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August 23, 2005

中央集権国家フランスの地方分権化への舵の切替

フランスは中央集権国家の典型的な国として有名ですが、最近、憲法改正まで行い、急激に地方分権への舵を切っているようです。

8月23日に笹川日仏財団で、フランス憲法研究の第一人者であるエックス-マルセイユ第3大学政治学院教授アンドレ・ルー教授のお話を伺う機会がありました。以下未定稿ながらその概要です。私も最後に、フランスの分権改革に、関係省庁の反対はなかったのかと質問をしました。教授の答えは、「日本と同じ状況」だという話でした。少なくともこの点に関しては、ユニバーサルでした。

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フランス地方分権の今@憲法改正の論点 by アンドレ・ルー教授

司会
・ 中央集権国家のフランスが大規模な分権改革を進めている現状を紹介する。

大津東海大学教授
・ ルー教授は1953年生まれ。南仏のエックスマルセイユ第3大学政治学院教授。ルイ・ファブル教授がルー教授の指導教官。エックス学派の憲法学者が憲法を法律学として進化させた。ファブル教授は昨年死去。ルー教授がその後を継いで憲法裁判研究所の所長に就任。地方自治に関する憲法原理のパイオニア。10年前に「自治体憲法」という本を出版。地方分権の可能性と限界について分析をした本。
・ 2003年のフランスの憲法改正で地方自治拡充。その視点をルー教授の目から解説。フランスの経験と抱える問題点を紹介。
・ 地方自治拡充に関して憲法改正がどのような意味があるのか、本日深めていきたい。

ルー教授
(2003年の分権的憲法改正)
・ 15年ぶりの日本訪問。
・ 1980年代からの改革。ミッテラン時代から始まった。今はシラク大統領の下で進められている。
・ 分権改革が20年以上行われているが、フランスの近代化にとって重要な課題。2002年の大統領選挙の時も中心的なテーマ。
・ かつて地方分権は左翼と保守の対立軸。左翼が中央集権、保守が分権という対立軸。60年代になり左翼が宗旨替え。地方言語の容認などを行っていった。民主主義は国としての統一性から多様性に基づくものに。
・ 保守中道は、昔から地方分権推進。ドゴール派はかつては地方分権に消極的。しかし、分権を目指しドゴール自身が州に関する国民投票に訴えた。しかしこの時には失敗。
・ 2002年に政府(当時のシラク+ラファラン保守政権)の最重要課題として分権改革がまとめられた。論点は、地域民主主義、国としての統一性、国と州の新たな関係、国としての統一性を保ちながら地方に権限を、という点。
・ 2003年に憲法改正。組織法(統治構造に関する基本法。複数の法律)の改正。地方分権の数々の法律改正。
・ この程度の改正では地方分権が不十分だという批判はあったが、国としての統一性確保に懸念を持っていた人はむしろ安心した。
・ 国と地方の関係をどう考えるかということが地方分権改革の本質問題。国というものをどう捉えるのかという問題。一方で現実問題としては歴史と制度の産物が地方分権。
・ 以前のフランスの地方分権がどのようなものであったかを見る必要がある。

(フランス革命以降の200年に及ぶ分権改革)
・ 1982-3年の分権改革は地方自治体の自由な行政運営がメインテーマ。しかし、82年は初めての分権改革ではない。200年にわたり次第に形成された動き。
・ フランス大革命。基礎自治体(コミューン)がこの時に出来た。革命で地元で事務執行が自由の表現だとみなされた。1789年時点で4万の市町村。今は3万6千。その上に県。県は国の側からの行政の枠組みとして作られた。
・ ナポレオンの時代に中央集権組織が作られた。
・ 第三共和制の動き。1884年の市町村法。共和派と反共和派が対立。共和派が市町村を取り込む必要。
・ 1946年の憲法で、地方自治体の自由な行政運営の原則が明記。
・ 1982年の左翼陣営の地方分権の方向性。州が法律上(コミューンや県とは異なり憲法ではなく)地方自治体として位置づけられる。権限の移譲。都市計画、社会福祉、教育に関して大幅な権限移譲。経済施策、文化施策に関しての自由度。地方自治体はその可能性を十分に活用。
・ 1980年代-90年代の改革でフランスの自治体が活動の様相を変える。一方で、国は法律予算上の装置で国としての立場は保持。地方自治体は産業分野ごとの独自の施策展開。
・ 一方で官治分権(デサントラリザシオン)の動きも。地方長官(プレフェ=昔の日本と同じ官選知事)の権限強化。国の地方出先機関の権限強化。国との契約関係強化。垂直の関係の強化。具体例は国と州の計画契約で、これは有効に機能。
・ 90年代はフランス自治体は一般に思われているよりも遙かに大きな自由度確保。
・ にもかかわらずフランスの行政手法には批判がある。全国画一手法への批判、地域のアイデンティティー主張の動き。
・ フランスには36000の多くの市町村。規模の差異にも拘わらず同じ権限を持っている。50人の市町村がある。それが同じに扱われている。パリとリヨンとマルセイユは特別の地位があるが大きな違いはない。
・ 特別法が沢山作られている。これは一律ではないとの批判。自治体レベルで実験を行えるようにすべきだとの要求。
・ 海外領土、コルシカ島からはアイデンティティーの主張。特殊性を認めるべきとの主張。
・ 地域的特殊性を実現していくことは憲法と折り合いがつかず、その主張を考慮した制度を一般化するというやりかたをとった。全ての州に自由度を与えて行く手法。
・ 国家の捉え方が変わってきている。国は国でなければ出来ない本質的な機能に特化し、地方自治体に活動の新しい余地を作っていく。これが2002年の大統領選挙の争点。この考え方が2003年の地方分権改革の背景にある。
・ シラク大統領候補が、新しい国のビジョンを主張。「新しい権力の構造」という言葉を使った。
・ フランス革命以降中央集権の傾向。しかし連邦主義は自由・平等の理念に反する。第三の道があると主張。

