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April 29, 2005

日本を苛む途方もない孤独感

中国・韓国の反日デモの意味を見据えた今日的な課題の視座を聞く機会がありました。

4月26日の朝食会で、三井物産戦略研究所長の寺島実郎氏の話を伺いました。「世界経済と日本の行方」演題でしたが、いつもながらの辛辣な論評ながら、指摘は実に的確だと思いました。

(途方もない孤独感)
今回の反日デモの背景には、明らかに日本の国連の常任理事国入りに対する反発がある、というのが寺島氏の見立てです。「歴史認識」「靖国」は表面的な理由で、アナン報告により、常任理事国に新に6カ国を追加するという話になり、日本の常任理事国入りが現実的になり、それに反対する中韓の本音があぶり出されたというのが、残念ながら本質的な問題だというのです。特に、韓国は、一時は日本の常任理事国入りに賛成をしていたのに、せめてギリギリ反対はしないという立場を乗り越えて、身を乗り出し反対するのですから「国の品格」も何もないということになるようです。

近隣諸国との間に決定的な信頼関係を築けない日本という国は、近隣外交を何のために行ってきたのか、というのが寺島氏の批判です。一方で、友好関係を築くべき日本の発展にあからさまに足を引っ張ろうとする中韓の「心の闇」も信じられないと嘆いています。日英同盟から日米同盟に亘るアングロサクソン同盟重視の日本のこの1100年の外交方針に問題ありと指摘しています。

特に、この数年で、経済面でアジアと日本の関係が、日米関係以上に深くなっている現実を重視すべしと寺島氏は言っています。現在の貿易間系NO.1は、日米ではなく日中になっています。18.6%の米国のシェアーに対して、華僑国を含めた拡大中国(グレーターチャイナ)で3割、アジア全体では5割になっています。

経済関係に比して、政治外交が対米に偏しすぎているとの指摘です。そのために、国際関係に於いて、我が国は「途方もない孤独感」に呵まれている、と断じ切っています。

(「国際連合」という訳語)
国連(UN)を国際連合と訳し、まるで国民国家を超えた上部機関が存在するかのように過剰な期待感を与えたのは、間違いだというのが寺島氏の指摘です。中国語ではUNは「連合国」という訳なのだそうです。そもそもUNは「United Nations」であり、戦後秩序の構想を戦勝国で練り、英米の軍事力で国際秩序を支えようという発想で作られた機関であるという歴史的経緯を忘れてはならないというものです。もっともその後、スターリンと蒋介石、さらにドゴールが入り5大国で世界秩序を護るということになったという見立てです。その意味では、今回の対イラク戦争は、まさにその構想の延長線上で実施されたものだということも言えるという見方もおかしくはないのだそうです。

そういう国連の常任理事国に日本が入ることに対して、中国人は、「日本は戦争に負けたくせに、連合国に潜り込み、金を払っているからと言って常任理事国の一角に入り込もうとしているずるがしこい国」という見方を持っているとのことです。

日本の言い分は、そもそも、5大国が拒否権で仕切ること自体がおかしいという見方なのですが、寺島氏に言わせると、アナンレポート自体が、追加の6ヵ国の常任理事国は拒否権はなく、しかも、ODAがGDPの0.7%という条件があり、日本にとっては今のODAを3倍にしないと追いつかない基準だということです。いわば金で買うB級ライセンスというのが今回の常任理事国入りだという現実を指摘しています。

韓国の有識者は、「金を払っているからと言って国際社会のリーダーにふさわしいかは疑問」なのだそうです。金があるから俺の立場を尊重しろというのは、ホリエモンの主張と同じだということになります。

(勝負すべきは理念)
寺島氏は、5大国とは異なる立場で気迫を示さないと世界にはアピールしないと指摘しています。そのポイントは、「非核国」、「武器輸出を行っていない」という立場を主張すべしということなのだそうです。その上で、日本は将来のアジアへの軍事的脅威にならないという立場を鮮明にすることが重要だと指摘しています。

中国は、安保理理事国入り反対運動が想定外に暴徒化して慌てていますが、小泉総理に5つのポイントを提示し、台湾問題まで持ち出してきたところに、中国側の怯えと本音が垣間見えると指摘しています。その怯えの背景には、キャンプ座間に米軍の広域司令部が設置されることに非常な警戒感を懐いているとの見立てです。

先に、政府は、極東の範囲に関し、「これは地理的概念ではなく事態の性格により範囲が変わる」という立場を明らかにしましたが、中国はこれにより際限なく米国の軍事行動に日本が引き込まれ、あまつさえ、座間に広域司令部が来ることで、台湾を含む中央アジア方面有事の際に、日本が後方支援以上の機能を果たすのではないかという懸念を持っているというのです。

