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March 18, 2005

米国の地方自治と教育

「米国の地方自治と教育」に関して、石田直裕さんというニューヨーク勤務経験の方から以下のような解説を頂きました。大変コンパクトで分かりやすい解説となっています。受益と負担の釣り合いがとれた地方自治のモデルのような姿が描かれています。我が国に置き換えてどう考えるかは別問題ですが。


平成14年2月発行の月刊「地方自治」(ぎょうせい)にも全体像が掲載されております。こちらもご覧下さい。

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1 米国州政府について
・連邦憲法上、連邦政府は憲法によって委任されている権限のみ有するが、この権限は、行政分野でいえば、州相互間及び外国政府との商取引の規制、貨幣の鋳造、郵便など極めて限られたもの。
・それ以外のことについては、連邦憲法修正第10条により、すべて州並びに人民に留保。
・州は広大な権限を有することになり、地方団体制度、教育制度、警察制度、民事商事の規制、労働、産業の規制など、すべて州政府に一義的には任されている。
・したがって、知事、州議会は強大な権限を有することになり、その反面、国民の間でも、連邦政府が何かをしてくれることを期待するという意識は日本と比べてはるかに薄い。むしろ、ワシントンという遠いところにある分、住民の監視が行き届かず、税金に見合ったサービスが提供されているのかという不満が常に根底にある。
・アメリカ人の平均的な感覚でいえば、ワシントンの連邦政府は監視が行き届かないだけ信用できず、州、特にすぐそばにある市町村が、監視しやすい分だけ信用が置けるというもの。常に、小さな連邦政府が志向される所以。
・同時多発テロで国民の連邦政府への期待は高まっていることは事実であるが、このような考え方はそう簡単になくなるものではない。
・本来は州政府の権限分野でも、連邦政府が補助金を交付することは可能と解釈されており、都市開発、福祉や教育の面で補助金が多数存在。しかし常に州政府から、連邦政府の権限拡大は厳しい監視にさらされており、例えば、クリントン政権が学校の先生を10万人増やす政策を打ち出した際には、全国知事会の最初の反応は「憲法違反」というもの。
・したがって、連邦政府の政策推進上、強大な権限を有する州知事を味方につけることは極めて重要。ブッシュ大統領、クリントン大統領の例を出すまでもなく多くの大統領が州知事出身。

2 地方団体について
・アメリカで「ローカルガバメント」といえば、州内の各種地方団体をさすが、地方制度は州の専権事項であり、連邦政府が口をはさむことはできない。したがって、アメリカの地方制度は50種類あるといわれるほど、州ごとに、地方団体制度は異なる。
・もっとも、地域ごとにいうと、コネティカット州以北のニューイングランド地方といわれるところ、東部大西洋沿岸州、太平洋沿岸州など似通った制度を有しているところもあり、これらをさらに類型化していえば、概ね、地方団体は「カウンティ」「市や村などの自治体」「タウンないしはタウンシップ」「学校区」「学校区以外の特別区」の5つに分類できる。連邦政府統計局も同様な考え方で地方団体の数字統計を集計。
・ただ、カウンティのない州(例えばコネティカット州は1960年カウンティ政府を廃止し、その権限を州に移管している。)、タウンシップのない州、学校区のない州もあることに留意する必要がある。日本の地方制度と比較するとき、州ごとによってかなり制度が違うことの認識が必要。
・最も留意すべきは、「カウンティ」という地方団体の存在と学校区。

(1)カウンティ
・カウンティという組織は、ロード・アイランド、コネティカット両州を除き存在する政府で(名称が違っているところもあるが)、歴史的には、州の下部機構として設立されたもの。したがって、「郡」と訳す人もいるが、これらのカウンティには、公選の長、議員が存在し、州からは完全に独立した存在で、ここでは「カウンティ」と呼んでおく。
・ワシントンにはカウンティの全国組織として全国カウンティ連盟(NACO)が存在し、全国知事会などと同じく、全国的な地方自治団体のひとつとして活動。
・カウンティの機能は州ごとにかなり異なるが、おおむね福祉、医療、教育、警察など。特に、福祉、医療は、アメリカではほぼカウンティが実施しているといってよく、市町村行政とは普通には認識されていない。ただ、アメリカの場合、国民全体をカバーする医療保険もなければ、保育などの福祉行政も一般には行われていない。これらは、もともと個人で賄うものと認識されているので、福祉、医療といっても、主に貧しい人や、一人で自立した生活のできない老人を対象としたきわめて限定的なもの。
・教育は、義務教育は主として後に述べる「学校区」で行われており、したがって、カウンティでは学校区への補助、コミュニティカレッジ運営が主なもの。コミュニティカレッジは全米に普遍的に存在する大学と高等学校の中間のような、日本でいえば各種学校のようなものであるが、このカレッジの単位は大学の単位とも互換性があり、高等学校を卒業した人や社会人のために多様な教育機会を保証。
・警察行政もカウンティが実施しているが、市町村、州も独自の警察を有しているのがアメリカの特徴。
・カウンティ全体の財政規模も市町村とも肩を並べる規模。特に後に述べる「市町村」が存在しないところは、カウンティが住民に直接サービスを提供。ネバダ州では広大な面積に人が散らばっているので、市町村が存在していない(インコーポレイテッドされていない)ところが多く、例えば、ラスベガスでいえば、大きな有名ホテルの存在するところはラスベガス市ではなく、「クラークカウンティ」に直接属しており、このカウンティが行政サービスを提供。
・カウンティという、いわば市町村と州との中間的な行政機構の存在を、日本の地方制度と比較するとき忘れてはならない。

