質といった大量破壊兵器の使用に有効に対応できるように必要な医薬品を備蓄しておくためのシステムであり、戦略的に全米各地に備蓄しています。テロリストの攻撃が行われた際は、直ちに供給が可能なように備蓄されています。医薬品、ワクチン、医療用消耗品、医療機器などの準備が行われています。
備蓄により、州や市町村が消費した場合には直ちに補給できる体制が整っています。全米各地での戦略的備蓄により、必要なときには、オンサイトで24時間以内に届けることができるようになっています。

(災害時医療システム;NDMS)
FEMAにはUS&Rなどと提携関係にある姉妹機関として国家災害医療システム(National Disaster Medical System ;NDMS)という災害医療システムがあり、これはもともと米国厚生省(DHHS)にあったものが移管されたものです。その機能を分かり易く説明すると、大規模な被害が生じたときに医療面の対応、患者の移送、更には長期的には高度な医療ケアを病院で提供をするということが任務となっております。
そのシステムの構成は、さまざまなチームからなり、例えば災害医療支援チーム(Disaster Medical Assistance Team; DMAT)が39チーム(この他準備中の部隊が15チーム)ありますが、これは文字どおり看護婦あるいは看護師、医師、移動病院などからなるチームで、どこでも必要なところに派遣され、被災者・犠牲者支援を行います。
大量破壊兵器国家医療対応チーム(National Medical Response Team/WMD;NMRT/WMD)は4チームあり、この部隊は、大量破壊兵器による除染作業などを直接扱うことになっております。患者搬送を行う前に除染し、病院の汚染を防止するというのが使命です。
火傷専門チームが5チーム、小児医療チームが2チーム、挫滅医療チーム(瓦礫の下で相当時間生き埋めになった被災者のクラッシュ症候群に対応する専門チーム)が1チーム、国際外科医療チームが1チーム、メンタルヘルスチームが4チーム、獣医学支援チームが4チーム、これは日本では俄かには信じてもらえないかも知れませんが、災害時にペット、動物の医療ケアも必要になるということから設置されています。それから埋葬支援チームは11チームあります。これは、災害現場からの遺体の処置、例えば飛行機が墜落し大量の死傷者が発生するような場合は、包括的な災害医療対応チームが必要となるのであり、各チームが協力しながらそれぞれ責任を負っていくことになります。この他事務処理チームも1チーム設置されています。

(DMATの全米配備状況)
DMATは全米の各地に配備されていますが、地域によっては適切にカバーされていないという認識もあり、現在その評価を行っています。これは厳しい挑戦課題となっており、十分に目標達成ができていません。必ず12時間以内にどこにでもチームが到達できるか、そういう意味で空白地域があります。評価の結果、恐らく現在チームが配備されていない州にも支援チームが設けられると見込んでいます。

(DMATの役割)
DMATは、被災現場でトリアージを求められます。つまり、犠牲者、被災者に関して直ちにケアをすべき患者の順番を決めます。重篤患者に対しては、その場での医療ケアを提供し、怪我人の選別、整理を行った上で、最も早く病院に搬送が必要な者を選別します。しかもこの作業を大規模に実施しなければなりません。
この際にNDMSは被災現場において、受付センターの役割を担うことになります。特に大規模災害、例えば大地震が発生したような場合に、多くの怪我人が突然殺到するような時に、空きベッドのある病院へ患者搬送を適切に行うためには、受付での適切な整理が不可欠なのです。

(NMRT/WMD)
大量破壊兵器国家医療対応チーム(National Medical Response Team/WMD)、略称NMRT/WMDは、被災現場で患者搬送前に除染を行います。今のところ4つの除染チームが、ノースカロライナ州ウィンストンセーレム、コロラド州デンバー、カリフォルニア州ロサンゼルス、そしてワシントンD.C.にあります。ワシントンD.C.のチームは全米には展開しません。D.C.だけの常駐、専属チームであり、ほかのチームは全国展開が想定されています。
今のところ、この4チーム全部が大量破壊兵器対応能力を有しておりますが、まだ課題があります。それはチームの数の絶対量の不足です。12時間以内に全米のどこにでも到達という目標は4チームでは果たせません。
埋葬支援チームが11チームあると先ほど申しました。このチームの機能は、遺体の回収、処理ですが、埋葬支援チームに関しましては、残念ながら大量破壊兵器に十分な対応ができ除染ができるのは1チームしかありません。