(「新しい権力の構造」ー地方分権の憲法改正)
・ 具体的な新しい権力構造の実現について。
・ 新しい権力構造。憲法改正により導入された主要4点。他に海外領土(旧植民地のうちで現在もフランス領である地域が、太平洋やカリブ海にある)の問題があるが、これは日本にとってはエキゾチックな問題。改正後の憲法上では条文の量は多い。
・ ①法律上制度上の多様性を自治体に認める。全国一律なやり方と袂を分かつ。手段が二つ。一つは地方自治体の規範の実験、つまり全国一律のルールからの例外を試みる実験。72条4項で実験的に逸脱を認められる。憲法上の本質的な問題は駄目。実験の結果の恒久化は駄目。最終的には、実験の結果を放棄するか全ての自治体への適用かいずれかの帰結が認められる。二つ目の手段は、地方自治体が特別な地位を獲得すること。72条2項。選挙民への諮問を条件に特別の権限を持った地方自治体の設立。海外領土は更に多様な地位が認められる。
・ 現実にコルシカや海外領土で地元の選挙民の同意を取ろうとしたところは否決されている。住民に不安があり否決。
・ ②国が地方行政から徐々に手を引くという側面。しかしこれは微妙な問題もある。小さな政府に向かって、72条2項がある。地方自治体があらゆる部門に関し意志決定を行うことを原則とする。補完性の原則を謳っている。補完性の原則と対立するのは官治分権の概念。ある特定の措置を実施するのに県、州で実施するのがよい時は、県、州が行うべきで、県の長官=国の出先機関たるプレフェである国家が権限を行使すべきではないということ。2004年に地方の責任に関する法律。州の権限強化。経済振興、職業教育、EU補助金。州の占めるべき地位。州への分権を積極的に目指したが、一部しか実現していない。州も県、市町村に加え憲法上の地位を保障された。
・ ③州が憲法上位置づけられたからと言っても既に20年も法律上では地方自治体だったのだからそれほど大きな意味は持たない。いずれにしても、「法律により自治体は創設される」と憲法で書かれているから。州も法律の改正で見直される可能性があるということ。
・ 2004年の権限移譲でも特に州が優遇されているわけではない。県が権限を沢山配分されたという面だけを見れば大きな恩恵を受ける。
・ しかし、現実的には州は大きな役割を与えられている。EUにおいて州が果たす役割が認められた。むしろそれは法律により認められた。EUの様々なプロジェクト管理、地域政策などの補助金配分。これまでは地方長官が行っていたものを州が行うようになった。投資補助金を州が管理。州の「地方長官」(州レベルの国家代表。国の総合出先)の権限が狭められる一方で、地方自治体の州がEUレベルの政策実現に関われるようになった。
・ ④はローカルな地方自治体においての直接民主主義的な制度の導入。72条1項で、請願により、あることを議題とすべき提案が出来る制度改正。従来の諮問的な性格のものに加え、「決定」できる住民投票の制度導入。特別な地位を持つ場合に住民投票に委ねる。地方自治体における代表制民主主義の役割を減じ直接民主主義の役割を増やす、ということ。住民の要求で直ちに住民投票を行う制度は導入されていない。住民から要請があった場合にも、議会で、実施について議決することに限られる。

