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June 19, 2005

神野直彦教授の義務教育財政論

6月18日に白金の都ホテルで中央教育審議会がありました。土・日に亘っての合宿討議です。審議会の冒頭、神野直彦東大経済学部長より、地方財政論の立場から義務教育費国庫負担金の地方税源移譲に関する所見の表明がありました。

地方財政に関する歴史的国際的な視座に立った、大局的観点からの講義が行われ、私の目から見ると、中教審の委員の方々にも大きな視座を持って頂ける機会になったようにも思われました。

欧州自治憲章などで地方分権の潮流があるということ、その中で権限と財源を出来るだけ住民に近い自治体に委ねること、義務教育費国庫負担金の廃止とそれに見合う税源移譲もそれに沿ったものであること、財政力の乏しいところには財政調整制度としての交付税制度が適切に機能すべきであり、それを維持することは国家の責任であり、それを放棄するような議論は暴論であること、一般歳出の縛りの中にある国庫補助負担金は地方の財源以上に厳しい査定に曝される可能性が高いこと、といった点について、視座の高いお話を伺えました。

質疑も的確で、いつもながら先生から発せられるオーラに益々尊敬の念を深めたところです。

神野教授の講義の内容と委員とのやりとりは概ね以下のようなものでした。


<講演概要>
・ 最初にお断りしたい。スウェーデンの引用が多いが、スウェーデンが財政学の理論どおりの制度設計をしているから。
・ 三位一体改革では全体像を見失わないことが肝要。政府間関係を地方分権型に変えることが求められている。財政を身近な政府である地方自治体に委ねることが大きなテーマ。
・ 世界の流れはグローバル化と当時にローカル化が進んでいる。グローカライゼーションという言葉に代表される動き。「地方分権無くして統合無し」、が欧州統合の合い言葉。
・ 国民国家はこれまで現金給付によるセイフティーネットを張っていた。経済化のグローバル化によりこのネットが機能しなくなった。そこでサービス給付でネットを張り替えること。教育、医療、福祉を充実することで次の知識集約社会のインフラストラクチャーを構築する。その主役は地方自治体なのだ。そこに権限と財源を委ねる流れが始まっている。
・ ケインズ的な社会からシュンペーター的な社会に。国民にリカレントな形で教育を施すことでトランポリンのように元に戻してやる。
・ そのための財政制度はどうあるべきか。財政調整制度が重要。第一次大戦の落とし子。1920年代にワイマール共和国で導入。ポービッツの財政調整制度の提案。
・ 垂直的財政調整と水平的財政調整がある。国と地方の財政調整が垂直的調整。地方間の調整が水平的調整。
・ 行政任務を地方政府に与えると財政需要が生じる。他方、地方には課税力も与えられるが、財政力格差が生じる。これを調整するのに水平的な財政調整と垂直的な財政調整がある。交付税は垂直的調整制度。
・ 多くの行政任務を自治体が執行しているが決定を国がやっているのでは分権的とは言えない。行政任務と課税権が乖離していることも分権的とは言えない。これが日本の二つの非対称と言われていたもの。
・ これを正すために機関委任事務の廃止と税源移譲が車の両輪になるべき。機関委任事務の廃止は実現した。残ったものが税源移譲。税源移譲は基幹税によることが必要。
・ 1980年代からの分権への運動。85年の欧州地方自治憲章。これを模範にしたのがスウェーデン。憲章の4条は補完性の原理。9条は財源。財源保障も規定されている。再分配への意見具申権。限りなく特定目的にしてはならないとも。
・ これを受けて、国連が世界自治憲章の動き。中国、アメリカの反対で未実現。補完性の理論。9条では垂直的、水平的な調整の必要性を規定。
・ シャウプ勧告を今日的観点で見るべき。補完性の理論を明確に指摘している。補助金の弊害を指摘。国と地方の利害の割合を決められないのに決めている。国と地方の二重責任に基づいた一部補助金の廃止を提言。税源を地方に委ねることを主張し、併せて平衡交付金による補填を提言。平衡交付金に依存しすぎないためには地方独立税の充実が必要と提言。義務教育費国庫負担廃止を提言したシャウプ勧告の意味を踏まえるべき。
・ スウェーデンは教育財源を一般財源化。その結果教育支出が増えている。
・ ドロシー・ロー・ノルトの「子供の詩」の紹介で発表を終了。

<質疑>
A委員
・ スウェーデンの教育に共感するが、教育の無償制を前提にリカレント社会を実現していること。
・ 1991年、93年の改革を強調し、GDPに占める教育費の割合が増えていると指摘しているが、それが理由なのか疑問。地方に移譲したから教育費が増えたのではなく、それ以前から高かったのだと理解している。その点を確認したい。一般財源化による教育費の増額については、91年の5.1%から05年には減っている。
・ 20兆円ある中で義務教育費国庫負担を優先している理由は。
・ 教員の給与負担が一般財源化されても地方の自由度が高まるのか。
・ 欧州の自治憲章の話を紹介しているが、イギリスでは国庫負担金化が行われている。その点の認識。
・ 当時の政友会の主張は教員給与は全額国庫負担金化だった。