米国には、「台湾関係法」という法律があり、中国が台湾に軍事力行使の際には防衛義務があるのです。しかも、台湾には米軍基地はない。そこで日本が後方支援以上の役割を担う蓋然性が出てくるというのです。

中国にとっての、「歴史認識」や「靖国問題」は建前であり、背後にある本音は常任理事国と台湾問題だという見立てになってきます。

そういう中国に対して、日本はどういう対応をすべきか、ということに対して、上記の立場があるのですが、寺島氏は、更に、靖国問題に関しても、次のような見解を示しています。「東条英機の遺書に、今次大戦の真の敗因は一に東亜諸国の協力と理解を得られなかったという一点に尽きる、との文面がある。東条英機は、真珠湾攻撃の際に、仏壇の前で号泣し戦争を始めた責任の重さを噛みしめていた。そのような責任感の強い東条英機が、自分自身の存在が障害となって近隣諸国関係がおかしくなっていることを果たして望むであろうか」と。

(国連分担金と米軍分担金)
寺島氏は、国連分担金の日本の負担19.5%(700億円)に絡めて、米軍基地に対する日本のHost Nation Supportの金額の大きさも指摘しています。6500億円の負担を毎年しています。韓国が駐留米軍負担で500億円、ドイツは100億円。べらぼうな金額の支援をしているというのです。

しかも、日本人は「逆上したり」しない好ましい国で、韓国では米軍人が韓国人に襲われているのだそうです。日本人は、米国の若い兵士に日本の女性が襲われても逆上しない「珍しい国」なのだそうです。それだけ米国に尽くす意味は何なのか、ということが問われるのでしょう。

その割には、米国自身が、熱烈に、日本の常任理事国入りに協力してくれているという実態はないようです。米国にとっては、この問題は現状維持がもっとも都合がいいようです。

(安保理問題のネック、国際刑事裁判所問題)
国際的立場の理念のあり方が問われる具体的事例は他にもあるようです。国際刑事裁判所(ICC)問題です。2002年に世界の60ヵ国が批准してハーグに出来た組織で、国境を越えた犯罪や人道に対する罪を裁く裁判所です。

実は、米国は、「米国人が不公正な裁判の犠牲になることを拒否する」という理屈で加盟していないのだそうです。米国は他国とも2国間協定を結び、米国軍人をハーグに送らないようにプレッシャーをかけているのだそうです。全世界に展開する米軍が、自らの手を放れて裁かれることを忌避しているのです。

では日本はどうか。国際刑事裁判所の設立に向けての国際会議には欠かさず出席してきた日本ですが、ここに来て、日本は腰が引け、批准をためらっているようなのです。欧州からは、「日本はどうしたの、米国にいわれるとしどろもどろになるのだね」とからかわれているのだそうです。

寺島氏は、これではとても常任理事国に入りたいなどとは言えない、と断じています。特に、北朝鮮の拉致問題を抱えた日本が、この問題に前向きでないのは解せないとしています。これは国境を越えた人道犯罪で、国際刑事裁判所に訴えたらいい、と。現在は、被害者が加害者といがみ合っている状態で、埒があかず、早く、適当な場で公平な場で裁いてもらうべきだと。それをもっとも嫌がっているのは他ならぬ北朝鮮であり、世界の154ヶ国と国交を結んでいる北朝鮮は、国際刑事裁判所の場で衆人環視の中で議論されることをもっとも嫌うであろうと。

その分、日本にとっては、アピールできる場なのですが、何故かそれをしようとしない。米国への遠慮以外に考えられないと。そういう国が、「国際社会の中で名誉ある地位」を占め、その見識を国際社会から評価されるであろうか、と寺島氏はちぐはぐな日本の対応を批判しています。

「日本がこれから立ち向かわなければならない多国間外交の時代には、確固たる論理が必要だ。あいつの言っていることはもっともだ。」と常に思われる立場が必要だと寺島氏。2国間の交渉とは異なる理論構築が求められているとの結語でした。

先般外務省の佐藤優氏の「国家の罠」という本を読みましたが、この寺島氏の話を聞きながら、今の日本外交を支える外務省の幹部が、「対米関係重視派」で占められるに至っているという状況が、今後の近隣外交や安保理問題を巡って果たしてバランスの取れた理念を示していけるのだろうかと、若干の不安を覚えた次第です。

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Comments

こん**は!河豚と申しますm(__)m
かなりこの問題についてすっきりと整理されていらっしゃるようでしたので、事後報告ですがトラックバックさせていただきました(^^ゞ

Posted by: 河豚 | April 30, 2005 at 02:55 AM

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