(US&RとIST)
私が責任者である組織は都市検索救助隊(Urban Search & Rescue;US&R)を所管しており、このUS&Rは都市部における捜索、救助に携わり、ほかの部門とも姉妹機関として提携協力を行っています。NDMSとも姉妹組織となっております。このUS&Rには28のタスクフォースがあります。
また、災害支援チーム(Incident Support Teams;IST) がありますが、これはいわばハイレベルの支援チームということになります。これは指揮メンバーが異なるタスクフォースから集まってできた組織です。事態が発生した際には、指揮に関して複数のタスクフォースをコーディネートする役割を果たします。さらにUS&R技術専門家がいます。これは連邦政府、州、市町村からさまざまな分野の専門家が集まっております。たとえばオクラホマシティ・ビルの爆弾テロなどの際に、事態対処に必要な専門家が集められます。

(US&Rの機能の特徴)
US&Rの任務の中で、我々が最も焦点を当てているのは、倒壊した建物から被災者を救助することです。たとえば鉄筋コンクリート、鉄骨作りの建物から、地震であれ、ハリケーン、トルネード、爆発、大量破壊兵器、テロ、などの原因を問わず、被災者を捜索し救助することです。
このチームの機能の強さは次のような基盤の上に立っています。すなわちチームのメンバーは、いろいろな分野のトレーニングを受けています。チーム内のすべての役割について訓練を受けていることが求められるのです。全米で標準化された機器、装備を持ち、トレーニングを受けております。そして24時間のオペレーションが可能になっております。この24時間運営は、チームを半分ずつに分け、ツーシフト、すなわち日中部隊、夜間部隊ということで24時間オペレーションとしています。最初の72時間は自律的活動が可能になっています。応援部隊がかえって地元の負担になるのを避ける観点の体制をとっているのです。このチームは、要請があってから4時間から6時間以内に出動できる体制になっています。

(US&Rの部隊構成)
US&Rの個々のタスクフォースの構造ですが、ある都市部の部隊の例では、5のブランチに62人の隊員が所属しています。捜索、救助、企画、後方支援、医療の5チームがあり、最も大きなブランチは救助です。
各チームには6万5000ポンドの重量の機材、装備がありますが、水、テント、食料なども全て持参しなければなりません。完全に自給できる体制が必要なのです。繰り返しますが、応援部隊が駆けつけたことで被災地に更なる負担を上乗せするようなことになってはいけません。

(US&Rの能力)
チームには救助能力が備わっています。しかし、まずは犠牲者、被災者を見つけないことには救助はできません。そこで捜索の能力として、訓練を受けた捜索犬の活用、これは臭いによる捜索、また音響装置、電子的もしくは光ファイバーのサーチカメラの活用、このようなツールを使っています。各チームには医療部門、医師あるいは救急隊、パラメディックもいます。建物構造工学の専門家もいます。適切なアドバイス、情報をタスクフォースの責任者に伝えることにより、倒壊建物などの安全性の有無が判断できます。
倒壊建物で、救助チームが行うことは、まず倒壊あるいは損壊した建物の安定化措置を施すことです。躯体を支える支柱をしっかり取り付け、建物がそれ以上壊れないようにした上で、中に被災者が閉じ込められている場合には瓦礫を除去して救助しなければなりません。木造建物の場合は被災地の地元の人達だけでも十分対応ができる場合が多いのですが、我々としてはより対応の難しい複雑な建築物に集中することになります。かなり複雑な構造物で救出が特に困難な場合、たとえば鉄筋コンクリート、大型スチールフレームのもの、たとえばワールド・トレード・センターなどもその一例ですが、こうしたものに対する対処は、同時多発テロ以降新たな構想に基づき、対処策の検討を開始しています。

