「島の規則」と組織原理
モバイル社会の進展で、どのような価値観が展開されていくのか、それに応じて地域社会はどういう行動形態をとらなければならないかという視点の講演を長久手市で聴く機会がありました。
5月21日に伺った山川隆さんというモバイル社会研究所副所長の話です(その研究所の所長は彼の有名な石井威望先生)。
各論のコメントで感心する以下のような指摘がありました。
・ある時期に密度濃く利用されることで時代を越えて残っていく。タイプライターのキー配列が今のパソコンのキーボードの配列に生かされている。QWERTY・・・というローマ字の左上の文字列も長年の事実上の利用がスタンダードとなっている。
・洗練された技術よりも、速やかに普及する技術が生き残る。
・必然が勝つ場合と声の大きさが勝つ場合がある。長い目で見ると必然が残るが、時間軸を短くすると声の大きさが勝る場合が往々にしてある。
・個の重視がその可能性を開放する。昔のテレックスは組織毎のアドレスだったが、メールは一人一人のアドレスになっている。
・がんじがらめで能力が発揮できないと社会は発展しない。
・Open Platform を作ることでみんなの智恵の切磋琢磨が重要だ。
・密度の変化により社会システム自体が変化する。駅の例で喩えれば、客が少ないと改札をフリーにして列車内でキップを検札すれば間に合うが、客が多いと改札口でのチェックにシステムを切り換える。
・Open Model ではなく Closed Model への視点の転換が必要だ。世界が狭くなり、皆に空間認識が出来、物事の有限性の理解が深まってきた。部分最適のルールから全体最適のルールへの転換が必要だ。
・環境問題でも、回収できないようなものを生産してはいけない、というルールを作っていくことが必要だ。
・携帯電話の普及で、隙間時間の活用可能となり、短時間内のコミットメントが可能となった。
・このような広がりの中では、地域社会としてのコアをいかに作り出すかが大きな問題だ。「地産地消」という言葉に代表されるコア作りが大事だ。
・産業は効率優先主義になりがちであり、常にそのプレッシャーに曝され続ける中で、人間中心主義に一方の重心を置くことが必要だ。
全体の論理のつながりが今ひとつ分かりにくいところもありましたが、後は我々聴衆自身の抱える課題に、示唆を受けた視点をどう応用していくかということだと思って、納得しました。
話の中で、「島の規則」という概念の紹介もありました。古生物学の世界には「島の規則」と呼ばれる進化の法則のようなものがあり、島にすむ小型の動物は次第に大型化し、逆に大型の動物は小型化していくというものなのだそうです。一方、大陸の動物は大型の動物は更に大型化することで生き残りを図り、逆に小型の動物は更に小型化することで姿を隠し生き残りを図るという進化の法則があるのだそうです。
この法則の説明の理屈としては、
・今まで陸続きだった地域が海に囲まれて孤立 →・餌を求めて広い地域を移動できなくなった草食動物たちは、島で得られるだけの餌に見合った数に減少 →・草食動物の数に依存する肉食動物が先に島から消失 →・それまでは小さな穴や物陰に隠れることで捕食者から逃れていた小型動物は隠れる必要がなくなったために大型化。体の大きさで捕食者に対抗していた大型動物は大きな体を維持する必要がなくなるため小型化 →・「島」は多様性も緊張感も無用の平準化された社会へと変化 」
ということだそうです。
この理論は、なかなか興味深く、我々の実感とも合致し、いろんな社会現象に応用できそうな原則だと感心しました。我が職場に置き換えてみれば、閉ざされた組織は、放っておけば多様性や緊張感が失われて、なあなあの慣行が出来てしまう。大阪市の労使慣行の弊害はその例と言えないこともありません。
勢い、組織に活力を与えるために情報公開や評価制度を導入することになるのですが、このように人為的にに緊張感や競争意識をつくり出そうとする試みは永遠に継続しないといけないのでしょう。「島」の自然の摂理は、「島の規則」に従って動くのが道理なのですから。
ところで、この話を私が聞いてふと思ったのは、合併問題と島の規則、です。全国の地域で、合併の進んでいるところと進んでいないところがありますが、これも島の規則の原理が妥当するように思えます。その市町村の属する県や周囲のことをより強く意識している市町村や今後の財政環境を楽観視している市町村は、「安心」の「島の規則」が妥当し、中小の規模で生きていこうとする。これに対して、大きな視野で競争力を付けようという意識のあるところや財政の将来に危機感を持っているところは、「島の規則」から抜け出て、大型化や個性化を目指す。やや牽強付会かなあと思いながら、いろんな局面でこの概念の適用事例を検証してみたいと思った次第です。
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