(2)学校区
・アメリカの義務教育は、おおむね学校区という一般の市町村とは独立した地方団体(特別区の一種)で行われている。独立しているというのは、機構的にも財政的にも独立しているという意味であり、おおむね独自の課税権を有する。
・学校区の財政規模は、一般の市町村を凌いでおり、財源的にも、財産税総額のほぼ2分の1が学校区で使われている。学校区の財源は州政府からの補助金を除けばほぼ財産税だけ。
・学校区は、当該学校区の教育委員会が管理しており、教育委員会委員は住民の選挙で選ばれる(ニュー・ヨーク市のように学校区が市長の管轄下にある例外的なところでは任命制)。委員は無報酬であり、したがって通常の行政は、委員会が任命した教育長が行う。教育長は校長を任命し、先生は原則として校長が採用する。
・ある村の教育委員に、なぜ無報酬なのに選挙にまで出て委員をやっているのかと聞いたところ、「村の教育をどうするかは私にとって重要な問題であり、またこのような問題にかかわれるのは非常に名誉なことである」という返事であった。
・財産税の半分を使い、市町村とは独立した委員会が運営していることからもわかるとおり、学校区には住民の重大な関心が集まる。これは建前からいえば、ある村の教育委員が言うように、教育は地方団体にとって重要であるということで説明されるが、アメリカ人がどこに住むか決めるときは、学校水準を見て決めることによるところも多い。
・子供にいい教育を受けさせたいという親の願いは洋の東西を問わないが、アメリカ人は成功者ほど収入に学歴格差が存在することを知っており、このため収入の高い親はできるだけ進学成績のいいところの学校に行かせようとする。いわゆるアイビーリーグといわれる大学に入るには有名進学校に入るのが手っ取り早いが、アメリカでは義務教育(幼稚園から高校まで)で私立は少なく、学校区の経営する公立の学校で進学成績が競われている。
・財産税の豊富な金持ちの多い地区の学校は、いい先生も雇えるので、いい進学成績を残すのは当然。[金持ちが多く、住宅の値段が高い地区=財産税が高い地区=いい学校の存在する地区]という等式が存在しており、このような地区に住む住民は、たとえ子供が卒業しても、自分の家屋の財産価値を維持するためにも学校水準の維持向上に強い関心をもつ。学校水準が下がれば、先ほどの等式から、自分の住宅の財産価値が下落。
・住宅の財産価値の維持に注意を払うのは、将来一人で生活できなくなったときは住宅を売り払ってナーシングホームにでも入るつもりだからであるが、この考えはアメリカ人の老後の過ごしかたと連動していると見ることも出来る。

(3)市町村
・アメリカの市町村は、正確に分類すれば、住民が自主的に作った歴史をもつものと、州の立法で作られたものに分類でき、一般に市とか村といわれているものはほぼ、住民によって自主的に作られたものと考えてよい。
・一方、タウンとかタウンシップとかいわれているものは州の立法で作られたものが多く、市とか村とは歴史的にも制度的にも違った成り立ちを有する場合が多いが、これらはいずれも公選の首長、議員を有する地方団体であることには変わりない。
・以下では、「市町村」とまとめて呼ぶことにするが、福祉・医療などは市町村ではほとんど行われておらず、学校も運営していないことから、市町村の権限は、日本よりはるかに小さい。
・一般のアメリカ人が、市町村の権限として思い浮かべるのは、道路の維持管理、ごみ収集、建築やビジネスの規制、消防、警察ぐらいであり、現実にもその程度の権限しか有しない。この権限の中には、民間に頼んでも、あるいは他の地方団体に頼んでもいいものが多いので、現実に当該団体がどこまでやるかは団体ごとにかなり違っている。
・これらの財源はその半分以上は財産税。売上税も25%占めているが、州では、市には売上税の課税権を与えるものの村には与えていないところが多く、この場合、村にはカウンティから売上税収入が配分される。
・具体的な市町村行政について、ニューヨーク郊外で裕福な村として有名なスカースデールの例で説明する。人口17,823人の村の予算である。
・人口が2万人に近いのに歳出額がわずか30億ぐらいしかない。その一番の歳出項目は警察、消防。私の住んでいた村の助役も、人口6、300人に21人も警察官を雇っていることが自慢であった。
・このスカースデールの財産税の税率についてであるが(数字は評価額1,000ドル当たりの税額。この村は下水事業を他の団体に委託しているため、住む地区により税率が異なる。)、スカースデールに住んでいる人は、評価額1,000ドル当たり約780ドルの財産税を納める必要がある。このうち、6割以上は学校区に、残りをカウンティ、村に収めていることになる。全米の平均でいえば、財産税の半分は学校区に、残りはカウンティ、市町村というものであるから、この村は学校区にかなり力を入れていることがわかる。
・税率78%といっても、この村の実際の財産税の評価額は、実勢価格をかなり下回るので、実際の負担額はかなり低いが、この村にはカウンティ、学校区、村などに合計で1,000万円以上の財産税を納めている人はかなり多いといわれている。
・これは、かなり裕福な村の例ではあるが、アメリカの財産税が高額なのは事実。この高額の財産税が納税されるのは、行政サービスの水準に住民が納得しているから。これは当然、どの市町村にもいえることであり、住民が税金とサービスを常にチェックする体制になっている。
・このため情報公開は徹底しており、住民には、予算書から財産税課税台帳まであらゆる必要資料がすぐ手に入る。情報公開については、各州ともすすんでおり、情報公開法のみならず、会議公開法まで制定しているのが普通。この会議公開法は、議会、委員会のみならず、審議会など何らかの会議で2人以上メンバーの出席が見込まれるものはすべて公開しなければならないとするもので、いわば意思決定過程まで公開させるもの。
・徹底した情報公開のもと市町村が運営されている。このことが一般住民から信頼を得ている大きな理由となっている。

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