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April 29, 2005

時代のけじめの犠牲者?

外務省のラスプーチンと呼ばれたロシア情報分析の専門家佐藤優氏の近刊本である「国家の罠」(新潮社)を読みました。田中真紀子氏と鈴木宗男氏の確執の中で「背任、偽計業務妨害」という罪で第一審で有罪(現在控訴中)となった人の獄中体験記と回想記です。

私どものすぐ近くのビルに勤務していた佐藤氏ですが、直接は会ったことはありません。マスコミを通じてのイメージしか伝わってこなかった同氏でしたが、この本を読むと、そのイメージが根底から覆されます。

「鈴木宗男という利権政治屋に取り入って自らの栄達を目指す腹黒い外務省職員」というマスコミ的イメージはものの見事に翻り、「事なかれ主義の外務省組織防衛に徹する金魚鉢の金魚のような外務官僚とは異なり、異能な情報収集能力を駆使し、ロシア、イスラエルの学会、政界の枢要な人脈に食い込み、北方領土問題の解決という国家的課題に取り組む道半ばで、政治環境の変化の中で鈴木宗男氏をターゲットとする国策捜査に巻き込まれた、真の国益を考えていた国士公務員」というイメージに鮮明に変わってきます。

取り調べ検事の西村氏とのやりとりが具体的に記されています。「本件は国策捜査であり、闘ってみても無駄なこと」と断言した西村検事とのやりとりを克明に記しています。

(西村検事)
「これは国策捜査なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は、時代のけじめをつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。」

(佐藤被疑者)
「見事僕はそれに当たってしまったわけだ」

(西村検事)
「そういうこと。運が悪かったとしか言いようがない」

(佐藤被疑者)
「しかし、僕が悪運を引き寄せた面もある。今まで普通に行われていた、否、それよりも評価、奨励されてきた価値が、ある時点から逆転する訳か」

(西村検事)
「そういうこと。評価の基準が変わるんだ。何かハードルが下がってくるんだ」

(佐藤被疑者)
「僕からすると、事後法で裁かれている感じがする」

(西村検事)
「しかし、法律はもともとある。その適用基準が変わってくるんだ。特に政治家に対する国策捜査は近年驚くほどハードルが下がってきているんだ。・・・・」

(佐藤被疑者)
「それじゃ外交は出来ない。ましてや日本のために特殊情報を活用することなどできやしない」

(西村検事)
「そういうことはできない国なんだよ。日本は。あなたはやりすぎたんだ。仕事のためにいつのまにか線を越えていた。仕事は与えられた範囲でやればいいんだよ。成果が出なくても。自分や家族の生活を大切にすればいいんだよ。それが官僚なんだ。僕もあなたを反面教師としてやりすぎないようにしているんだ」

佐藤氏によると、情報を専門にする者には、勘と「基礎体力」が必要だのだそうです。この基礎体力とは、先ず記憶力で、佐藤氏の場合は、記憶は「映像方式」で、何か切っ掛けになる映像が出てくると、そこの登場人物が話し出すのだそうです。書籍にしても頁がそのまま浮き出してくるとのことです。しかし、切っ掛けがないと記憶は出てこないので、独房に戻ってから、毎日の取り調べの状況を再現するため、取り調べの情景にあわせて記憶を定着させるように努めたとのことです。その結果が、検事とのやりとりの克明な再現につながっているのです。

佐藤氏と西村検事とのやりとりの中で、外務省の行動原理、組織原理が明らかにされているだけでなく、検察の捜査や立件のノウハウまでもが鮮明に描写されています。

佐藤氏の情報収集能力は、いくつかの目覚ましい実績によって評価が高いようです。エリツイン大統領辞任とプーチン首相の大統領代行就任を世界の先進諸国に先駆けて入手したのは佐藤氏の情報網なのだそうです。小渕総理には数十回にも及ぶロシア状勢のレクを行っており、総理から直接電話を受けることもあったことが描かれています。

今回の「事件」で、政府にとっての異能の情報ルートを、国策捜査は、自ら絶ちきってしまったことになっています。ただでさえ不足するといわれる日本の国際情報収集の能力が、更に凡庸な情報収集能力に惰していくのでしょうか。これからは、「どうせ、米国一辺倒で行くのだから構わない、のかもしれない」、という佐藤氏の暗黙の抗議が伝わってくるような思いもします。

外務省内では、田中女史の鈴木氏への敵愾心から「地政学論」(=日露関係重視)が葬り去られ、それにより「ロシアスクール」が幹部から排除され、次に田中女史の失脚により、「アジア主義」が後退、「チャイナスクール」の影響力も限定的になり、「親米主義」が唯一の路線として残っているというのが佐藤氏の見立てです。「米国一辺倒」は外務省内の幹部の勢力配置により、担保されているということになります。

佐藤氏は、「時代のけじめ」の意味について、内政におけるケインズ型公平配分路線からハイエク型傾斜配分路線への転換、外交における地政学的国際協調主義から排外主義的ナショナリズムへの転換という二つの線があると書いています。その線の交差するところに鈴木宗男氏がいた、という見立てです。この見立ては、今の日本の改革路線の背景をある程度言い当てているようにも思えます。これも、アメリカンスタンダードに合わせる(合わせざるを得ない?)という大きな意志が働いているのでしょうか。

佐藤氏は、同志社大学の神学部と大学院で、組織神学を学び、チェコスロバキアの共産党政権とプロテスタント教会の関係を研究テーマにしていたのだそうです。旧ソ連のゴルバチョフ政権時代、親しくしていたリトアニア共産党幹部から誘われ、当時のソ連共産党幹部に、キリスト教社会主義、ロシア正教会、カトリック教会、プロテスタント教会の関係について、神学専門家としての初歩的な説明を行ったことから、ロシア政権中枢との深い関わりが始まったとのことが書かれています。当時既にイデオロギー的有効性を失っていたマルクス・レーニン主義にロシア政教を再評価することで共産主義イデオロギーを再活性化できるのではないかとの思いが先方にあったようです。深い哲学的素養が佐藤氏にはあり、これが信頼関係に基づく人脈形成に繋がっていったとのことが淡々と描かれています。

512日間の独房生活では、「聖書」、「太平記」、ヘーゲルの「精神現象学」など220冊を読破し、「読書と思索にとって最良の環境だった」と吹っ切れた心境を吐露しています。そして、「困難な外交交渉を遂行するためには、日本国家が天狗の力を必要とする状況は今後も生じるであろう」、そして、「それが再び国策捜査によって報いられるかも知れない」、しかし、「それでも誰かが国益のために天狗の機能を果たさなくてはならない」と、自らの国益重視の心情を述べています。佐藤氏は、刑事被告人になったことで、決して自らを卑下していないことが分かります。

保身に走らず国益に殉じたプロの公務員の迫真の弁明本として拝読しました。

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Comments

こんにちわ★
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ではこれからも頑張って下さい☆

Posted by: 人気BLOGRANK | April 29, 2005 at 03:43 PM

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