(過去との連続性)
・ 過去との連続性3点。①自由な行政運営の原則が認められていたが憲法に明記。72条。行政命令権の行使が認知。2002年にコルシカ島に関し憲法裁判所が判断した文言をそのまま憲法の条文で使った。
・ 特定の地方自治体が他の地方自治体に後見監督を行うことを禁止。法的には自治体は平等との原則。ただし72条5項で「共同行動の準備」は認められている。一つの団体がリーダー的役割を果たすことは認められている。2004年の法律では、地域の経済振興に関しては州がそのリーダー的な役割を果たすことが認められている。

(県の強化の一方で財政負担の増加)
・ ②県の強化と市町村の広域行政。県という行政区域に関しては批判がある。「区域が狭い」、「枠組みが古い」、などの批判。その県が実際には強化されている。権限移譲において最も「得」(権限が増えた)をしたのは県。そのような権限の行使には資金的な裏付けが必要であり、県によっては予算上の問題が生じている。「社会同化最低保障」のサービスに関してこれまでも権限があったが、2003年の法律で、サービス給付の完全な管理運営が移管。これは県にとってかなりの負担。国道の管理運営もかなりの部分が移された。学校の管理運営職員が県に移された(先生はいまだに国家公務員。保守政権が地方公務員化の提案をするもボツ)。国道管理には県議会議長が懸念を表明している。「社会同化最低保障」の給付金に関しては、「他の施策の予算が押しつぶされる」との批判が噴出。失業手当が出なくなった失業者に給付されるもの。給付対象者が増えている。全国で121万6千人もいる。2004年、対前年8%の増。県レベルで予算が赤字。4.33億ユーロの赤字。今後給付対象者の絞り込みが懸念されている。
・ 83、86年の権限移譲の延長線上の改革。82年の法律改正で、今回の権限移譲が予告されていた。

(財政自主権を憲法で保障)
・ ③財政自主権の憲法保障。2003年の憲法改正に至るまでは、財政上の裏付けは法律による基本的な原則にすぎず。72条2項では、法律の定めるところにより自主権があるという定め方。意味のあるものは3項。地方自治体の税収などの固有財源は、自治体の財源全体の決定的部分を占めるものとする、との規定。これに先立つ15年―20年ほど前から、自主財源を減らして交付金振り替えという傾向があった。15年前は州は70%が固有財源で賄っていたが、現在は40%に過ぎない。地方議員は、国からの交付金や補助金によっては真に自由な行政運営は出来ないと主張。地方税という形で財源確保が出来れば自由な財政運営が可能。この憲法の条文により、税源拡充に向かう。交付金補助金は増えない。
・ 憲法改正を受けて制定された財政組織法により、地方自治体の固有財源の占めるレベルは2004年のレベルを下回ってはならないとの規定。ただし、住民から見ると地方税で賄うのと交付金が良いのかは一概には言えず。フランスでは地方税の負担格差が大きい。
・ 2003年の分権改革は可能性を広げるもの。しかし、新しい権力構造がどのようになるかは、政治家の活用如何に関わっている。憲法院の判断も関係する。自治体行政の基本的システムは維持されている。長期的には、地方自治体が政治的行政的に大きな役割を持つに至る。国は地方の問題から手を引いていくことに。

(地方分権化への評価)
・ 地方分権改革に反対する人はいないが、皆が同じ意味でこれを捉えていない。余りに国が地方から手を引くとなり、地域主義にまで行くとなると、否という反応がある。
・ 国と地方の権限配分のバランスを取ろうとするアプローチ。分権改革は自然に発展する連続するプロセスではないが、国全体としての公的システムをよりよく機能させるために必要な改革。国にとって必要なこと。
・ EU統合が進んでおり、その動向が今後の分権に関わる。EUは州というものを前提に施策展開。国営・公営企業による独占が崩れ市場開放。国の役割が減じている。
・ 地方自治体同志の競争が促進されている。これらによりフランスの国と地方の関係が規定されていく。

大津教授
・ フランス憲法は平等を重んじる。そのための国家の役割は重要とのフランスの考え。国家の統一性を守るためには立法権を国家が独占することが必要だという伝統的な考え方。構造改革特区のような動きも、フランスでは認められてこなかったが、憲法改正で認められるようになった。
・ フランスでは連邦制に至らない地方分権を目指している。
・ 地方の独自性を認めることに反発もある。2004年の州と県の議員選挙では野党議員が多くを占めた。これは地方分権化が地域間の不平等拡大の懸念があったのではないか。(筆者註:この大津教授の分析に対しては、聴講のフランス駐在関係者数人から異論の声も。2004年の選挙の争点は、分権問題ではなく、年金改革、労働時間延長などをすすめる保守系ラファラン政権への批判票が保守派を大敗させたとのマスコミ論調ではなかったかとの感想の声があった。)
・ 地域間の平等と自由度の拡大の確執がフランスには常に存在する。