(大量破壊兵器対応能力の付加)
あわせて、HAZ MAT、すなわち危険物を取り扱うことができる能力を備えているチームもあり、大量破壊兵器による被害への対応が可能となっています。大量破壊兵器対応チームには、通常の62名の隊員に加え8人の危険物の専門家を追加しております。現在すべてのタスクフォースがWMD対応能力、すなわち大量破壊兵器対応能力を保持できるように準備しており、今年の9月30日付けでこの体制が確立されることになる予定です。
専門家の追加だけではなく、40万ドル相当の除染あるいは危険物取り扱い装備を28のタスクフォースに配分し、装備を高度化しております。この資機材は現在配備の真っ最中です。

(軽装備のチームも)
今年の6月に始めたばかりの現在進行中の構想があります。ハリケーンのシーズンに始めたものです。ハリケーンのシーズンは、普通は6、7、8、9月です。このハリケーンに対しては、いわゆる重装備のUS&R、つまり62人からなるタスクフォース、そして600万ポンドの重量資機材を全て積載し運んでいても、被害の規模は地震被害に比べそれほど大きな規模ではないのが通常ですから、もともと重装備のUS&Rはハリケーン対応部隊としてはそぐわないと考えられていました。
トルネード、ハリケーンではもう少し小規模なチームで対応可能なわけです。さほど大規模なチームは要らない、あるいは、フルセットの資機材までは要らないということです。そこで、各チームを再編し、必要に応じて構成の異なる部隊、小規模な部隊で出動することになります。おおよそ28人ぐらいのチームを派遣するということになる予定です。ハリケーン、トルネード用にタスクフォースを半分にしたことになります。
ハリケーンなどに起因する被害は、たとえば鉄筋コンクリートが倒壊するということはなく、どちらかと言えば木造系など、簡単に壊れてしまう被害です。人命救助に関してもそれほど複雑ではありません。基本的には昼間だけのオペレーションを想定しており、装備、備品に関しても軽装備になっても対応可能で重機などは通常不要です。たとえばコンクリートから人を救助するといった重機器が必要なケースは余りありません。スリムで効率的なチームで、効果的、迅速に対応すべきなのです。想定される事象にあわせて速やかに対応ができる小規模チームも用意していくということなのです。

(US&Rの全国配備状況)
US&Rは28の都市に分散配置されていますが、このチームプログラムに関しては米国を東、西、中央の3つに区分して管理しています。28のチームが3つの区分地区毎に配備され管理されています。同時多発テロが起こって以降は、28の都市以外の自治体にも重点を置くようになっています。
他の都市でもこのようなチームを持ちたいとう声が出始めていますが、FEMAの現在の考えとしては、新しいチームを直ちに設置することは考えていません。今存在している28のチームの強化が先決です。28チームの100%の効率化を図り、資金、訓練、資機材、装備、能力等の面で、28の既存のチームで必要とされるものをまず確保し、余裕が出来る段階で新しいチームをほかの州に設ける可能性を探ろうと考えております。

(体験に基づく教訓、ペンタゴン攻撃対応時の臨機応変)
以上は制度、仕組みの解説でしたが、以降は私自身の経験に基づく教訓をご紹介します。まず、ペンタゴン攻撃対応時の経験に基づくものです。これは私にとって印象深い経験となりました。私はFEMAの前職において、ワシントンDCに隣接するバージニア州フェアファックス・カウンティ消防局勤務でした。ペンタゴンの管轄消防局はお隣のアーリントンでしたが、ペンタゴンが攻撃を受けた際に我々フェアファックス消防は直ちに対応を開始しました。当時、私自身がUS&Rフェアファックス・タスクフォースを担当しており、実は我々のチームがペンタゴンに最初に到着したチームでした。午後1時にペンタゴンに到着いたしました。
我々のこのチームは経験歴が12年から13年ありました。その間我々が経験していた事案は、オクラホマシティー爆弾テロ事件、ナイロビの米国大使館の爆破事件、ノースリッジの地震にしろ、対応は国レベルで行われ、我々のような応援部隊が到着したときは事態は概ね沈静化しているとか、消火が済んでいるケースがほとんどで、我々は直ちに行方不明者の捜索、救助にとりかかれるというような状況でした。
さて、我々は予め定まった戦術、戦略で対応できればよかったのですが、我々はやや早く着きすぎました。そこではまだ消火作業が進行中で、火が消えていませんでした。夜まで消火作業が続いてしまいました。どうやって消火の作業をしている中で犠牲者あるいは被災者を捜索するのか、戦術を変えなければなりませんでした。
そこで、今レビューをしていますが、戦術、戦略を考え直し、消火進行中でも、あるいは大量破壊兵器の攻撃があったときにも対応ができるようにしています。

