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May 18, 2005

日本人の「発奮観念」

高校時代からの友人で愛知県長久手町の某開業医氏から、 明43年 (1910)に実業之日本社から出版された『東西名士発奮之動機』という本のことを教えてもらいました。

日本人の「発奮観念」を知るうえでとても興味深い文献のようです。教育社会学専攻の研究者の間では、現在でも引きあいに出される文献なのだそうですが、なかなか手にはいらない貴重な本のようです。

その某開業医氏は、名古屋市をはじめとする愛知県内の図書館を探したが見あたらず、全国の大学図書館等が所蔵する図書・雑誌の総合目録データベースであるNACSIS Webcatや東京都立図書館蔵検索も試みたがヒットせず、国立国会図書館の蔵書を検索してやっと見つけたものの、国立国会図書館は平日のみの開館、貸出禁で複写も大変手間がかかるという状態で、おまけに本を1冊全部コピーする場合は、特別複写申込書が必要で、国立国会図書館蔵のこの本を読むのは不可能と判断せざるを得なかったのだそうです。

ところが、幸運にもある古書店が1冊持っているのを発見し、入手できたとのこと、699ページの保存状態良好のもので、彼氏は大満足だったとのことでした。

さて、この本では以下の目次にあるように、16種類の発奮型が紹介されており、その中でも最多の事例を擁するのは「侮辱を憤慨して発奮せる名士」であり、16人の実例を紹介してあるのだそうです。

第1章:国難を憂えて発奮せる名士
第2章:侮辱を憤慨して発奮せる名士
第3章:鼓舞激励せられて発奮せる名士
第4章:時勢に感じて発奮せる名士
第5章:慈悲恩愛に感じて発奮せる名士
第6章:正義人道の荒廃を発奮せる名士
第7章:同胞を救わんが為に発奮せる名士
第8章:辛苦困難に際会して発奮せる名士
第9章:知遇に感激して発奮せる名士
第10章:人類を益せんが為に発奮せる名士
第11章:師友の忠告に感じて発奮せる名士
第12章:宗教の腐敗を憤りて発奮せる名士
第13章:先哲の書を読みて発奮せる名士
第14章:国益を計らんが為に発奮せる名士
第15章:父母の訓戒に感じて発奮せる名士
第16章:貧困を憤慨して発奮せる名士

明治初期の立身出世の焚きつけ役としては、英国のサミュエル・スマイルズの『SELF- HELP』(1859年)を中村正直が翻訳した『西國立志編』(明治4年、1871年)や、福沢諭吉の『学問のすすめ』(明治5年、1872年)が有名です。『西國立志編』は欧米の偉人伝を集めたものであり、奮闘努力すれば、誰にでも立身出世の可能性が開けることを説いていますが、某開業医氏の見立てでは、この『東西名士発奮之動機』もその流れを汲み、東洋、西洋の立身出世を勝ちえた名士の発奮の動機をまとめているとのことです。

某開業医氏は、これから少しづつ、『東西名士発奮之動機』のなかの興味ある発奮事例を順次紹介して行きたいと言ってくれています。彼としては、「多額の借金があり発奮せざるを得ない零細開業医として、この本を熟読玩味したい」と言っていますが、勿論その理由は冗談です。

ところで、インセンティブ、動機付けの問題は、我が国にとって、極めて今日的で、また深刻な課題でもあります。この時代、「侮辱を憤慨して発奮せる名士」の事例を多く集めたということは、不平等条約からの脱却を願い、列強に負けるな追い越せと、近代国家を目指していた日本の時代背景もあり、さもありなん、という気もします。「この恨みはらさでか」というのがもっとも強い動機になりうるのはよく分かります。少し怖いですが、最近の近隣国関係ですらそれを証明しています。

今の日本の置かれた環境の中では、日本人としては、「慈悲恩愛に感じ」、「同胞を救わんが為に」、「人類を益せんが為に」、「国益を計らんが為に」発奮するような動機があり得ないものかと思いたいところです。

たまたま5月18日の昼に、職場の関係の海外勤務者との懇談の機会がありましたが、そのうちの英国とフランスの駐在の方から、

・それぞれの国で、中国と韓国の留学生が、数も多いし優秀で、しかも一生懸命勉強をしている姿が目につくこと、
・それに比較し、日本の学生は、数も少なく物静かで、遠慮があるのか勉強も目立たないこと、
・相手の国の側も、例えば、フランスでは国中を上げて中国に目が行っていること、
・ロンドン駐在の日本の経済人が、英国の経済界の重鎮らを前に、平気で、「日本では中国台頭論があり脅威を感じている、日本は借金財政と高齢化でにっちもさっちも行かない」などとあちらの人たちの対日投資意欲を殺ぐようなことを平気で言っており、経済人としての戦略性も何もないこと、
・せめて在外にいる経済人は、国内的には兎も角、せめて対外的には、「日本の個人貯蓄は1400兆円もあり、国・地方の借金が多額とは言え国民の金融資産を背景に国家が国民に借りているのであり、他の国とちがって他国に借金をしているわけではなく、加えて、日本の資金で米国の国債をファイナンスしており、財政再建は必要だが、経済的な国際競争力では、アジアの途上国の遠く及ぶところではない」、というくらいの戦略的発言をして欲しいこと、

などといった話を伺いました。もっともな指摘です。大前研一氏が、「チャイナ・インパクト」という本の中で述べている、中国人が今の日本を見て、「成功するとあそこまで駄目になるかといういい例だ。今の日本を見ていると、何故あんなに成功したのか分からない」と、当の日本人を前に平気で批判しているという話とも符合します。

それにしても、少し豊になったからと言って、知的好奇心や学ぶ意欲が若い人に少なくなっているということが事実であれば、明治の頃の初心に戻って、「発奮動機」の本の内容にもう一度当たってみることは案外意味のあることかも知れません。

某開業医氏の、この本の内容を掻い摘む連載を密かに期待しています。ひょっとしたら、「東西名士発奮之動機の読み方」などという啓蒙書がそのうちに出版されるかも知れません。

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