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December 19, 2004

元首相の「自省録」

最近、本屋に中曽根元首相の「自省録」というものが並んでいます。私も昔、群馬県庁時代何度かお目にかかったこともあり、購入して読んでみました。

自民党に長年籍を置きながら、小泉総理の引退勧告を受け、不本意ながら政界を引退した異能の政治家が、2004年夏の参議院議員選挙の直前に、小泉総理のことを「国政全体を俯瞰する全体的な、歴史的な発想力が欠落している」と痛烈な批判を加える書き出しで始まる遺言のような本です。

「政治とは何か」、「政治家はどうあるべきか」ということが、自らの体験を踏まえ、切々と語っています。総理大臣の「一念」は「一種の狂気」だとし、いったんやろうと決心して火の玉のようになれば、大方のことはやれる、だからこそ、首相たるものは「権力の魔性を自戒」しなければならないとし、政治家が独善的な道に走らないための戒めを記しています。

国内政治、国際政治の様々な局面で出会った人物を観察し評価しながら、政治の要諦を書き記している本であり、内容的には重厚であり、政治家にありがちな、自画自賛や嘘があまりないように思えますが、この点は人により評価が異なるものと思われます。

人生における巡り会いは多々あるが、何時までも親しく往来する仲間の数は限られ、著者の場合はせいぜい60から
70人であり、その間を行き来しているうちに人生は怱忙として暮れてゆく、と書いています。80年以上の波瀾万丈の年月を過ごしてきた人物の、意外に淡々とした感想に、思わず読むものまで感傷的にさせられます。

国の最高権力者であっただけに、トップシークレットに近いと思われる記述も散見されます。以下の指摘の事実関係は、際物であり、今後の歴史家の研究に委ねられるものと思われます。

 ・キッシンジャーとハワイで会った時に、彼は「ロッキード事件は間違いだった」と密かに私に言ったことがある。キッシンジャーは事件の真相についてかなり知っていた様子だ。
 ・1970年に、実は日本の核武装の可能性について研究させたことがある。結論は当時の金で2000億円、5年以内
で出来る、というものだった。ただし、日本には核実験場がなかった。

東畑精一さんという今では懐かしい名前が紹介され、その先生が、「日本の指導者は政策がなかったり、曖昧な時は「改革」「改革」と言って騒ぐ」と言っておられたとの述懐は、思わず苦笑してしまいます。負けると判っていた藤山愛一郎さんを総裁選でおしたとき、「大義名分があり、主義主張が明確であれば、負け戦に荷担することも政治にはある」との真情の吐露も、心に迫るものがあります。イタリアのファンファーニ首相から聞いたとの法王の言葉、「二つの道があるときは厳しい方の道を選びなさい」の紹介などは、子供にも伝えたい人生哲学そのものです。そう言えば、狭き門より入れ、というアンドレジッドの本もありましたね。中国、韓国、日本の三カ国が定期首脳会議を行って東アジア経済協力機構を作るべし、との提言は、全くその通りだと思います。

我々も知っている時代の政治的トップの視座からの本音の披瀝であり、我々自身の体験や時代認識と照らし合わせて本の内容を検証できるのが、また愉しいものがあります。あと25年若ければ、もう一度、日本国総理を引き受けて欲しいと思うような人材であると思います。

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