聴衆からの質問
・ リージョナリズムがフランスにはあるのではないか。地域格差が拡大するが是正の方策は何か。EUの進化に地方は反発があるのではないか。

ルー教授
(リージョナリズム) 
・ 国と地方の関係は、日・米よりも日・仏は似ている。連邦主義はフランスにはない。フランス革命時に数ヶ月間主張されたが、その主張者はギロチンにかけられた。
・ 地域主義は存在するが、地域的アイデンティティーの主張で一部の地域に限られる。カリブ海のマルチニックでは独立の主張もある。コルシカ島の問題。アルザス、ブルターニュ、バスク地方での動き。
・ フランス共和国は常に地域的アイデンティティーの要求を退ける動き。地域言語に否定的。20世紀初めにはブルターニュのブルトン語が禁止されていた。小学校の貼り紙に、「つばをはいてはいけない。ブルトン語を話してはいけない」と。政治的動きと言うよりは文化的な要求。
・ 州の行政区割りは人工的な要素がある。

(財政調整制度)
・ 公的投資の2/3は自治体により行われている。相当部分は地方債により賄われている。経済格差があり、それを是正するために、貧しい自治体に補助金を出す制度がある。EUによる補助金には批判はない。住民はEUから補助金を得ているという意識もない。
・ 地方財政調整制度もある。
・ 自治体自身での格差是正の工夫もある。広域行政組織で協力関係を作っているがこれが事実上その機能を果たしている。

聴衆からの質問
・ フランスの地方自治のレベルは。右派も左派も賛非があると思うが、欧州統合と分権論者の関係は。今後の分権の分野は。

ルー教授
(フランスの地方分権度)
・ 西欧、中東欧でも分権の流れ。欧州地方自治憲章が採択されている。しかし、フランスがその憲章を批准していない。
・ 現在の状況では批准可能。もはや障害はない。ランク付けをするならば上の方になっている。
・ 分権化の進展度合いのランク付けは、評価基準による。フランスはイタリアよりは財源付与が大きい。しかしイタリアでも分権化のための憲法改正。行政的な連邦主義に向かっているとの見方も。

(欧州統合と分権)
・ 欧州統合派と分権派は相関関係あり。右翼は分権化に反対。極右政党のルペン党首や左派でもシュベーヌマン元内務大臣のような「国家」主義者は、国の立場が弱まることを懸念。「国家信仰」がある。国がEUと自治体の双方から挟撃されているという感覚もある。
・ 今後の動きは予想できないが、数年間は地方分権運動は休憩に入りそう。現在の分権改革は県州議員が批判的。財政上の負担に関する懸念。国は地方分権の名の下に負担の押しつけをしているとの見方。
・ 地方分権化により得をするはずの立場の人から批判が出ている。今後の動きは、広域行政組織の発展ではないか。中期的に、広域行政組織に議会を作りそれを直接選挙で選ぶという動きではないか。

聴衆からの質問
・ 兼職制度についてどう考えるか。

ルー教授
(首長と政治家の兼務の是非)
・ ミッテランもシラクも大統領になる前は確かに首長兼務。大統領になってからは兼務せず。これはフランスの伝統。
・ これが地方分権にとって良い伝統だという答えが帰って来る。むしろ必要だという答え。シナジー効果があるという認識。ローカルな足場があってこそ政治的基盤が強化される、という意見が兼務政治家には多い。
・ しかし、私の意見は異なる。新の地方分権改革のためには完全分離が必要。イギリスでは兼務などは到底想像できない話。

大津教授
・ 地方議員から上院議員が選ばれるということで中央集権でありながら地方分権に配意しているフランスの秘密があった。しかしそれは許されないと言うのが先生の意見。

聴衆からの質問
・ 欧州自治憲章がフランスで批准されない理由は。改正前の憲法法でも特に批准の障害となる点は無かったはずだが。また、今回の地方分権に国の役所の反対はなかったか?

ルー教授
(自治憲章批准の見込み)
・ 憲法改正をしなくても自治憲章批准は可能。批准されないのは政治的理由。
・ 国を超えた組織に国の制度の在り方を指図をされることに反発がある。憲章批准は象徴的なものにすぎないのだが。ただし、いずれ批准されることになると思う。

(国の各省庁の立場)
・ 内務省は分権改革賛成。各地で討論会し成功を収めた。国民教育省、財務省は賛成ではなかった。
・ プレフェが率いる国の出先に権限を移すことにすら中央省庁は消極的。

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