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January 29, 2005

PISAショックとフィンランドの経験

2005年1月27日、プレスセンターで行われたOECDの新春講演会を聴講しました。「教育大国フィンランドと日本の課題」という演題で、フィンランド科学アカデミー外国会員の早稲田大学名誉教授中嶋博先生の講演を伺いました。私の関心事は、教育財源と教育水準の相関関係に関するものでしたが、他の観点からも興味深い示唆を受けました。

OECDのPISA調査の結果が大きな反響を呼んでいますが、日本の低迷とフィンランドの好成績とのコントラストに絡み、PISA調査に込められた本来の意味を伺うことが出来ました。中嶋先生は、1923年広島県生まれ、専門は比較国際教育学専門。1962-3までヘルシンキ大学客員教授。フィンランドの教育改革に貢献された方です。 以下主な発言をピックアップします。

(講演のアウトライン)
・ PISAの調査結果に日本世論が大きく反応。
・ しかしこれまでも日本の学力水準は世界のトップにあったのであろうか?
・ 詰め込み教育の復活、土曜の教育復活で解決する問題ではない。
・ 冷静に対処する必要。一時的な結果に一喜一憂する必要はない。
・ PISAの調査は、知識の量の測定ではない。人間として生きていく上で役に立つ学力の診断なのだ。
・ 教育立国フィンランドから学ぶ点は少なくない。
・ フィンランドの歴史を振り返り日本への提言を行いたい。

(PISAの背景と意図)
・ OECDは1980年代にINES-CCCの調査企画を行う。日本韓国の学力上位は何 らかの犠牲に於いて保たれているとの問題意識から始まった。問題解決、コミュニケーションなどの観点から評価を行いたいとの問題意識があった。
・ 1994年の欧州評議会は、責任ある市民の養成が教育の最大の目標と設定。北欧はそれに素早く反応。
・ 欧州文部大臣のジュネーブ宣言。知識、価値、態度、技能の促進。教育への一般的期待の調査。
・ 1995年フィンランド・ラファティでの会合で、教育の認知的側面以外の非認知的側面の開発の必要性を認識。それが新たな教育指標調査につなる。「PREPARE TO LIFE」 という報告書が発表された。
・ 「知識と技術の測定」の序文にその精神が書かれている。若い成人が未来の挑戦に準備出来るように教育されているかが重要なのだ、と。
・ PISAの問題意識は、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決能力の4点。
・ 読解力も生涯を通じてのリテラシーを想定。全て学校で習得すべきもので はない。生涯学習者としての基礎が身に付いているか、を測るもの。
・ クロスカリキュラムコンペテンスにより身につけられるべきもの。
・ 子供達が幅広い分野からのエッセンスを幅広く身につけられることが必要との意識。