神野教授
・ 全社会がいつでも何処でも学べる社会になっている。個々のことをあげつらうのではなく、社会全体で学びの社会を作ろうという社会運動が90年代に起きていることに注目すべき。
・ スウェーデンは財政再建の苦しみの中でこのことをやった。93年に財政破綻を経験した中での経緯を踏まえるべきだ。
・ 全ての補助金を対象にすべき。先ず義務教育費国庫負担を、というのは、それが主な仕事だから。司馬遷の先ず隗より始めよ、という話の喩えもあり、義務教育費までやったのだから他も追随することになる。
・ 使い勝手の良い補助金化の議論があるが、その理屈と全く同じ理屈で一般財源化の理屈になる。一般財源化でいろんな知恵が出て来る。
・ サッチャー以来、イギリスの流れは一般的な欧州の流れと異なる。
・ 政友、憲政の論争は金解禁など様々な歴史的制約条件の中で闘わせた。政友会と憲政会の双方の政策手段が実現できなかったのは、大恐慌。それと当時は財政調整制度があるということが知られていなかった。財政調整度という選択肢がなかった。
・ 地租と営業税は中産階級への課税であった。戦争中に源泉徴収制度で所得税。戸数割という地方税。戸数割りを所得税に編入してそれを財源に配付税制度が出来た。

B委員
・ スウェーデンの基礎的自治体の位置づけ。
・ 市町村で教育の質が保たれるか。

神野直彦教授
・ 高福祉高負担であるがサービスが所得制限無し。ユニバーサルサービス。協同消費をする社会。
・ スウェーデンでは市町村は教育と福祉しかやらない。医療は県。仕事を根っこから割り振っている。
・ 質の問題は、盆栽型教育ではない。栽培型教育。伸びたいようにのばす教育。エデュース、つまり「引き出す」のが教育=エジュケーション。

C委員
・ シャウプ勧告の位置づけはどういう評価なのか。
・ 吉田茂は皮肉を込めて批判していた。何故シャウプ勧告が破綻したのか。

神野直彦教授
・ 戦後改革の中での民主化のなかで、ニューディーラーの中に財政の専門家がいなかった中で財政政策が失敗。マッカーサーはドッジを呼んできてデフレ政策。一方でニューディーラーが期待していたシャウプを連れてきた。ドッジはシャウプに任せた。後のノーベル賞受賞者ビックリーもいた。
・ 税の世界では評価できる。義務教育費国家負担金は、政治的な問題で失敗。当時は組合に対する問題を含めて複雑な問題があった。

D委員
・ 義務教育費ですらやるのだから、という話に関して、義務教育をどうするかという議論が必要だ。

神野直彦教授
・ 費用負担の仕方は一般財源化でいい。目指す目的地を明確にして、道順は複数あり得るもの。しかも地方自治体が多くの議論をして提案したもの。それを進めることが重要。

E委員
・ 国家の役割をどう見るのか。グローバルとローカルの二極化のなかでどういう機能を持つのか。今の憲法との関係は。
・ スウェーデンの自由裁量の例、成功例として学校図書館の一般開放をあげたが、学校管理の安全性が難しい中でそういうことが可能か。
・ 以前、地方交付税の法定税率の枠内で交付税の総額を納めるという意見があったと記憶しているが、どういう趣旨か。

神野直彦教授
・ グローバル化してきた時に、次のシステムがどのように出来上がるのか。都市国家のような小さな単位が出来上がりそれを国民国家が緩やかに束ねるといったイメージではないか。
・ それとの関係で、財政の方では補完性の原理と同時に最低限の保障が必要。
・ 教育といえども総合行政ができるようになるということ。環境教育も環境だけでは貫徹できない。
・ 交付税の法定税率は引き上げるべき状態にあるはず。
・ 国の歳出は一般歳出と交付税と国債。交付税はルールで決まるべきものなのに、一般歳出と同じように切っている。

F委員
・ 日本の教育は学校での自由度が非常に少ない。人事の問題もあるが財政的な問題が多い。
・ 日本の教育が現場で生き生きすることを考えなければならない。
・ 自治憲章はロマンがあると思う。負担金の使い勝手についてはどうか。20年代各県の教育費の格差が過去出た。
・ スウェーデンは教育費支出が下がったのではないか。イギリスは増やしている。

神野直彦先生
・ 様々な補助金とセットで交付税で賄われていることが問題。
・ 20年代の格差の拡大は、当時の地方財政が疲弊していたこと。今は状況が違う。

G委員
・ 分権無くして統合無しという話だが、憲章の性格論を伺いたい。EU内での批准状況もまちまちだと聞いている。批准したイギリスは100%国庫負担という現状がある。憲章の元でも裁量度があるのではないか。
・ 世界自治憲章の動きも伺いたい。
・ 人権費負担について、市町村への移管論があるが、人事権との関係をどう考えるか。

