「文明の衝突と21世紀の日本」
サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突と21世紀の日本」という本は、現在の国際情勢を分かり易く説明できている本のように思えます。文庫本で簡単に読めます。
イラク戦争が終わり、平和が訪れたと米国の指導者が言っているのをあざ笑うかのように世界の各地でテロが横行していますが、これはまさにサミュエル・ハンチントン教授が本書の中で警告しているとおりです。
教授曰く・・・
唯一の超大国の指導者として、米国は極めて自然に、まるで世界が一極システムであるかのように考え、行動する傾向にある。力と美徳を鼻にかけ、慈悲深い親切な支配者だと考えている。他の国々に米国の原則、習慣、制度の普遍的な正当性について説教をたれ、他の全ての国もそれを採用すべきと押し付ける。
しかしそれは幻想であることが多い。まるで世界が一極システムであるかのように行動することで、米国は世界の中で孤立しつつある。英国やイスラエルをはじめとする数カ国の支持は得られるであろうが世界の殆どの国と国民は反対の立場にいる。
米国は定期的にさまざまな国を無法者国家呼ばわりするが、多くの国にとって、今は米国の方が無法者の超大国になりつつある。1997年のハーバード大学の報告では、世界人口の3分の2を占める国々のエリート達は、米国を自分達の社会に対する唯一最大の外的脅威と捕らえている。
どうも米国は、以上のようなハンチントン教授の警告を無視して、パンドラの箱を開けてしまったのかも知れません。イラクへの今回の対応を契機に、イスラム社会の反米、反西欧感情を逆なでし、文明の衝突を地で行くシナリオに入り込んだかの様相を呈しています。
日本はどうするか。ハンチントン教授の見立てでは、米国と中華文明の狭間で難しい舵取りを強いられるのであるが、バンドワゴニング(強いものにつく)のが日本のお家芸だと指摘されていることからすると、米国が何時までも強いと考えて、どこまでもついていくしかないのかも知れません。しかし、戦前、当時の強国は、ナチスドイツであると誤った判断をしたのが日本であると揶揄されています。
ハンチントン教授の言うバランシング(勢力の均衡を維持)するというヨーロッパ風の外交手法もありますが、現在の日本の立場、外交能力では、無理なのかもしれないと思われます。
3年以上も前の本書ですが、書かれていることが、現在の世界の有様を極めて適切に説明できていることは、本書が歴史史観として将来を見通しうるものであることを証明しているのだと思います。
ところで、ハンチントン教授に実際にあってその話を聞いた私の信頼するジャーナリストからは、非常に冷めたメッセージが届きました。
「ハンチントン教授は、私の留学先の所属で、一度、彼も参加するパネルディスカッションのようなものも聞きに行きました。そのときの印象は、結局、「ネーミングとかマーケティングに長けた学者だな」という程度のものでした。文明の衝突というのも、一つ、読者に訴えかける彼のネーミングのうまさの勝利であり、それが受け入れられる時流に乗った、ということなのでしょう。パネルディスカッションでの彼の話にはさほど感心しませんでしたし、彼に向けられた質問もうまくかわし、ほかの学者に振っているな、という印象でした。」
どうも人の評価というものはよく分かりませんが、そういうことも念頭に置きながらも、この本をお薦めします。
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Comments
昨年暮れ、ハンチントンが世を去りました。大変に惜しまれます。先日「丸山真男の日本論」(カテラ出版・2009年1月)を読んで気づいたことですが、ハンチントンは丸山真男に影響を受けていたのではないかと思えてきました。というのも、丸山真男が言う「無限の異化傾向」は、まさにハンチントンの「文明の衝突」状況ではないかと、この本の中で述べられていたからです。確か、丸山真男はハーバード大学で講義も行っているし、偶然とは思えず、何らかの影響を受けていたとしても不思議ではないと思います。
Posted by: 清美 | April 01, 2009 11:51 PM