(現場での活動評価の必要性)
経験に基づく教訓のもう一つは、オクラホマシティー爆破事件やナイロビの米国大使館爆破事件などにおいて、そしてペンタゴンもWTCも同じですが、ICSの概念を現実に適用していくに当たり必要とされるのは、最初の段階において、誰かがまずサイトマネジメント、現場指揮の段階で活動の評価をするということです。
戦略や戦術を検討する際に、そして救命活動を所轄消防が行っている段階において、全体の状況について誰かが評価するのを認めるべきか、介入してもいいかのということを、検討しなければなりません。WTCの対応ではこうしたことを全然考えていませんでした。ペンタゴンの対応も同じです。そして3日目、4日目、5日目になっても、こうした評価に基づく戦術対応がうまくできていなかったために大きな問題を生じることになりました。

(現場で最初にやるべきであったこと、現場の封鎖)
現場において最初にやるべきことは、トラックやクレーンが進入できるようにすること、負傷者の搬出を可能とすること、これを最初の段階で確保していかなければなりません。それによって、初動対応のミッション、活動全体の評価が決まってきます。そこで、まず被災現場の周囲を封鎖しました。WTC、ペンタゴンでも使いましたが、携帯式の鎖によってフェンスを作りました。
必要なことは、それを、事態が生じたとき、直ちにやらなければならないということです。こうした携帯式鎖が最初の2、3時間に用意ができなかったことから、ペンタゴンではそれができませんでした。2日目になってようやく入手できました。これによって周囲の封鎖がようやく可能となったわけです。こうしたことができれば、出入り口を調整し、誰が入っていいか悪いかということを確保でき、大きな効果が生まれます。
このことにより身分証明用のバッチシステムの導入も可能になります。特にテロ攻撃などの大規模被災事案などのときには緊要です。

(専門家のアドバイスの重要性)
もう一つ重要な点は、ペンタゴンやWTC事件の5日目あたりにおいて、またオクラホマシティーの爆破事件においてもそうでしたが、大規模被災事案においては専門家のアドバイスが必要であるということです。
例えば、特にDHSの幹部にも申し上げていることは、専門の科学者に来てもらい正確なアドバイスの提供を求めるということです。たとえば空気の汚染状況はどうか、汚染された空気の中で初期対応要員が活動しているわけですから。またオクラホマ爆破事件では、事件の後2、3日後にさまざまな意見が提示され、どのような防護服を着るのがいいかということについては非常に混乱しました。こうした問題は非常に重要です。
こうしたことはリーダー、幹部が理解しておかなければならないことですが、実は非常に困難なことです。また、建築構造物技術者のチームが入ってくるわけですが、こうした建物の崩壊についてはさまざまな意見がエンジニアの間にはあり、正しい情報に基づいてリーダーは結論を出さなければなりません。時には間違った情報もあります。

(現場の管理を適切に行う必要性)
ペンタゴンへの攻撃の際のオペレーションは、実は最初の4、5時間はうまくいっていませんでした。いろんなの応急対応チームが来てそれぞればらばらにオペレーションを始め、全体調整がうまくいきませんでした。第1日目の午後にはすでにクレーンが設置されていますが、本来はどのようなニーズがあるのか把握してから、クレーンの導入、トラックでの瓦礫の搬出、という段取りをつけるべきなのです。優先順位を決めなければなりません。US&Rのチームは、装備が非常に大きなものです。軍隊の応急対応チーム、契約職員のチームも入ってきました。こうした多様なチームが混在する中では、現場の管理をきちっとやらなければならないという反省がありました。
本来であればペンタゴンにはたいへん大きな駐車場があり、このスペースを活用すれば、より安全にこうしたチームを全体管理することができたわけです。