神野直彦教授
・ 憲章は、解釈の余地はあろうが、目指すべき目標として掲げている。フランスも憲法改正までして第一章で分権をやるといっている。既に申し上げたが、世界自治憲章はまだ実現していない。
・ 人事権は、スウェーデンでは住民が持っている。つまり、子供の特性に応じて適切な教員が配置される。人事権も出来るだけ身近なところに委ねて良い。

H委員
・ 一般財源化の中での工夫ができるということだが、ブロック化を徹底した場合にまだ残る問題は、制度的なものなのか、財政的なものなのか。
・ 国よりも県によるコントロールが厳しいという話を聞く。

神野直彦教授
・ 国が県を通して言う問題と県そのものがものを言う場合の二つがあるだろう。

I委員
・ 世界の動き、歴史の動きがよく分かった。
・ 交付税の制度が安定的に機能するかを委員が気にしている。その点についての見解を。
・ 国の国庫負担金も切り込まれつつある。国と地方のどちらの財政が今後厳しいかということか。
・ 出来上がった地方提案に優先順位はない。

神野直彦教授
・ 今の制度の中では一般歳出は減らされる流れ。その枠組みが撤廃された時にどういう枠組みが出来るか。今の憲法論議を見ていると、地方自治の章に補完性の議論、最低保障の規定が組み込まれる見込み。そうなると、地方税と財政調整制度がより安定的。

J委員
・ 国家の在り方を議論する際に、日本の国が教育に金を使っていないことが問題。
・ スウェーデンでは100年前にエレン・ケイが「児童の世紀」を提唱したが、その後の動きは逆の動き。働く母親が増え社会の母性化が進んだ。この面では地域社会ではなく、国が役割を果たすべきなのではないか。

神野直彦教授
・ 今のまま集権したほうが金が沢山出るという理屈が分からない。日本の国民は教育に金を払う意識が高い。だから教育の分権が有効。
・ 女性が働きに出ることで子供と母親の繋がりが弱くなることはない。

K委員
・ グローバル化の時代に国の役割が分かりにくい。
・ 自治憲章が日本に適用できるのか。

神野直彦教授
・ 補完性の原理で出来ないことを国がやる。最終責任は国が担うのだが、サービス給付は無理。国はスタッフとして機能すべき。
・ 欧州の真似をしろといっているわけではなく、そういう動きがあるということ。スウェーデンの実例は実験的なものとして参考になる。重要な問題は、民主主義の過程の中で多くの国民が参加意識を持つということ。

L委員
・ 地方分権の方向性は良い。一般財源化で質の担保が保てないという懸念があるということ。公務員の賃金水準が連合の中でも議論されている。負担金の中で数と質を支えようという思想がある。実際には給与カットされている場合もある。
・ 生徒一人当たりにかける教育費で見るとどうかということについての意見は。
・ 民間準拠の給与体系が公務員。それで資質が確保されている。スウェーデンでは教職員給与の水準は?

神野直彦教授
・ スウェーデンは子供一人当たりで単価を出している。しかもコスト差を保障している。学校は子供からバウチャーを貰うと市町村から金が出るという仕組み。
・ 総合的に考えるとスウェーデン教育は充実していると認識。
・ 給与は職種別組合。同一労働同一給料。民間であろうが公務であろうが勤める先での差はない。

M委員
・ 都道府県の制約が大きいとの話があったが、国庫負担制度というよりも教育の制度運用。
・ 義務教育を他の行政と同じレベルで議論して良いのかという感じはある。義務教育が確実に実施が確保されるという担保が必要。負担金が一般財源化で水準が下がるとは言えないが、危惧はある。危惧が現実問題となったら誰が責任がとるのか。
・ 義務教育の事業の重要性と一般財源化の関係。

神野直彦教授
・ 全ての行政分野の人が、自分のところは重要だと言っている。
・ 誰が責任をとるのかは住民が責任を追及する。選挙の洗礼。

N委員
・ 長い歴史の義務教育。変えなければならない時には変えなければならない。
・ 総理も私どもも負担金の税源移譲を言っている。
・ 受け入れる以上は、受け入れのやり方を考え、効率を高める努力をする。
・ 他への転用も心配されるが、対策・体制を整えている。
・ 負担金堅持の主張に、総額裁量性のメリットで十分ではないか、との指摘があるが、そう考えるか。
・ 財政論と教育論は別。

神野直彦教授
・ ブロック補助金で補助金改革を止める理屈はない。
・ 送られた資料だけで二つ分の鞄持参した。木を見て森を見ず、にならないように。
・ 自分の価値観を相対化して全体像を見る必要がある。

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Tracked on June 19, 2005 at 03:50 PM

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