中国とのつき合い方
大前研一氏の「チャイナ インパクト」(講談社2002)という本を読みました。中国の息吹がびしびし伝わってくる本です。中国の今後の成長は疑うべくも無く、大きな脅威に感じているのが一般の日本人であると思います。
大前研一氏は、中国が沿岸部の東北3省、北京天津回廊、山東半島、長江デルタ、福建省、珠江デルタの6地域を中心に発展し、これらの地域は、それぞれがメガリージョンとして、一つの国家の規模で大きく発展すると予想してい
ます。中国が朱容基改革で、一挙に世界の最先端産業を手に入れるに至った様子が、ドラマティックに描かれています。
例えば、珠江デルタには部品業者が5万社、長江デルタには6万社あり、しかも必要なものは最先端のものまで何でも生産できる体制にあり、欧州からもアルカテルやノキアなどの先端産業が進出している理由はここにあると書いています。日本一の産業クラスターを形成しているといわれる東京都大田区ではこの数が8000社なのだそうです。しかも、勤勉で頭脳明晰、賃金が安い中国人が億人単位でごろごろしています。
これにどのように対抗していったら良いのか、ということを論じています。シンガポールはどう転んでも中国とは勝負にならないということで、中国と競争するのではなく、中国の発展に投資し、そのリターンで300万の人口を養っていこうという戦略に切り替えたのだそうです。そういうこともあり、前首相のリー・クワンユーはシンガポール最大の機関投資家の年金基金会長に就任したとのことです。
では、日本はどうするか。放置すれば、やがて一人当たりのGDPが同じになり、人口比で中国の10%国家に転落してしまうと警告しています。
大前氏は、日本としては、中国を一つの国家としてとらえず、地域国家の固まりとしてとらえ、日本も首都圏、関西圏、九州といった大きな固まりで、中国の各地域と戦略的に深く結びつくことを薦めています。中国のメガリージョンごととの緊密な相互依存関係を日本の道州別に作ることを薦めています。まだ日本の各地域の経済力が上回っている今のうちに、と。
そしてそのためには、日本自身が今の中央集権体制を打ち破らなければならないと主張しています。そして、そのことはEUや米国のアメリカ大陸全土を視野に入れた大経済圏思想と並ぶアジア全体の経済圏の形成に行き着くと見越しています。
中央集権的な「国民国家」が突出していたのでは、地域共通の通貨までも視野に入れた経済圏の形成は無理である、とも主張しています。
大前氏の本を読むと、何時もの事ながら、視座の高さに圧倒される思いがします。そして、それ故に、その処方箋が、今の日本の統治制度の中では実現しにくい状態になっていることを痛切に感じます。
しかし、一方で、その中国も、一人っ子政策で大事に育てられた子供達が10年後に社会を支える時の事を心配し出しているようでもあります。過保護で甘やかされた子供はハングリーではないというです。
興味深いのは、中国人がそのことを日本を見て他山の石と自らを戒めているということです。「成功するとあそこまで駄目になるかといういい例だ。今の日本を見ていると、何故あんなに成功したのか分からないですね」と日本人を前に平気で言うのだそうです。これには苦笑せざるを得ません。
教育で世界に勝負しなければならない日本人が、「ゆとり教育」で国を挙げて教育の量と質を落とし、結果として、日本人の若い人の学力が凋落している事態は、中国人から指摘されるまでもなく、嘆かわしいことです。
最早、ボーダレス経済化におけるチャイナ・インパクトを日本の経済、産業、社会の復活の原動力に使うしかないようです。日本には柔道というお家芸のスポーツがありますが、相手の力を利用して返し技で一本を取れるようにしていくということでしょうか。これは、しかし、極めて高度な技であることは論を待ちません。柔道の篠原選手の事例を見るまでもなく、審判はその高度な技を判定できないくらいでしたから。しかし、少なくとも、教育水準を高める努力は必要だと思えます。
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