(予期せぬ状況に対応した弾力的な対応の必要性)
ペンタゴンでは、最初の2日間に予期せぬ事態が起きました。US&Rのチームとしては、通常のシグナルを使って建物からの退避を行いました。こうした退避は、例えば、地震の余震のときなどに行うことがあります。
非常に大きな音を出すエアフォーン、エアゾールを使った信号がありますが、それを使うことによって、直ちに建物から退避しました。建物からの退避に関しては従来これでうまくいっていたわけです。
しかし、初日の2回、そしてまた2日目の2回に誤情報が入り、レーガン国際空港はすべての航空機が止められました。ペンタゴンに航空管制官から飛行機が侵入してきているという情報が入ってきたわけですが、その当時、それがテロの飛行攻撃機かどうかということはよくわかりませんでした。ですから、適正な退避のあり方としては、建物からの退避だけではなく現場からの退避も求められたはずでした。こうした問題が生じたために、これまでの手続きを変えなければならなくなりました。

(テロリストの思惑にはまらないように)
反省点がもう一つあります。ペンタゴンの被災場所では2000人以上の者が作業をしていました。北駐車場に設置された現場事務所に作業状況を報告することになっていました。2日目の午後も、同じところに報告することこととしていましたが、冷静に考えれば、テロの脅威の下にあって間違ったシグナルが発令される中で、毎回同じところを避難場所にしていたのでは、テロリストとして裏をかく気持ちがあればうその警報を出させることによって、予め避難場所に爆発物を設置し、集まった人々を狙う可能性があるということに初めて気がつきました。
避難場所も毎回変える対応により、テロリストの思惑を乗り越えなければいけなかった、ということを教訓といたしました。こうした事態に関しては未だ経験したことがなかったことでもあり、ともかく様々なことを考えなければいけないという多くの教訓を得た次第です。

(結語)
以上の話を簡単にまとめたいと思います。米国が再編し、連邦資産、資源を有効に展開しようとしている組織は、22の政府機関から集めた17万人を擁する新しい組織、でありますが、実はこれだけではなく、州、市町村もまとめようとしているのです。全米の各レベルにおいて再編、高度化を図り、関係部門との連携を強化し、統合の実をあげなければなりません。とにかく連携が重要なのです。
さらに必要な国の資金を適正に配分していかなければなりません。相当の連邦資金が議会の承認を得てすでに確保されております。研修、訓練、認証、資格の付与は非常に問題であり、それを適正に保つために演習訓練、評価も重要になってくるのです。