(フィンランドの伝統と革新) 
・ PISAの結果はフィンランドでも大きく取り上げられた。政府は「総合性教育の勝利」と発表。
・ 教育の平等の機会、地方での教育の接近制、性差別の皆無、教育の相対的無償、中央集権的助言と地方での実践、パートナーシップ、発展思考、テスト無し、優秀な先生の確保などの組み合わせ。
・ 歴史を振り返ると、1886年文字の読み書きできない人の結婚が禁止された。これでフィンランドは「文明化」。
・ 1866年学校の監督権を教会から地方自治体に移管。働くことが重要、という教育。スネルマンが強力に推進。フィンランドの福沢諭吉とも言える人物。
・ 教育をフィンランド語を使えるようにした。それまではスウェーデン語しか使えず。
・ 1906年に婦人参政権。しかし、中等教育への女性の進学は非常に難しかった。一般庶民は、6年の教育。余裕がないと上級学校に行けず。そのために庶民は、自ら の手で民間教育・成人教育を発展させた。江戸時代の寺子屋のような仕組み。
・ 1950年代後半から学校改革の動き。3-3-3の総合性教育制度。その後 6-3制に移行。中身は日本と異なる。
・ その特徴は、グループ、少人数、環境教育重視。落ちこぼれを出さない教育。落第しても差別はなく、「勉強を長くやった」と大事にされるくらい。
・ 自分でコースを組み立てる学習。各自が集中的に教科を組み立てる。「出口」をきちんとしめる教育。 一方で、就学前教育の導入も。英語教育も3年から必須。1年からも可能に。
・ 1994年から学校管理を国ではなく地方自治体に任せようとの改革。教科書検定もやめた。学習指導要領も従来の1/10の厚さに。国の管理は枠組みだけに限定。後は現場の教師に任せた。
・ 底辺を大事にするそういう一連の動きで学力が上昇。PISAの調査でも、フィンランドは最低レベルの生徒が非常に少ない。
・ 数学自然科学の技術向上プログラムでは、中学の数学の先生を下の学年・学校に異動させ教えさせている。8年次の読解力が落ちているとの結果が出たときには、それに対して具体的な対応。読書力の低下の結果が出ると、直ちに対応。自治体図書館との連携、作家の学校への招聘など。これなどフィンランド版「ようこそ先生」
・ しかし、学校での学習時間は増やしていない。550時間/年。9時から14時で学校は終わり。個人の能力に柔軟に対応。とにかくフィンランドの学校は楽しい。絶対に休まない。有能な先生の話は楽しいし友達同士で仲がいい。
・ 質の高い先生が教える教科書は楽しい。日常生活に根ざした話題から説き起こす教科書の内容。所謂道徳教育などではなく、一人の人間を育てる教育。
・ 新しい方向として、6-3制を一環教育とする動きも。数学の時間を若干増やす。麻薬の問題も取り入れる。より総合的学習の方向。
・ 金曜日は時間割無し。21時間中11時間が総合学習の時間。そのテーマには、驚くべきものも含まれている。 個人的成長、文化的同一性と国際化、メディアとコミュニケーション、起業家精神、環境、安全と交通などが並んでいる。
・ 高校ではきちんと履修していないものは卒業させていない。国語は必須。
・ 学校改革のモデルは日本。6-3制。(中嶋氏はこれに関わる)。日本の事情、メリットとデメリットを明らかにした。特に教員教育を話した。総合学習を導入した。フィンランド人から、「中嶋のおかげで教育のレベルが落ちた」とも言われた。しかし、「富士山のすそ野を広くしなければ良い人材は育ってこない」、と言って耐えた。
・ フィンランドに対してOECDの教育審査があり、その勧告に従った。放送教育の活用が少ないとの指摘があった。読書とITが盛んということ。高度な職業高等機関の存在を褒められている。
・ 優れた教師の育成を行っている。次世代の育成を行う責任がある。男女とも教師になりたいという子供が最も多い。女の子は看護婦が次。何故か。フィンランドの全国ストの際にも、先生達は学校に来る子供を面倒見た。
・ フィンランドで教師になることは大変な困難なこと。中等教育以上は修士号を持っていないとなれない。各学科で優を取れないとなれなかった。しかし、教育学部の4年の教育が義務づけられた。不適格者は他学部に移行。それを法律で定めた。実習半年。外国語を採ると、外国語の母国に一年行くことが義務づけられる。従って4年では卒業できない。全員が修士以上を保持することに。
・ 教師の適正度チェックがあらゆる角度から行われる。子供中心、コミュニケートしなければ人格は発展しない、とのデューイの理論が背景。
・ 国を挙げて生涯学習のシステムが成立している。ある科目は52万人の登録。500万人口で100万人が生涯学習登録。国民を挙げての学習意欲と強さが際だつ。

(日本の教育への処方箋)
・ 日本の学力テストの結果、底辺が問題ということが判明している。中学高校から小学校に問題が移っている。
・ PISAの提言の本意は、国際的な学習診断だ。これほど科学的になされた調査はない。この国際勧告を忠実に処方箋を作るべき。それは、脱ゆとりではない。生きる力、学ぶ力を目指すのが学力。早寝早起き、きちんと食べるこれが基本。国語力のアップが重要。底辺の是正、底上げが重要。落ちこぼれを無くす対策。サポート対策。助け合いの学習。我が国の今の教育とは全く逆の対応。
・ 教育こそが国家の資産。それが今日の福祉国家を作った。公費の教育助成が相対的に少ない日本。フィンランドは全て公教育。


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