<ビデオ上映を交えての現場体験解説>
(空撮の重要性)
・ ビデオカメラを持ってペンタゴン、WTCに出動しました。私自身が撮影しましたがこれはいわば広報のためでした。ビデオを見ると、現場の課題が一目瞭然になります。ペンタゴンの現場に来たときに、建物の下、壁の下に立っていると全体像がわかりません。ペンタゴンは大きすぎてわからないのです。そこで私はフェアファックス郡から警察ヘリを呼びました。ヘリコプターは空から全体像を教えてくれました。被害の発生の全体像がヘリコプターの空撮で分かりました。空撮は全体像把握という意味で極めて重要です。
(ペンタゴンでは瓦礫処理、建物を支柱で支持)
・ ペンタゴンで旅客機は地面あたりに突撃し、ペンタゴンの32の重要構造部分が影響を受けました。初動時期の構造内部の瓦礫の状態はひどく、まず瓦礫を取り出さないと、その建物を支えることができませんでした。
・ ペンタゴンの被災建物は1階の柱部分が損壊したことにより当初の作業がたいへんでした。間もなく倒壊するのではないかという危険な状態だったことから、先ず外側から中に入れる状態にすることが目標となりました。そのため瓦礫を取り除くだけでも大変な作業でした。それを完了しないとと、中に入ることさえできません。これはただひたすら労働作業でした。ボックス・クリーブという機械を使って建物の支持基盤を確保しました。
(ペンタゴンでのUS&R)
・ ペンタゴンでは、US&Rは、最初の7日間は5人体制で捜索、救助を行いました。軍からの支援も得ました。相当の重労働が続きました。掘削に関しては大規模なスペースが必要で、材木などの投入が必要になりました。5マイル以上の長さの木材で建物を支持をしないと倒壊の恐れがある事態がありました。
・ US&Rのメンバーの中には金属工学の知識のあるメンバーもいました。この人物は、瓦礫用のバケツの工夫を行いました。ペンタゴンのホールは狭いことから、ボッブ・キャッグ、これはカートのようなものですが、小型の装置を使って瓦礫を入れたバケツを引っ張ることができるようにするのです。消防士がそのバケツに瓦礫を入れて、ダンプに載せて移動するということで、ちょっとした小型装置が必要でした。災害現場では、現場で考えて臨機に対応するという事態が出てくるものです。
(機械力)
・ 構造工学の専門家が集まり建物を解体の手法を検討していました。構造工学の専門家が、マークを付けて、そのマークがある基準点からずれていっているかどうか、壊れつつあるのかどうか、確認していました。ボックス・クリーブという機械は、建造物の支持のためにこの柱の周りの位置にこの箱を置いて建物が倒れないようにするものです。解体器具としては粉砕装置、パルベライザーがあり、安全に解体するための機械です。消防士が実際に上がっていってこまごまと壊すのではなく、この機械を使って破壊します。75フィート届く装置です。これはすばらしい機械で、オクラホマシティーでもこれがあれば安全に建物の解体ができたはずです。
・ グラッパーという機械で瓦礫をつかんでダンプに移動しました。実は構造工学の人から聞いてそういうものがあるということがわかり、民間会社が保有しているものを借りました。民間との協力関係もうまくいきました。
(ブリーフィングの重要性)
・ 全タスクフォースが少なくとも1日2回はブリーフィングを受けておりました。その結果わかったことですが、このブリーフィングが非常に重要だということです。全員で最新情報を共有・把握しておくことが重要です。でないと、全員が、一人一人安全にで効率的な形で作業をすることができません。
(WTCの地下火災と現場の混乱)
・ WTCでは地下で火災が起こり鎮火に1か月以上かかりました。常に放水していないといけなかったので、最初の3週間は水を出しっぱなしでした。地下火災の状況下での捜索、救助は非常に大変でした。多くの外部の委託業者や初動体制に対応しなければいけない人が混在していることから、最初から効果的な作業ができませんでした。一度混乱が起こってしまってから人をまとめていくのは大変なことでした。
(WTCの予期しない火災)
・ WTCでは2つの高い建物最も大きな被害を起こしましたが、WTCには9つの建物があり、一部の建物は7階、8階建の小さな建物ですが、そこでも火が発生しました。別の大きな建物からも火災が発生しました。このことは、つまり2つの大きな倒壊した建物への対処の際に、至近の建物で火災が発生した、ということです。そういう事態になるまでそのことは想定しておりませんでした。
・ 建物の解体に当たっては、たとえば配管を担当している組合、鉄鋼部門の組合といったところの協力をいただいて対応しました。
(エリアの分割で対応)
・ WTCの地域に関しては、何エーカーもある大規模なサイトのため、5の地域に分割をして、それぞれ個別に対応することになりました。
(ニューヨーク消防幹部の死亡による意思疎通の欠如)
・ WTCでのUS&Rの活動で生じた問題の一つに、ニューヨーク消防本部の幹部のかなりが死亡したということがありました。捜索、救助の仕組みを最も理解していた人達が亡くなってしまったのです。若手が残ったのですが、彼等はUS&Rというプログラムの仕組みをきちんと理解していませんでした。そのために、最初の数日間はUS&Rのチームを使ってくれませんでした。US&Rの捜索、救助の趣旨をわかってくれるまで、また、上の方達で生き残った人達がいるが使ってくれないというたいへん深い悩みがありました。
(後方支援)
・ WTCの後方支援は大規模でした。捜索、救助チームの活動支援のための、食料、装置、備品等大規模な後方支援の必要がありました。
(瓦礫の山のチェック)
・ FBIが作った瓦礫ラインがありました。「証拠捜し」のため、順番にたらい回しのようにしていくのですが、瓦礫の山一つ一つのチェックは大変な作業でした。

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